連載 パンデミックに対応可能な安定操業 -石油・化学工場での自動化の課題と解決策-

第13回(最終回) 自動化,DX化課題のまとめと実施へ向けた進め方

1.はじめに

この2,3年間のコロナ禍にあって,少人数でもプラントの安全・安心な操業が継続できる方策として自動化やDX化(デジタルトランスフォーメーション,AI活用等)が捉えられました。また,働く環境の改善と人材確保の観点からも,DX化,自動化の視点は今後も重要な課題となってくると考えます。

本連載では,業務分野ごとに自動化,DX化の課題と解決策について述べてきました。

今回は最終回として,プラント操業での自動化,DX化について,これまで述べてきたもののまとめと,それを実現する上での今後の効率的な進め方について解説します。

 

2.オペレーション分野での自動化,DX化の現状の課題と解決策のまとめ

2.1 オンサイトボードオペレーションの自動化の課題と解決策

オペレーション分野における自動化,DX化の現状と課題,解決策の方向を表1にまとめました。


表1 プラントオペレーション分野での自動化,DX化の現状と今後の方向


この中で,大きな変革をもたらすキーとなる自動化はオンサイトオペレーションのボード操作で,「モード切替えの自動化と,オフサイト連携」です。

モード切替えの自動化の波及効果として,次の項目があり,本連載の第3~7回で解説しました1)。

・ボード操作(モード切替え)の自動化によるベテラン操作の標準化,少人数化

・ボード操作の近代化による人材確保への貢献

・モード切替えごとの締め処理と時間締めによるオンサイトオペレーションの計画実績比較の実現

・リアルタイムな操業情報(生産バランスを含めた実績管理)の見える化への貢献

また,オンサイトとオフサイトの連携したオペレーションについては,これまで電話連絡しながらボードの手動操作を行っていたものを,モード切替えの自動化により,連携した自動化を実現することが可能になります。

・オンサイトモード切替えに伴うランダウンタンク切替えの自動化

・チャージタンクの切替え時のオンサイト側での運転条件変更等の自動化

等がそうで,品質ロス削減等の効果を得ることができます。

モード切替えの自動化を実現する方策として,図1に示すようなシステム構成と仕組みを考えることができます。モード切替え指示は運転指示書(生産工程表)の中で示されるもので,その内容はパターン化することができ,したがって切替えシーケンスを自動生成することが可能となります。


図1 運転指示書とオペレーションを連携させる
モード切替え自動化の仕組み


この仕組みは「スタートアップ/シャットダウンの自動化にも適用できます。

モード切替え時の生産量管理,スタートアップ/シャットダウン時のスロップ量管理等を含めたオフサイトの実績管理との生産バランス管理の自動処理も実現することができます。

2.2 フィールド業務の自動化・効率化の課題と解決策

オペレーションでのシフト業務で,フィールドの業務には様々なものがありますが,今後は夜間のシフト業務でフィールド業務をなくしていき,無人化(交替宿直)していくのが目指す方向と考えます。働く環境と人材確保の視点からも重要な取り組み課題であると考えます。

その目標を実現する上で考え方,取組み方法を整理したものを図2に示します。


図2 フィールド業務効率化による,夜間フィールド無人化へ向けた対応策


図2に示した視点を物差しとして,業務分析を行いながら,改善に取り組むことで,必ずやフィールド夜間無人化が実現できるものと考えます2)。

 

3.操業管理(生産管理等)分野での自動化,DX化の現状と解決策の方向,まとめ

プロセス産業において,生産の計画/実績比較のオンライン管理ができていないのは,DX化としては他業界に比べて遅れた状況ではないでしょうか。ましてオンサイト/オフサイト(タンクヤード)との生産バランス管理も1日単位では見えるものの,時間単位でのリアルタイムな推移を見ることはできないのが現状です。 

オンサイトボード操作で,モード切替え自動化を実現し,生産実績でモード締め時間締めの処理することで,各製品の生産状況,各原料の投入状況,用役消費の状況等がリアルタイムに見える化でき,計画実績比較が可能となります。オフサイト連携も実現できるので,生産バランス管理も時間単位で自動化できます。

このことは,すなわち操業管理における垂直連携の強化を意味しており,操業管理PDCAがより迅速かつフレキシブルに変革することになります。

すなわち,操業管理情報をもっとスピードと精度を向上させてリアルタイムに見える化し,用役ロス回避,原料調達を含めた生産対応を実現することができます。このようなシステム環境を強化することがDX化のポイントと考えます。

図3には,操業管理システムのあるべき姿を示しました。これは現在存在する財務会計のための操業管理システムはそのまま維持し,データベースは共有化するものの,生産実績でモード締め,時間締めデータを追加する形となります3)。


図3 プラント操業における操業管理分野でのDX化の目指す方向


計画/実績の生産モード実績,生産状況の時間トレンドの見える化が主な情報処理となります。

図4には,各工場と本社の生産状況のリアルタイムな把握を実現したものとなります。


図4 DX化の目指す方向としての全社操業の見える化と需給情報センタ化


1つの工場の生産状況の変化や原料調達の状況変化をこれまでの日単位から時間単位にし,全社的に変化への対応をより迅速かつ柔軟に行えるシステム環境を構築することが,DX化の本来の目的となります。

