連載 パンデミックに対応可能な安定操業 -石油・化学工場での自動化の課題と解決策-

第3回 ボード操作自動化の新しい視点とキーポイント

1.はじめに

前回はオンサイトプラント(連続プラント)の自動化の現状をボード操作とフィールド業務を含めて整理し,それらについて考察を加え,主な課題として,ボード操作でのモード切替え自動化,フィールドでの薬品関連操作の自動化等があることを述べました。

今回は,それら課題の中でボード操作に注目し,自動化に関する国際規格の動向からの新しい視点,ヒントについて述べます。そして,ボード操作の中でモード切替えの自動化がキーポイントで,その波及効果として,工場の生産管理業務改善,すなわち垂直連携でのリアルタイムな計画実績比較等の方向性,可能性について解説します。

 

2.自動化関連国際規格の動向からの気づき

図1に,バッチプラント自動化規格が,連続プラント自動化規格へ波及しつつある状況を示しました1~5)。


図1 バッチプラント自動化規格の連続プラント自動化規格への波及


ISA88にバッチプラントの自動化規格があることは知られています。あるパターン的な操作手順で進むプロセスを自動シーケンス化することは容易に想像できますが,その中に重要ポイントがあります。それは,図1に見られる「Create Control Recipe」すなわち,スケジューリング情報から制御レシピを自動的に生成させる部分です。

このバッチプラントの規格における生産計画情報から自動シーケンスまでの情報連携機能を連続プラントにも適用しようとして,ISA95ではTR106に規格化がされつつあります。

そこには,上位の生産情報から下位の制御機器操作に至る連携の基本的な考え方が示されていますが,一般化されているので,階層が多く,プラントによって階層を省略できるという記述があります。この規格の階層に対応して,石油・化学等の連続プラントの操業形態をイメージして,図2に生産情報の流れを示しました。


図2 連続プラント自動化規格(ISA-TR106)情報の流れと石油・化学ケース対比


この比較から気になる点は,石油・化学等の連続プラントでは,生産スケジューリング情報(モード切替え情報)によって制御情報が自動生成されているのか,また実績情報としてスケジューリング情報に対応して実績が収集されて計画実績比較ができているのか,という点です。ここから自動化の課題として,生産計画/実績における垂直連携の自動化という視点が出てきます。

3.生産情報での垂直連携の現状

製油所の例で,生産情報での垂直連携の視点から現状はどうなっているのかを示したのが図3です。石油化学等の連続プラントでもこの状況はほぼ同様であると考えられます。

3.1 生産指示情報の流れでの情報連携の現状

図3の左側に示した流れが,月間生産計画(LP:Lenear Programingの出力)から日々の生産スケジュールを作ったスケジューリング結果をオンサイト運転部門のボード操作に移していく情報の流れです。


図3 生産計画情報と制御情報,実績情報の流れの現状(製油所を例に)


 

図3からわかるように,スケジューリング結果は紙または電子ファイルで運転部門に送られます。スケジューリング結果とは,運転条件の変更や原料切り替え等モード切り替えの運転指示が記載されたものです。

ここでオンサイトとオフサイトで情報連携の状況は異なるので,個別に現状を解説します。

(1)オンサイト(連続プラント)での垂直連携

オンサイトでは,人(ボードオペレータ)がスケジューリング結果である運転指示情報(モード切替え情報)を理解して,直接DCSの単一機器の操作を行っているのが現状です。すなわち,垂直連携がボード操作の部分で切れているのが現状です。

(2)オフサイト(タンク/入出荷設備)での垂直連携

オフサイトでの自動化は世界的に見ても進んでいて,垂直連携がほぼできていると言えます。すなわち,スケジューリング情報で装置関連のタンク切替え作業,荷繰り計画から出てくるタンク間シフト,ブレンド生産作業,オーダから出てくる入出荷作業の全てを「ジョブ」として定義し,from/to情報が決められるので,パイプラインルート決めは自動的に探索され,ジョブ開始指示後はジョブ終了まで完全自動化がなされています。

オフサイトではジョブの予約が一部自動であるものの人手によるところが多いので,この部分の自動連携を強化する課題が残されていますが,自動登録したとしても人による確認,修正というステップは外せないものと考えます。

3.2 生産実績情報の流れでの情報連携の現状

さらに図3には,生産実績情報の流れも示しています。

(1)オンサイト生産実績情報の上位伝送の現状

生産指示がシステムで自動化されていないので,それに対応した実績を上位システムへ送ることはできません。

現状では,図4に示すように,各装置の各プロダクトラインの流量計に対して単純に1日1回の定時締め処理(0時等)がなされ,これが生産実績として上位システムへ送られています。これは財務管理システム(ERP:Enterprise Resource Planning)が必要とする必要かつ最低限の情報ですので,過去紙テープで送っていた時代から変わっていないのが実態です。


図4 生産実績データ収集の現状:締め処理の現状(オンサイトは日締めのみ)


