連載 パンデミックに対応可能な安定操業
-石油・化学工場での自動化の課題と解決策-
第4回 モード切替え自動化の実現可能な仕組みと手法
1.はじめに
前回は,自動化に関する国際規格の動向からの連続プラントのボード操作自動化の新しい視点として,モード切替えの自動化がキーポイントであることを示しました。それによって工場の生産管理業務の改善・改革の方向性について解説しました。
今回は,そのモード切替えとは実際にどんなものがあり,その自動化の具体的な仕組み,手法はどうなるのかについて述べ,それが決して難しいものではなく,現在の情報技術の進展の中で,既存の技術を活用して十分実現可能であることを示します1,2)。
2.モード切替えの種類(石油,石化を例に)
図1に,連続プラントのモード切替えの具体的な種類,項目について,石油・石化工場を例に列挙したものを示します。パターンが類似しているものとして大きく分類すると,次の4つのグループに分けられます。
・チャージ量変更
・チャージ(フィード)タンク切替え
・運転条件変更・その他(スロップ切替え,ボンド運転等)
これらは装置が決まれば,操作する計器,操作の内容は決まってきます。そうすれば,容易に具体的な操作手順をモジュール化(パターン化)できることが理解できます。
3.モード切替え自動化の仕組み,手法
図2に,モード切替え自動化の具体的な実現手段として,オンサイトワーク(Work)管理システム(仮称)の機能概要を示しました。ここでは,モード切替え操作のことをワークと呼ぶことにします。オフサイトでのジョブに対応したものとなります。
スケジューラからの出力情報は,オペレーションモード切替え(ワーク)の数値目標として必要な運転目標値(性状,収量等)が,一旦操業管理システムへ送られます。
これらのスケジューラからの情報をオンサイトワーク管理システムが受信し,分類されたモジュールにより,自動シーケンスレシピを生成させます。各装置によって,分類されたモジュール内には操作すべき計器類,操作の方向が決まっているので,それらがテーブル化されたものから自動シーケンスレシピを生成できるわけです。この手法はオフサイトシステムのジョブシーケンスを自動生成させる仕組みと同じ方法を取ることができ,既存の技術を活用して十分実現可能です。オフサイトでジョブシーケンスを自動作成するのと同様に,オンサイトではワークシーケンスを自動作成します。
モード切替えのシーケンスレシピが生成されたものはワークレシピとなります。これらをそのまま自動で走らせるのではなく,一旦オペレータがその内容について問題ないことを確認するステップは必要となります。
スケジューリング結果にはモード切替えの日付と時刻が含まれます。
ワーク管理システムは,時刻が近づくと,お知らせアラームとして異なった音色の警報を発して,オペレータに注意を促し,運転画面にモード切替えシーケンスレシピの内容と予定時刻を表示し,オペレータに承認を求めます。
図3にはオフサイトシステムとのイベント情報の連携が示されていますが,フィードタンク切替え等のワークの場合はオフサイトシステムと連携して自動化するという一歩進んだ効率化が実現可能で,本連載で取り上げて解説する予定です。
4.モード切替え自動化の具体例
実際のモード切替えの具体例として,「運転条件変更」で,製油所でのReformer(接触改質装置)のオクタン価(RON値)目標値切替え,「チャージ量変更」で,某装置のチャージ(フィード)量変更,および製油所での常圧蒸留装置原油タンク切替えの例について,説明します。
4.1 Reformer装置オクタン価切替えの自動化
Reformer装置では,レギュラーガソリン用の80オクタン(RON)からハイオクタンガソリン用の100オクタンの切替え運転を定期的に行っています。その切替え計画がスケジューリング結果から得られます。切替え目標オクタン価(RON値)と切替え時刻の情報に従って,モジュールではAPC(Advanced Process Control;高度制御)のRON目標値のランピング制御シーケンスが生成されます。
APCは通常RON目標値に応じて反応塔各段の温度,すなわち温度プロファイルを自動的に調整し遷移させる機能を有していますので,モード切替え(ワーク)のシーケンスはAPCに対してのRON目標値をランピング的に遷移させるという簡単なものとなります。このことはとりもなおさず現在のオペレータの操作に外なりません。
APCがない場合は,過去のオペレータの操作のように,反応塔各段の出口温度目標値のランピング制御シーケンスが生成され,DCSの計器へ指示を送る形になります。
前述のように,日程時刻近くになればお知らせアラームを発し,オペレータの承認を得,シーケンスをスタートさせることになります。スタート後はプラントの遷移状況を監視するというオペレータの役割は現状と変わりはありません。しかし,従来は細かく段階的に目標値を変化させていたものがスムーズなランピング出力となれば,切替えのスムーズ化,操作の標準化,時間短縮による品質ロス削減,省エネルギーなどのメリットが期待されます。
