連載 パンデミックに対応可能な安定操業
-石油・化学工場での自動化の課題と解決策-
第9回 モード切替え自動化によるボード負荷軽減とパンデミック対策
1.はじめに
前回はモード切替え自動化の4つ目の波及効果として,「CO2管理を含むリアルタイムなエネルギー管理へ」について解説しました。
今回は,さらにもう一つの効果として,「モード切替え自動化によるボード負荷軽減とパンデミック対策」,すなわちボード操作の効率化による負荷軽減で,感染症等緊急事態でいざという時に,不足人員を補う少人数オペレーション体制について解説します。
2.ボード業務分析から見えてくる少人数オペレーションの方向
図1はボード業務を分析した結果をグラフで示したものです。業務としては,付帯業務や間接的業務等いろいろなものがありますが,主にはプラントの操作監視と言うことができます。この部分でボードオペレータの負担になっているのが,モード切替え時を含む操作・監視となります。装置へのチャージタンク切替え時にはプラントの運転調整操作が必要となり,手動操作が増加し,一番気を遣うところとなります1)。
図1のグラフが示す監視操作の中で,モード切替え等によるボードでの手動操作が大きな割合を占めていると言っても過言ではありません。
このことから,モード切替えの自動化はボード操作・監視の負担軽減に有効であることがわかります。以下にオペレータの必要人員の尺度を含めた定量的な手法について解説し,それが有効なパンデミック対策となることを示します。
3.ボード人員評価としての制御出力数
ボード人員が多いか少ないかを評価する指標として,ボード1人当たりが担当する範囲の装置の制御出力数(調節弁の数と言い換えることができる)というものがあります。連続プラントには流量/温度/液面等の制御が組み込まれており,定常運転では自己平衡型プロセスとして安定な状態を保持できる形となっています。したがって,調節弁の数というのは,装置の複雑さ/規模を表すのに適切な数値と言えます。
ボード1人がカバーする装置範囲内の調節弁の数(制御出力数)が多いほど,規模の大きな装置を受け持っていることになり,より少人数化したボード人員体制ということができます。
図2は,日本国内の主な製油所,化学工場のボード1人当たりが担当する制御出力数をグラフにしたものです。1990年代にDCSが導入され,計器室の統合化等が進められてきた時点での調査で,200~300出力数/ボードが平均的な値となっています2)。
さらにDCSの進化や計器室統合化等が進められてきて,2000年に入って以降,400~600出力数/ボードという事例が出てきています。しかし,多くは200~300出力数/ボードが現状と推察されます。
1人のボードオペレータがカバーする装置範囲を広げていくには,ボードオペレータのローテーションを含めた教育育成のステップが必要なことは言うまでもありません。 さらに,ボード業務でフィールド操作との連絡も負担となっており,フィールドでの現場手動操作やデータ読み込み記録作業等も合わせて自動化,機械化していく必要があります。 以下に,ボード操作の負担を定量的に表すため,ボード人員を評価できる指標について解説します。 4.ボード負荷を表す定量的な指標 4.1 EEMUAの指標 ボードオペレータの負担の度合いを表す指標として,表1に示すEEMUAの指標があります。アラームはオペレータにプラントの状況を知らせる重要な手段で,そのアラームを確認しプラントへのアクション操作を行います。このことから,ボード1人当たりのアラーム数の多さによってボードの負担の度合いを定義したものです3)。 表は「快適性のレベル」と1人当たりのアラーム数を示していますが,安全性を確保し,かつ攻めのオペレーションを行うためには,レベル4,5を目指す必要があることがわかります。日本国内ではこの指標が活用され,アラーム削減活動等を通して改善が行われてきた経緯があるのはご承知の通りです。 4.2 海外メジャーでのボード人員指標例 表2に某海外石油メジャーのボード人員指標を示しました。この表は,オートメーションレベルに対応して,実現可能な1人当たりが担当する装置の規模(制御出力数:Number of outputs)を示しています2)。 DCS等計装を含めた自動化レベルが高度になっていくほど,ボード1人当たりにかかる負荷も軽減されていくということは間違いありません。表2では,最新の計装システムと高度制御等の導入によって,1人のボードオペレータが経験的に300~380出力数/ボードまでの装置範囲をカバーできることを示しています2)。 4.3 定量的なボードオペレータ人員指標 DCSが進展していき,ボードからの手動操作数,頻度をDCSシステムからカウントできるようになりました。そこで,図3に示すように,アラームだけではなく,手動操作数を含めた,プラント安定度指標(Plant Stability Index)というものが提示されるようになりました1)。 このプラント安定度指標における超安定領域の意味を考えてみましょう。それは,EEMUAの指標の中でレベル5を実現できるようにしたものと言うことができます。言い換えると,ボード人員指標の超安定領域での出力数/ボードがEEMUAのレベル5となるようにしてあります。 すなわち,このグラフの超安定領域では,アラームと手動操作数が少ない状態であることから,400~600出力数/ボードが実現可能ということを示しています。
表1 EEMUA No.191アラームパフォーマンスガイドライン
表2 某石油メジャーでのオートメーションレベルとボード負荷目安
図3 プラント安定度指標と出力数/ボードの対応(ボード人員指標)
5.パンデミックでの操業継続の為のボードオペレーションの対応策
モード切替えの自動化によりボードの手動操作が減少し,結果として,通常運転において前述のプラント安定度指標が向上し,安定領域,超安定領域になってくれば,ボード負荷の観点から見た場合に少人数化オペレーションが実現可能な状況となってきます。
感染症等のパンデミックの事態に,シフト人員に欠員が出てプラントの安定操業が継続できない事態を避けるために,対策としてモード切替え自動化は有効な対策となってきます。日頃からパンデミックに備えて,ローテーション等のボードの教育と少人数体制でのオペレーションの訓練を行うことで,安全操業の継続が確保できることになります。
6.おわりに
今回はモード切替え自動化がもたらす効果の5つ目として,「モード切替え自動化によるボード負荷軽減とパンデミック対策」について解説しました。
日頃のボード負荷というものをプラント安定度指標で評価し,改善を加えていく活動は継続的に行われていくことが期待されます。こうした活動はプラント操業の安全性を増すことにも繋がります。また,このような活動推進にはコンサルタントの活用が一つの早道であることも付記しておきます。
次回は,「フィールド巡回監視の効率化によるパンデミック対策」について解説します。
〈参考文献〉
1)本田達穂:「連載講座:少人数化によるプラント操業の革新を目指して(第4回);ボードオペレーションの少人数化:第1ステップ」,『計装』,Vol.54,No.8(2011)
2)本田達穂:「連載講座:少人数化によるプラント操業の革新を目指して(第3回);少人数化指標と実行ステップ」,『計装』,Vol.54,No.7(2011)
3)EEMUA:Engineering Equipment & Materials Users Association, #191