このため,情報システムをいかに最新のものにしても,生産状況の把握が時間レベルでできないだけでなく,運転状況がモードというパターンとして監視できていないほか,モード別の生産実績も把握できていないのが実情です。現状の操業情報システム更新では,お金をかけて刷新したわりには何の業務の質の向上にもなっていないというわけです。

これに対して,業務効率化,操業効率向上等に結びつく実績情報のあるべき姿を図5に示しました。図に示すように,モード締め,時刻締めの実績情報が示されています。これがあって初めて,生産計画の精度向上とリアルタイムな計画実績比較が実現できることになります。


図5 オンサイト実績データ収集のあるべき姿(モード締め,時刻締め)


以上述べたことから,生産情報の垂直連携/リアルタイム化での課題の要約を図6にまとめました。


図6 生産情報の垂直連携/リアルタイム化での課題のまとめ


4.なぜ今まで放置されたのか

これまでの生産活動において,上位システムからの計画情報(スケジューリング結果)に対応して生産実績を送ることができるようにするという基本的なことがなぜ置き去りにされてきたのか,なぜ財務会計用の実績しか得られてこなかったのか,についてはそれなりに理由があるのも理解できないわけではありません。

以下にその理由を挙げてみます。

・第一の理由は,モード切替え操作自動化という観点では,ボードオペレータの負担があまり大きくなく,少人数化につながるほどでもなく,切替えによるプラント変動に対するベテランの役割が期待され,それなりに能力を発揮してきたということが考えられます。

・次に,操業管理システムとして構築されてきたものは,財務会計用としての目的が第一で,税務処理をはじめとする各種帳票類の自動作成,リットル(ℓ)単位まで合わせる必要があり,実績データの後戻りしての数値調整機能等々,それなりに高度化し発展してきた部分があり,操業状況のリアルタイムな見える化という観点は少なかったと考えられます。

・また,現操業管理システムは,受注システムオーダ管理システムからの入出荷予約情報との連携,タンク在庫,外貨/内貨情報,性状データを含む膨大なシステムとなっており,それなりに独立して作業効率化の価値を有する生産実績システムとなっていることは否めません。

・そこで,生産管理におけるPDCAのための見える化,管理精度を向上させる実績データという観点は抜け落ちてきたというのが正直なところではないでしょうか。

・また,生産のPDCAとしては1日に1回把握できれば,製油所の生産活動として通常であれば問題なく維持できるという認識で,生産バランスはタンク容量の把握を見ることでそれほど問題にはならない,という面があったことも事実です。

5.なぜ,さらなる見える化,迅速化が必要か

昨今,石油,石化製品の需要減少の流れの中で経営改善,競争力強化の必要性が増してきています。その中で自動化,情報化が果たす役割は,より迅速かつ柔軟な生産対応を実現することにあります。

モード切替えをキーとした生産情報の垂直連携によるリアルタイムな見える化は,これを実現できる唯一の方策と考えます。そして工場と本社を総合して連結することにより,原料調達の柔軟性,生産トラブルへの迅速な調整対応,過剰在庫への対応,現地買いの削減,余裕を見ての過剰船便転送の削減等々,より大きなコスト低減の可能性を追求するべきではないでしょうか6)。

 

6.おわりに

今回は,自動化に関する規格の動向からの連続プラントの自動化において,モード切替え自動化がキーポイントで,工場の生産活動の中での計画/実績比較,生産計画精度向上,リアルタイム性の向上(日から時間へ)においてもモード締め,時刻締めの重要性について解説しました。

いくら最新の情報システムへ更新しても,中身が紙テープ時代のままの1日1回の日締め情報しか得られないことの問題点にも触れ,今後の改善の方向性について述べました。これらの改善内容とメリットの詳細については,本連載の後半で述べる予定です。

次回は,「モード切替え自動化の具体的な仕組みと手法」について解説します。

〈参考文献〉

1)渕野哲郎:「自動化に向けた課題-ISA-TR106より-」,『石油学会第51回石油・石油化学討論会要旨集』(2021)

2)渕野哲郎:「プロセス産業におけるオートメーション化への期待と要件」,セッション;連続プロセスのオートメーション,『石油学会第50回石油・石油化学討論会要旨集』(2020)

3)北島禎二:「ISA標準を中心としたプロセス産業の自動化に関する考察」,セッション;連続プロセスのオートメーション,『石油学会第50回石油・石油化学討論会要旨集』(2020)

4)北島貞二:「バッチプロセスに関する研究分科会:「PSE143委員会WS33 Smart Recipe」~設立の背景と狙い」,『計装』,Vol.62,No.9(2019)

5)北島禎二,等:「ISA95が製造業を変える:製造オペレーションマネージメント入門」,ものづくりAPS推進機構

6)本田達穂:「特別記事;石油/石化プラントでの残された自動化の課題と今後の方向」,『計装』,Vol.64,No.7(2021)

7)本田達穂:「残された自動化の課題と今後の対応策」,『2020計装制御技術会議資料』(日本能率協会主催)

Eテックコンサル 本田達穂


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