4.2 装置チャージ(フィード)量変更の自動化
工場内のほとんどの装置は,スケジューリングによって定期的にチャージ量変更が指定されます。その場合,モード切替え指示としては,フィード量の目標数値(KL/D)と切替え日程,時刻が含まれます。
装置によってチャージ量調節用の流量制御機器は決まっていますので,ランピング制御のシーケンス生成はモジュールによって実現可能となります。
切替えのスムーズさにより,個人差による切替え時間の差等が解消され,品質ロス改善等につながることが期待されます。(図4)
4.3 常圧蒸留装置での原油タンク切替えの自動化
製油所でのモード切替えで一番難易度の高い原油タンク切替えの自動化は実現可能か心配されるところですが,図5のように考えると可能となります。
常圧蒸留装置にはAPC(高度制御)が導入されている場合がほとんどです。そこで,APCに対して新たな目標値を与えることで済むことになります。しかしながら,タンク切替えに伴う原油タンク性状の変更で,APCのパラメータを変更し再調整する必要があるという,問題点は引きずったままです。
この問題点は図5に示す「APCパラメータサブシステム」を用意して,次のパラメータ目標値を事前に把握します。すなわち,パラメータそのものも切替えの対象にすることで,連続運転しながら運転調整を終わらせることができます。カットポイント,収率等の目標値と合わせてランプ状に「状態1」から「状態2」へ向けて遷移するシーケンスによって,原油切替えに伴う運転調整を自動化することが可能となります。
APCパラメータサブシステムは,過去の原油タンク性状と変動後のパラメータ実績を解析し,原油タンク内TBP(True Boiling Point)カーブとの相関からAPCパラメータを推定するものです。本件の詳細は別紙に譲ることとし,ここでは割愛致します。
5.モード切替えによる状態遷移中の監視のシステム案について
モード切替えは,状態1から状態2への状態遷移として一般化することができます。その操作を自動化しても,状態遷移中の異常の監視はオペレータに委ねられることに変わりありません。
状態遷移中では,オペレータはどんな監視をしているかを考えてみます。図6に,チャージ量変更というモード切替えで,状態遷移中の加熱炉廻りについてのオペレータの監視内容を示しました。
チャージ量を増加するような設定を行うと,加熱炉出口のTIC(温度調節計)が働き,燃料や空気量,排ガス温度等が増加するように働くはずだという経験的な動きを人は知識として有しています。現状の動きがこの知識に基づく予想と合致しているかどうかを確認しながら,チャージ量設定の段階的な増加の操作を行っていきます。これは,取りも直さず遷移中の加熱炉廻りのヒートバランスが崩れていないかをチェックしていることと同じであると言い換えることができます。
オンラインでのヒートバランス監視であれば,図5に示すようなエネルギーバランス式,すなわち,
Qi-Qo+Qg+Qa+Qh-Qf=<Min
となるよう維持できているかどうか,最小値(Min)を超えれば警報を出すような仕組みを考えることができます。ただし,計器の異常による不具合も含めて監視するには,遷移中の各Q同志のパターンが同じであるかどうかをチェックする必要があり,その点についての解決策は別紙に譲ることにします。
ヒートバランスチェックでは,Excelアドイン関数“HEAT”を活用することで容易にシステム化できますので一つの案としてここに示しておきます3)。このような仕組みはモード切替え自動化に合わせて組み入れることで,より安全でオペレータの監視の負担を軽減することに繋がります。
6.おわりに
今回は,ボード操作の自動化のキーとなるモード切替えについて,その種類例と実現のための具体的な仕組み,手法について解説しました。既存のオートメーション技術で十分実現可能であることも分かりました。また,モード切替えは状態1から状態2への状態遷移と解釈することができ,遷移中の監視の手法としてヒートバランスチェックが有効で,1つの方策であることを述べました。
次回は,「モード切替え自動化の波及効果(1):オンサイト/オフサイト連携(水平連携)の自動化」について解説します。
〈参考文献〉
1)本田達穂:「残された自動化の課題と今後の対応策」,『2020計装制御技術会議資料』(日本能率協会主催)
2)本田達穂:「特別記事;石油/石化プラントでの残された自動化の課題と今後の方向」,『計装』,Vol.64,No.7(2021)
3)本田達穂:「連載 長期安定操業への新たな実践的データ活用法:第8/9回加熱炉熱精算の問題点と効率的実施法(Part1,Part2)」,『計装』,Vol.63,No.9/10(2020)