連載【トラブル事例解説】現場計器に何が起きたのか

第9回 分析計 その1:pH 計, 酸素計

化学プラントでは,pH計,酸素計,ガスクロマト分析計など多くの分析計が使われています。今月から2回に分けて分析計のトラブル事例を紹介します。

■pH計■

酸性やアルカリ性を調べるのにpH計という計器が使われます。排水管理などでは,きちんと中和して排水することが求められているためPH値による管理は重要です。

製造工程では,製品の品質や危険性の管理にも使われる重要な計器となります。工場では鉄などの金属部品が多く使われています。腐食管理にもpH計は重要な役割を果たします。物質は酸性度によって危険性が変化することがあります。たとえば,酸性になると思わぬ危険な物質ができることもあるのでpH計の値は運転上重要な要素となります。

つまり,計器が正しい値を示さないと事故になってしまうこともあるのです。

【事例①】

pH計が故障して正しい値を示していないことに気づかず運転を続けていた。pH 計は 1 台しかなかったため,計器の値が正しいか比較検証することもできていなかった。しばらくして装置内で爆発が起こった。

【事例②】

工場の排水を監視するpH計が故障しているのに気づかなかった。川に大量の魚が浮かび上がって異常に気づいた。

事例①は,pH計の故障が引き起こした事故です。pH計の故障で流体が酸性状態になってしまったのです。

酸性度が増して危険な物質ができてしまい起きた爆発事故です1)。図1に示すように蒸留塔という装置が爆発して死者2人重軽傷者13人という大きな事故になりました。計器の故障が原因で重大な事故を引き起こすこともあるのです。


図 1 pH 計の故障で蒸留塔が爆発


分析計は物質そのものを直接測る装置です。計器から得られた結果を比較するには,他の手分析による値と比較することになります。結果が出るまでには,どうしても時間がかかります。計器の値が本当に正しいかを確認するには時間がかかるのです。このため,対応が遅れてこのような事故になることがあるのです。

この事故の教訓は何かというと,重要な分析計は冗長化が必要だということです。つまり,1台の分析計では信頼性を確保するには不十分だということです。

分析計は,計器の値段は高いこともありますが,高いからといって1台で済まそうとするとこのような事故になります。

たかがpH計と思ってはいけません。化学プロセスでは,PH値によって危険性が大きく変わる製造工程もあります。二重化などを躊躇してはいけません。分析計が安全に果たす役割も大きいことを認識して下さい。

事例②は,公害監視用のpH計で起こったトラブルです。排水は中和して流すのが原則です。適正に中和されているか監視する目的で計器は設置されていました。

最初は定期的に計器を点検して指示を確認していましたが,時間が経つにつて点検がおろそかになってしまいました。異常に気づいてpH計を点検したところ,電極の周りにはスケールがべっとりと着いていたのです。

計器は,定期的な点検が不可欠です。いつも正常に指示を出しているとは限りません。水質のようなものを測定する計器では,検出部に付着するスケールがトラブルの原因になることがあります。汚れは計器にとっては天敵です。

■酸素計■

酸素計は,プロセスガス中の酸素を測る目的で設置されることがあります。酸素の濃度を測定して,酸化反応そのものを制御する重要な計器として使われることがあります。計器が正しい値を示さなければ,異常反応などが起きて重大な事故になるのです。

【事例①】

反応器内の酸素濃度を測定するため,酸素分析計が設置されていた。酸素ガスを物質と反応させて製品を作る化学プラントだ。酸素濃度を上げすぎると異常反応が起こるため,高い計器の信頼性が求められていた。

このため,3台の分析計を設置して反応を制御していたが,プラントをスタートさせる時に異常反応を起こし大爆発が起こった。

【事例②】

計器室の計器盤に取り付けた酸素分析計がガス漏れで爆発した。

事例①は,分析計にサンプルガスが流れていなかったことにより起きたトラブルです。分析計の検出器に,測定する流体を流さなければ計器は正確に指示を出しません。このトラブルは,プラントをスタートさせるときに運転員が分析計のサンプル配管の元弁を開け忘れたのが原因です。元弁が開いていなかったことにより,分析計の検出部にはガスが流れていませんでした。

しかし,検出部には前のサンプルが閉じ込められた状態で残っていたことから,あたかも正常値のような指示が出ていました。見かけ上は,正常な指示値が出ていたため誰もサンプルラインの元弁が閉まっているとは思わなかったのです。

分析計に常時サンプルが流れているか確認してください。配管やフィルタなどの詰まりで流れなくなることもあります。サンプルの流れはしつこいくらいに確認してください。

事例②は,図2に示すように計器室内で酸素分析計が爆発した事故事例です。可燃性ガスの中に含まれる酸素の量を測定する酸素計です。ガスの中には燃えやすい成分も含まれていました。現場から直接細いサンプリング配管を引いてきて,計器室内にある分析計につなぎ込んでいました。あるとき分析計に接続している配管でガス漏れが起きました。漏れたガスが,分析計の中にある電気部品の火花で着火し爆発したのです。


図 2 酸素分析計が爆発


本来ならガス漏れが起きても着火しないように防爆形の分析計を使うべきでした。しかし,安全な計器室内に設置するのだから非防爆型でも良いだろうと安易に考えていたのです。

事故の教訓は2つあります。可燃物を含む成分を分析するなら,防爆形の計器を選定して安全を確保してください。もう1つは,分析計の検出器は人のいる場所に設置しないでください。万一,ガスの漏洩などが起これば人に危害を与えるからです。分析計の設置場所にも十分注意を払ってください。

〈参考文献〉

1)合成洗剤製造装置のメタノール蒸留装置の爆発・火災

http://www.sozogaku.com/fkd/hf/HC0200063.pd

化学プラント安全研究所 半 田 安


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