4.設備管理分野でのDX化の視点からの問題点と解決策

4.1 設備管理分野でのDX化の視点からの問題点

プラントの静機械分野の設備管理スタッフの業務では,主にLABO分析値でプラントの流体内の腐食劣化因子(腐食劣化ストレス)を把握し,配管等の設備の減肉度合いを含めた腐食劣化の推定が行われています。

この場合のデータ収集作業に関しては,図5に示すように減肉測定データは検査情報システム,流体内の腐食因子分析データはLIMS(Labo. Information Management System),流速や圧力はヒストリアンシステム(PI,PHD,Exaquantum等)から収集しなければならず,かなり非効率な状況にあると言わざるを得ません。さらに面倒なことには,各種チャート類,たとえば硫化水素濃度による材料ごとの腐食率に関わる情報は紙のままです。減肉等の劣化を推定する業務は重要であるにも関わらず,いろいろなシステムや書籍からデータを入手しなければならず,情報システムによる支援はほとんど整備されてない状況となっています。


図5 設備管理分野でのDX化の今後の課題と解決策の方向


4.2 設備管理分野でのDX化のポイントとAI活用

4.1で述べた問題点に対しての解決策は,データの集約化/同期化と各種チャートのデジタル化(関数化)が有効であると考えます。

図5に見るように,腐食劣化に関連する変数データの集約化/同期化したDB(データベース)とは,運転データ,オンライン分析データは分単位,LABO分析データは数日間隔,減肉データは年間隔と異なったシステム内での異なった周期のデータについて,これらを時間軸で整合化して一元化することを意味します。こうすることでAIを含めた相関解析の効率を各段に向上させることができます。

各種チャートの関数化とは,これらをデジタル化することです。デジタル化が必要なチャート類の一部を例として表2に列挙しました。


表2 設備管理業務効率化のためのデジタル化(関数化等)が必要な
チャート,推定式の例(関数化してExcel上で活用)


このような解決策により,設備管理スタッフの業務の情報収集作業,腐食劣化減肉に関連する変数間の解析作業効率が各段に向上してきます。ここで解析・モデル化ツールとして,AIの活用も有効になっています。

またこの推定モデルを活用することで,計器室でのオンライン腐食劣化モニタリングシステムを実現することも可能となります。

なお,本件の詳細は,本誌参考文献4,5)を参照下さい。

 

5.プラント操業での自動化,DX化の効率的な進め方

自動化,DX化(デジタル技術活用)等を推進しようとする場合,社内で検討グループを立ち上げて,進めて行くやり方が一般的ではないでしょうか。そのような場合,いろいろな意見が出て,課題を洗い出し,何が効果的な課題なのかも含めて検討されていくと思われます。

そうした活動を効率的に進める方法として,コンサルタントの活用があります。

図6に自動化,DX化の進め方について,スケジュールの概要を示しました。最初コンサルタントを活用して,「プレリミナリーサーベイ(仮称;Eテックコンサル提供)」等の事前調査を実施します。そこでは,各部門のヒアリングを行い,現状,問題点,ニーズ等をまとめます。そこには「業務情報フロー分析」も入ります。


図6 コンサルタントを活用した工場での自動化,DX化の効率的な進め方


石油,石化,化学業界は工場のコンピュータライゼーションはかなり進んでいますが,このサーベイで,部門間の情報授受,垂直/水平の情報授受等に問題ある課題が浮き彫りにされることが期待できます。

このスタディ結果も検討グループの参考にして頂き,課題の優先度付けや具体的な進め方を議論して頂くと効率的に進めることができます。

課題の優先度付けができると,次は優先課題ごとにFS(フィージビリティスタディ)を行い,予算と期待効果を把握していくといった進め方を推奨します。

こうすることで,具体的に実施のための予算化ができていきます。

6.おわりに<連載を終えて>

13回にわたり,パンデミック対策を契機として少人数での安定操業のための自動化,DX化について,連載を続けてまいりました。

これも工業技術社の皆様はじめ読者の皆様のおかげと感謝しております。

また,本連載の関連で,参考文献6),7),8)につきましてもご一読頂ければ幸いです。

筆者の経験の中での今後必要なDX化を含めた自動化について私見を述べてまいりましたが,至らぬ点,分かりづらい点等あろうかと思いますので,皆様のご意見,ご要望等を頂ければ大変有難く存じます。

 

〈参考文献〉

1)本田達穂:「連載;石油・化学工場での自動化の残された課題と解決策」,第3回~7回,『計装』, Vol.65 No.8~12(2022)

2)本田達穂:「連載・第8回;夜間フィールド無人化を目指したパンデミック対策」,『計装』,Vol.66, No.3(2023)

3)本田達穂:「連載・第7回;モード締め,時間締めを活用した操業管理の革新」,『計装』,Vol.65,No.12(2022)

4)本田達穂:「実用的なプラント腐食汚れ予知予測支援システム実現へ向けた提案」,『計装』,Vol.64,No.3(2021)

5)本田達穂:「特別寄稿;プラントの高度保安と長期連続運転へ(新たな視点からのデジタル技術活用と自動化の課題)」,『計装』,Vol.65,No.1(2022)

6)本田達穂:「特別記事;石油石化プラントでの残された課題と解決策」,『計装』,Vol.64,No.7(2021)

7)本田達穂:「残された自動化の課題と今後の対応策」,『2020計装制御技術会議資料(日本能率協会主催)』

8)本田達穂:「IoT/AIを活用したプロセスオートメ―ションの将来像」,『計装』,Vol.63,No.1(2020)

Eテックコンサル 本田達穂


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