連載 パンデミックに対応可能な安定操業
-石油・化学工場での自動化の課題と解決策-
第5回 タンク切替えのオンサイト/オフサイト自動連携とTQトラッカー
1.はじめに
前回は,連続プラントにおけるオンサイト(連続プラント)ボード操作でのモード切替え自動化に関して,実現のための具体的な方策,手法について解説し,既存の情報制御技術を活用して実現可能であることを説明しました。
今回は,オンサイトワーク管理システムによるモード切替自動化の実現による波及効果の1つとして,前回少し触れたオンサイトとオフサイト(タンク/入出荷設備)システムとの自動連携(水平連携)があり,これについて詳細に解説します。
オンサイトワーク管理システムでのモード切替えが自動化されると,オフサイトシステムでの装置関連のタンク(通油タンク,ランダウンタンク)切替えのジョブシーケンスと連携することが容易に可能となります。現在相互に電話連絡での操作となっていますが,お互いのシーケンスを連結させることで全体の自動化が実現でき,省力化,操作の標準化,ロス削減等の効率化につながることを解説します1,2)。
また,この操作の連携には,受入中のタンク性状をオンラインで推定するシステム(TQトラッカー:仮称)が有効で,その提案と機能概要,期待効果についても説明します1)。
2.タンク切替えのオンサイト/オフサイト連携自動化による品質ロス
図1にタンク切替えの際に発生するパイプライン内の流体性状に起因する品質ロスの概要を示しました。そこでは,切替えによるロスが発生しており,そのロスをオン/オフ自動連携制御によりミニマムにすることができます。
2.1 品質ロスとは
石油等でのプラントで原油(石化の場合分解ナフサ)を分留して製品を作る場合,分けられた各留分の価格(付加価値)は異なってきます。
たとえば,石油の場合一般的に,
ヘビーナフサ(ガソリン用)>ジェット燃料>灯油>軽油>重油
の順に価格が減少します。
分留する各製品間の蒸留点をカットポイント(カット温度)と呼びます。通常,軽質油から重質油への混入は製品規格として安全サイド(セーフ)となりますが,重質油から軽質油への混入は製品規格が外れる要因となり,一般的にはそれを避けるように,価格的にはロスが発生するものの品質の安全性を考慮した運転調整が行われます。すなわち,高価格製品から低価格製品への混入を許容することで,製品の規格外れを防止できますが,同じ原料から取れる高価格製品が少なくなるので,その分品質ロス(付加価値損失)となるわけです。
2.2 ランダウンタンク切替えでの品質ロス
図1の上部には,石油精製での灯油/ジェット燃料タンクの切替え例を示しています。製品としての灯油とジェット燃料は,原油から取れる灯油留分の範囲に属し,ジェット燃料は規格に基づき灯油よりも軽くなるように,常圧蒸留装置でのカットポイント温度の運転調整を行います。価格はジェット燃料が高いので高付加価値製品となります。
このような場合のタンク切替えでは,同じランダウンライン内での両製品の混合(コンタミネーション)が起こってしまいます。
ジェット燃料に重い留分が混入すると,フリージングポイント(析出点温度)等の規格外れ要因となってきますので,タンク切替えでの留意点となります。すなわち,常圧蒸留装置で灯油モードからジェットモードへの切替え運転調整がある場合,ランダウンラインがジェット燃料で満たされるまで,灯油タンクへのランダウンを続け,ラインがジェットに置換して満たされた後,タンクを切替えます。灯油留分にはジェット燃料が混入しても灯油が規格はずれになることはないので,安全サイドに時間を取ってジェット燃料を灯油にランダウンさせることが行われています。
逆に,常圧蒸留装置でジェットモードから灯油モードに切替える運転調整操作を開始したら,灯油がタンクに到達するより早めにジェットタンクから灯油タンクへ切り替える操作が行われ,ランダウン配管内の多くがタンクに到達する前に灯油側タンクへ切替えられます。
ジェット燃料の方が灯油よりも付加価値が高いので,ジェット燃料のロス(灯油に混入する量)は最小にする方が経済的ですが,品質安全の観点から,切替えが早めに行われるのが通常で品質ロスが発生しており,その大きさは連携操作のタイミングや人によって違ってくるのは致し方ありません。
2.3 チャージタンク切替えでの品質ロス
