連載【トラブル事例解説】現場計器に何が起きたのか
第1回 計装設備と事故
1.はじめに
■はじめに■
化学プラントで事故やトラブルが起これば,物質危険性が話題になります。危険なものを取り扱っているので当然のことです。次に,話題として取り上げられるのが誤判断や誤操作などの人のミス(ヒューマンエラー)です。化学プラントで起こる事故の原因は,人のミスが半分程度関係しているからです。 その次に取り上げられるのは,設備の故障です。設備の故障に気づかなくて対応が遅れたり,急に起こった故障で慌ててしまい,人が十分に対応できなくなり事故に至ってしまうのです。たとえば,保温材を被った配管が腐食で穴が開き可燃物が漏れて着火した,ポンプのメカニカルシールが壊れて,ポンプを停止しようとしたがうまく停められず液が逆流して事故になった,などです。機械設備が故障することが事故の引き金になってしまうことも多いのです。 計装設備も機械設備と同様に,化学プラントを安全に運転するために重要な設備です。故障が発生すれば化学プラントの運転に何らかの影響を与えます。 とはいえ,計装設備が事故の引き金になっていても,よっぽどのことがない限り話題として取り上げられることはありません。 しかし,過去の事故事例を調べてみると,計装設備が事故の「きっかけ」になっているものが少なからずあります。しかも,同じような原因で繰り返し起こっているのが現実です。 多くの事故や災害は,知らないから繰り返して起こります。つまり,過去に起こっている事例を知っていれば,防げたトラブルが多くあるということです。 いわゆる,技術伝承がしっかりできていれば,事故や災害を減らすことができるのです。 化学プラントでは,火災や爆発事故が起これば単なる金銭的損失だけではすみません。社会からの信頼を失うことの方がむしろ影響は大きいという時代になってきています。 ◇ ◇ ◇ ◇ 今月からこの連載では,過去に起こった事故やトラブル事例の中から計装設備に係わるものを拾い出し,流量計,液面計など計器の種類ごとにトラブルの概要と教訓を紹介していきます。 第1回は,計装設備が引き金になった過去の事故事例を,計器の種別ごとに数例ずつ紹介します(表1)。 初めて目にする事例もあるかもしれませんが,自分も同じようなことを経験したというものもあるのではないでしょうか。 ■事故やトラブル事例から学ぶものは教訓だ■ 過去に起こった事故やトラブルは,活用してこそ価値があります。ヒヤリ事例も同様です。ヒヤリ事例には,結果としてトラブルに至らなかったという貴重な情報が含まれているからです。しかしながら,企業の中で起こったヒヤリはなかなか公開されることはありません。だから同じトラブルが繰り返されるのです。 今回の連載では,公開されている事故情報や私が自ら体験した事例を思い出しながら,皆さんの役に立つ事例を抽出して紹介していきます。事例の紹介に当たっては,特に「教訓」という情報をできるだけ織り込むことにしたいと思います。設計面,安全性評価,運転管理,設備管理,工事管理,教育訓練や変更管理などでの問題点などさまざまな切り口で教訓を取り出し紹介していきます。 過去のトラブルから学ぶべきことは,トラブルの事実そのものではなく,どうすればトラブルを未然に防げるかという「教訓」です。 次号では,流量計に関するトラブル事例を紹介します。
表 1 計装設備が引き金となった事故やトラブル事例