連載 パンデミックに対応可能な安定操業 -石油・化学工場での自動化の課題と解決策-

第6回 オンサイト/オフサイト連携させたAPC(高度制御)とその経済効果

1.はじめに

前回は,モード切替え自動化の1つ目の波及効果として,タンク切替えのオンサイト/オフサイト連携した自動化(水平連携)とその経済効果について説明しました。

今回はモード切替え自動化の2つ目の波及効果として,オンサイト/オフサイト連携したAPC(高度制御),すなわち水平連携について解説します1)。

ここには,品質保証の考え方を変えることで,限界まで来ている石油精製での品質ロス(ギブアウェイ)回収のさらなる改善が期待されます。また,石化等においてもランダウンしながら製品を作り込む品質の戦略的アプローチも期待できます。

2.オンサイト/オフサイト連携のAPC(水平連携):石油精製での事例

図1に欧州の某製油所でのオンサイト/オフサイト連携したAPC(高度制御)の事例を示しました。軽油超深度脱硫装置での低サルファ軽油の製造にあたり,軽油ランダウンの性状をオンラインで制御するものです。この場合,製品タンク内のサルファ濃度,蒸留点等をリアルタイムに推定し,それをAPCの制御変数にして規格に張り付けるというもので,図1に示すような大きな経済効果を得ることができた事例です。


図1 オンサイト/オフサイト連携したAPC(高度制御)の事例


このシステムはタンク性状推定の機能は軽油タンクに限定して開発され,タンク切替え時には手動で対応する等運用を含めて,低サルファ軽油製造に特化したシステムとして開発されたものです。

3.限界まで来ているAPCメリットをブレイクスルーする品質保証の考え方の転換

通常のAPC(高度制御)は,装置ランダウンラインのオンサイト側の製造目標値(品質によって上下限が設定されている)を超えないようその上下限値に近づけるという制御を行っています。一般に,オンサイト側の装置出口での製造目標値は,品質管理規定等で製品規格値よりも安全サイドに設定されており,最終製品の規格外れを防止する考え方が取られています。

その様子は,よく図2の左側に示すように,APCの導入前後でのメリットとして,品質ロス(ギブアウェイ)を小さくする機能が描かれています。そしてこのメリットは長期にわたり発揮されてきて,これまで大きく経営に貢献してきました。


図2 高度制御メリットをブレイクスルーする品質保証の考え方の転換


しかし現状では,APCのような高度制御技術でこれ以上稼ぐには限界にあると言うこともできます。この限界を打ち破って,さらに品質ロス(ギブアウェイ)を改善するアイデアとして,現状の品質管理の考え方を転換する方法があります。

それは,図2の右側に示すような,タンク性状を推定しながら規格値を超えないように上下限に張り付ける考え方です。海外メジャーの製油所では低サルファ軽油生産事例やガソリン生産等に一部実施されていることが伺えます。

タンク内性状はランダウン性状の容量積分の結果と考えることができるので,オンサイト側での製造目標値がある場合,多少それを超えても修正が効くことから,オンサイト側での製造目標値は規格値そのものという考え方を取ります。タンクで最終製品を作り込めればよし,とする考え方です。

もちろんタンク推定性状のバラツキや精度の問題点はありますが,LABO分析との比較実績を積み重ねていき,そのデータを統計解析やAIを活用して精度改善を行っていくことは十分期待されます。

 

4.オンサイト/オフサイト連携のAPCの今後の方向

図3に,タンク性状推定値を目標にしたオンサイト/オフサイト連携のAPC(高度制御)の今後の方向として,石油精製での例を示しました。


図3 これからのAPC:オンサイト/オフサイト連携した高度制御(水平連携)


オフサイトタンク内の最終の製品性状をオンサイトの製造装置側へフィードバックするAPCがこれからの方向として期待されます。

図3に示す常圧蒸留装置のほかに,FCC装置 (流動接触分解装置),リフォーマ装置(接触改質装置),その他二次装置の反応塔や蒸留塔の運転目標へのフィードバックが考えられ,経営に貢献できる次のAPCの課題となるはずです。

 

5.オンサイト/オフサイト連携の自動化のキー:モード切替え自動化とTQトラッカー

これまで解説してきたことを総合しますと,モード切替えの自動化のためのワーク管理システムと,前号で説明したTQトラッカーの機能を合せることで,一貫したシステム構造の元でオンサイト/オフサイト連携した自動化を構築し,前進させていくことができます。

オンサイトワーク管理システムを起動させ,オフサイト運転管理システムへ信号を送り,タンク切替えの自動シーケンスを走らせ,タンク切替え後,ランダウン(受入)開始のタンクは,TQトラッカーでタンク内性状推定を開始し,切替えで受入終了したタンクは,通常通りLABO試験を待ち,その値をオフサイトシステムから受取り,タンク推定性状の補正を行う,という流れになります。

TQトラッカーの受入れ中タンクの性状推定値は,APC(オン/オフ連携)の目標値として活用できる仕組みを付加すれば,容易にオンサイト/オフサイト連携したAPCへ接続できるようになります。(図4)


図4 オンサイト/オフサイト連携のキー: モード切替え自動化とTQトラッカー


6.オン/オフ連携のAPCによるボード操作の効率化,パンデミック対応への貢献

ここまでに示してきたモード切替えの自動化,TQトラッカーをキーとしてオフサイト運転管理システムを含めた自動連携システムは,オンサイト/オフサイトのボード操作を大きく効率化することができます。

これまでのボードの手動操作がほとんどなくなり,オンサイト/オフサイト間の電話連絡も必要なくなるわけですから,負担が軽減され,その分より付加価値の高い業務が期待されます。

また,パンデミック時にはオンサイトのボード人員のより少人数化したオペレーション体制の実現が期待されます。その詳細は連載後半で解説する予定です。

7.おわりに

今回は,モード切替え自動化の2つ目の波及効果(水平連携)として,オンサイト/オフサイト連動したAPC(高度制御)について,その構築方法と経済効果(メリット)について述べました。

欧州某製油所の軽油超深度脱硫装置でのタンク性状を推定しながらオンサイトのオペレーションへフィードバックするAPC(モデル予測制御)の事例をヒントにして,このような連携したAPCシステムが今後必要となることを述べました。APCも現段階でさらなるメリットを得るには限界に来ており,これをブレイクスルーしてさらなる品質ロス(ギブアウェイ)を削減していく方法として,品質管理の考え方を転換することを提案しました。

また,これらオンサイト/オフサイト連携したAPCを個別に構築するには非効率的であり,構築しやすいシステム環境として,モード切替えの自動化を実現するワーク管理システムとTQトラッカー(オンラインのタンク性状推定システム)を組み合わせて活用するシステム環境を提示しました2,3)。

次回は,モード切替え自動化の3つ目の波及効果(垂直連携)として,「モード締め/時間締めを活用した操業管理の革新」について解説します。

〈参考文献〉

1)本田達穂:「残された自動化の課題と今後の対応策」,『2020計装制御技術会議資料』(日本能率協会主催)

2)本田達穂:「特別記事;石油/石化プラントでの残された自動化の課題と今後の方向」,『計装』,Vol.64,No.7(2021)

3)本田達穂:「特別寄稿;IoT/AIを駆使したプロセスオートメーションの将来像」,『計装』,Vol.63,No.1(2020)

Eテックコンサル 本田達穂


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