図1の下部は,石油精製での常圧蒸留装置への原油チャージタンク切替えの例を示しています。原油タンクの中の原油の性状(種類構成比)はタンクごとに異なります。チャージされてくる原油の性状が変化すると,常圧蒸留装置では規格に合致した各ランダウン製品を分留するために,運転調整を行う必要があります。
原油タンクが切り替わると,原油が装置まで到達するのに時間を要し,原油性状の変化が時間と共に発生します。そこで製品規格外れを防止する観点から,チャージ配管内が次の原油タンクの油種に置き換わるまで,各留分間のカット温度(蒸留点温度)を規格の安全サイドへと早めに運転調整を行うことが行われています。規格の安全サイドとは,高価格製品と低価格製品間のカットポイント(蒸留塔の分留温度)を高価格製品側寄りにすることを意味します。これがすなわち品質ロスとなります。
現状でのこうしたチャージタンクの電話連絡による手動的な切替え操作では,人による切替えのタイミングの違い,操作のやり方の違い等があり,ロスが発生しているのは,やむを得ないことかもしれません。
しかし,オンサイトモード切替え自動化を実現するワーク管理システム(仮称)ができれば,オフサイトシステムと連動した自動化を容易に構築することができ,切替えの標準化,最適化が期待できます。
3.オンサイト/オフサイト連携によるタンク切替えの自動化とその期待効果
3.1 切替え操作の連携した自動化システムの構築方法
図2は,オンサイトワーク管理システムとオフサイトシステム(運転制御)が自動的に連動して,ランダウンタンク切替え自動化におけるオン/オフ情報連携の姿を示しています。
オンサイトワーク管理システムでモード切替え操作(ワーク)を自動シーケンス化できれば,オフサイトシステムでは運転操作がジョブとして自動化できているので,この2つを連動させることは難しくありません。
オンサイトワーク管理システムで,チャージタンク切替えのワークのスタート操作を行うと,その信号はオフサイトシステムへ送られ,オフサイトシステムでは,タンク切替え操作の自動シーケンスが走ります。切り替えたタンク内の油等の流体が装置まで到達する時間,すなわち設定された時間(パラメータとして変更可能)の後,オンサイトワーク管理システムでは運転調整変更等のモード切替え操作を自動的に行います。このパラメータ(時間設定)を調整することで,操作の標準化とロスミニマムが実現できます。
3.2 オンサイトモード実績の自動採取
また,オンサイト側のチャージタンク切替え実績としては,現在手動で流量計の値(積算値等)をDCSから読取り,手動で記録されています。これが自動連携することにより,流量計の積算値を切替えのタイミングで自動的に読み取ることで,モード切替え実績値をシステム化することができます。この流量積算値は,新しく切替えられたチャージタンクからの流量積算値チャージ実績の開始値として,次の締め処理に備えることができます。
現在,オンサイト側で自動採取されているのは,日締めデータのみとなっています。現在モード切替えのオンサイト流量計の締め処理値が手動であるため,オフサイト側のタンク実績とのマテバラチェックは人手で行われています。DX化の時代に,こうした手動部分は優先的に自動化していく必要があるのではないでしょうか。
3.3 オン/オフ連携したタンク切替え自動化による期待効果
タンク(チャージ,ランダウン)切替えについて,オンサイトとオフサイトのボードオペレータの電話連絡による手動操作から自動連携にすることにより,次のようなメリットが期待されます。
(1)人による操作のバラツキ,タイミングの違い等から自動化することによって操作が標準化され,より少ない最適な切替え時間が実現可能となります。
(2)その結果,石油精製では品質ロスの削減として付加価値を生むことができ,合わせて省エネルギー等の効果も期待されます。また,石化等ではタンク内品質のリアルタイムな管理による品質の戦略的な操業が期待できます。
(3)モード切替えのリアルタイムな実績データの締め処理によって,現在手動で行われているタンクと装置間のマテバラチェック作業の自動化も実現できます。
(4)その他
このモード締めは操業管理PDCAのリアルタイムな見える化やプラント解析の精度向上,用役管理のリアルタイムな見える化等の実現へのキーポイントでもあり,これらの内容の詳細は次回以降で解説することにします。
4.TQ(Tank Quality)トラッカーのご提案
4.1 タンク性状推定の現状
現状のオフサイトシステムにおいては,タンクが受入中になった時点で,タンク性状はシステム内で強制的に不明の状態になります。ランダウン等の受入が終了した時点ではじめてタンク内液のサンプリングを行い,ラボ試験の結果を入力することで,タンク性状を得ることができます。
そこで,受入中のタンクのリアルタイムな性状把握を行う仕組みが期待されます。方法として,図3に示す計算方法があります。この方法は従来から存在し,ブレンド生産等に部分的に活用されていますが,装置ランダウンの受入れ中タンクにはまだ活用されたことはありません。
4.2 TQトラッカー(受入中タンクのオンライン性状推定システム)の仕組み
タンク性状を見ながら作り込む考え方は一部導入されてきてはいますが,工場全体の受入れ中タンクに対応し,自動的に推定を開始,終了することが可能なシステムが望まれます。ランダウン終了後のタンク内ラボ試験結果から補正を加えながらタンク性状推定精度を向上させていく機能を設けることで推定の信頼性が増してきます。このような機能のタンク性状推定システムを“TQトラッカー”として提案したいと思います。
その情報連携の動作の仕組みを図4に示しました。すなわち,オンサイトワーク管理システムがオフサイトシステムと自動連携し,ワークとジョブの起動停止信号を捉えることで実現します。ワーク開始で,オンサイトのランダウンラインの流量計と分析計(または推定性状)を読み取り,積分計算することで,自動的にタンク性状推定が始まり,ジョブ終了で推定が完了する仕組みです。
ランダウン終了後は,従来通りタンク内液のサンプリング,ラボ分析が行われ,オフサイトシステムにタンクの性状データとして入力されます。その性状データをTQトラッカーに送り,推定性状との差を補正ファクタとして学習していくことで,オンラインの推定性状の精度を向上させていくことが期待できます。
4.3 TQトラッカーの期待効果
TQトラッカーによって,次のようなメリットが期待されます。
(1)工場全体の品質ロスのリアルタイムな見える化
ランダウン中のタンク性状を見える化することは,オンサイト側で品質ロスを少なくする運転調整の改善アクションに繋がります。これまで,タンクランダウン作業が終わるまでタンク内の品質ロスの程度がわからない状態でした。しかし,タンク性状を見ながら作り込み見える化することで,オンサイト側の運転調整の改善アクションが生じてくるはずです。
(2)タンク性状推定と連動したオンサイトAPC
最終製品であるタンク性状を制御目標にして,品質ロスミニマムになるようオンサイト側のAPCを調整するオンオフ連携APCが期待されます。本件は次号以降で解説を予定しています。
(3)TQトラッカーからのデータ転送
生産管理業務でスケジューラの入力は手入力が多くあります。その中に受入中のタンク性状もあり,現在スケジューリング担当エンジニアは,過去のタンク性状値の代表的な値を手入力しているのが実情です。そこで,TQトラッカーからデータを転送する仕組みを作れば,作業の手間が省けるだけでなく,スケジューリング精度向上に役立てることができます。
(4)TQトラッカーの課題と解決策
タンク性状推定での課題として,ランダウンラインのオンライン分析計(またはオンライン性状推定)の精度,信頼性が懸念されます。また,タンク内の上中下での性状のバラツキがあることも事実で,タンク内性状を確定するための現在の手法(タンクを受入れ終了後,ミキシングした後の上中下サンプルをラボ試験に出し,その結果の平均値をタンク性状とする)に頼らざるを得ない状況があります。
しかし,最近のAIやデータ解析,推定技術の進歩でこの状態を打ち破ることができるのではないでしょうか。それは,タンク内性状推定値と最終的なラボ試験平均値とのデータを蓄積していきながら,補正精度を向上させていく方法です。
5.おわりに
今回は,水平連携の一つの事例として,タンク切替え(チャージ,ランダウン)においてオンサイト/オフサイトの連携した自動化の具体的な仕組みとその期待効果について述べ,合わせてランダウン等受入中のオンラインタンク性状推定システムTQトラッカー(仮称)について機能と仕組み,メリットについて解説しました。
次回は,「オンサイト/オフサイト連携させたAPC(高度制御)とその経済効果」について解説します。
〈参考文献〉
1)本田達穂:「残された自動化の課題と今後の対応策」,『2020計装制御技術会議資料』(日本能率協会主催)
2)本田達穂:「特別記事;石油/石化プラントでの残された自動化の課題と今後の方向」,『計装』,Vol.64,No.7(2021)