特別寄稿
製造革新時代の プラント計装のさらなる役割と近未来展望
1.はじめに
近未来を展望するにあたり,まずは過去を振り返りその流れから予測すべきと考えた。筆者は1980年初頭より石油化学会社にて約5年間,計装関係の仕事に従事した。そのあと7年ほど情報電子関連の事業に従事し,関連技術開発に携わり多くを学んだ。その後,プロセスオートメーション関連業務に戻り,プラント高度制御,最適化,合理化などのプラント運用の効率化に関連する各種システムの導入支援を行った。
2005年より,パイロットプラントの計装システムを検討するにあたりFOUNDATION Fieldbusの導入を主導した。その後諸事情もあり,制御機器ベンダ側に移り,提供側視点より計装システムを考えるようになった。定年に伴い縁あってFieldCommGroupのアジア・パシフィックマーケティング業務を受託し,かつ個人事業主として1チップマイコンによる様々なシステムの開発を受託している。1980年より現在まで,約40年の間ユーザ,ベンダ,エンジニアリングの立場で計装に関わってきたので,その経験を元に本件についての私見を述べたいと思う。
2.過去の振り返り
まずは,過去の振り返りとして当方が考える業務全般に大きなインパクトを与えた技術とその印象を記す。
●<電気式アナログ計器からデジタル式計器へ>
-1960年代~1980年-
フィールド機器は電気式アナログ計器(~1970頃)からデジタル化され,精度の向上や安定性,小型化を実現した。信号そのものは1970年初頭に4-20mAに統一され,そのまま継続的に利用された。信号が同じであるがゆえに既存計器との互換性が維持され,プラントの維持に絶大な効果を発揮している。計器が壊れてもすぐに交換できる安心感は極めて重要である。
計器そのものは導体センサによる圧力計の性能改善(精度,寿命,安定性)が主流であったが,その後渦式,コリオリ式,電磁,レーザなどデジタルにより実用化された様々な計器が登場した。
いずれにせよ,この時代には計器の内部はデジタル化されており,信号のみが4-20mAのアナログ方式の伝送であった。信号は変わらなかったが導圧管の取り出し方向,小型化ゆえの導圧管手直しなどがあり形状互換性の重要さを認識した。
●<パネル計装からCRTへ>
1975年のDCSの登場により,パネル計装からCRT計装に徐々に移行してきた。CRTへの移行でオペレータ,特にボードマンの1人当たりの作業対応可能範囲が増えた。従来は複数人で操作していたものが,画面呼出により少人数で操作可能となった。ただし,CRTの操作端末が高価であったために最少端末数で対応するように頑張っていたように思う。DCSの故障に対応するためにバックアップ用パネルが用意され,それがCRTによる常時表示視野の減少を補ってボードマンのパネル操作からCRTへの移行をスムーズにしていたように思う。
いずれにせよCRTオペレーションへ移行したことでボードマンの必要人数が減って省人化を可能とした。加えてDCSによるループ制御(PID)とシーケンス制御の融合による非定常作業の自動化がやりやすくなったことで,省人化も可能とした。
視野の一層の拡大と操作端末の増加は1996年のWindowsNT4.0登場により,パーソナルコンピュータの端末利用が可能とした。また大型液晶の登場がプラントの情報提示方法をより柔軟としたために,様々な情報を大画面で共有しながら操作することを可能とした。これに関しては外野が増え,ボードマンの作業を阻害するというマイナス面もあったが,運用の改善などもあり現在では画面を切り替えることなく必要な情報が常時表示され運転に集中できるようである。
特に監視カメラによりボードがフィールドと情報を共有しながら協調して作業することが可能となり,より効率的な運転操作が実現できているように思う。2000年を過ぎたあたりからEthernetやWi-Fiの利用が計器室内でも急速に進み,様々な民生機材を活用することが増えてきたように思う。
●<DCSへ> パネル計器時代でも大型プラントであればコンピュータ(主としてDECなどのミニコンピュータ)で直接(DDC),あるいはパネル計器の統括制御(SPC)することは行われていた。ただし,コンピュータの設備費用と24時間稼働信頼性の課題があったように思う。これらは工業機器と情報機器の設計方針の差異からくるように思われた。この問題はマイクロコンピュータを通信ネットワークで結び,16ループあるいは32ループ単位で分散制御するシステム,DCSが登場することで解消された。DCSの操作は専用のグラフィック端末で行われ,その後,パソコンが操作端末となったのは前述の通りである。 DCSの登場により,制御ロジックの変更などが柔軟に行えることが期待されたが,実際に運転中でも制御変更が無瞬断で行えるようになったのは登場から10年近く経たあたりかと思っている。 DCS登場直後は従来の設計思想の基本であったシングルループインテグリティに反するため,各ユニットの多重化,冗長化などコストと信頼性のバランスをとりながら様々な対応策がなされていた。基本部分(CPUユニット)の冗長化と多点入出力カード類の二重化で,どこか1つの故障によって複数ループが同時に機能停止しないようになっていた。 DCSが主流になると大きな問題としてプラントライフサイクル(およそ50年)に比べあまりにも短いDCSのライフサイクル(およそ10年)に起因するDCSの更新業務が発生した。特に問題であったのは,更新により従来のソフト的資産(制御ロジック,シーケンス,運転用操作画面)の移行であったと思う。 その頃はコンピュータの爆発的な進化の時期であったため,仕方がないとは思うが,同一ベンダの次期モデルへ更新する場合でも,移行に関する大変な準備作業が必要だったと聞いている。ちょうど新しいOSに更新すると周辺機器やソフトウェアの買いなおしを余儀なくされた状況と同じである。製造設備であれば,停止期間は生産できないわけであるから大問題となる。また,プラントの増強時に現使用モデルがすでに生産中止であり,新モデルとの混在をさせるが,保守ツールを2種使いこなし維持していたなど大変な苦労を強いられていたように思う。 ●<プラント情報の活用> 1980年以降パーソナルコンピュータの普及により情報処理が身近になり,当然ながらプラントの現場でも品質の安定,生産性の改善などに様々なデータが欲しいという要求が恒常的にあった。計装業務は今ある設備を保守することが主務であり,また情報処理部門はメインフレームを利用した事務情報処理や科学技術計算を主体としており,現場,特にフィールドの情報利用までは手が回らない状況であったように思う。そのため,いわゆる新しもの好きが,当時普及し始めたデータロガーにパソコンを接続しプラント運転情報を可視化することで対応していた。この方法であれば,運転システムとは原則独立に情報を入手することができて,本来の計装業務と簡単に切り分けることが可能である。今でいうNAMURのオープンアーキテクチャ(NOA)と言えるのではないだろうか。 ただし,データロガー,パソコンなどを組み合わせて実現するため費用的にはさほど問題ないが,保守性,継続性には常に課題があった。また,ロガーの追加と配線工事なども盤のスペースといったところでも課題であった。 一方,DCS化されたプラントでは,DCSからデータを取り出す方法が課題であり,データロガーの代わりに通信ゲートウェイなるものを追加しパソコンと通信させて取り出していた。こちらはDCSのベンダや同一ベンダでもモデルによっても通信方法が異なったので都度対応することとなる。せっかくDCSでデジタル化されているので標準的なデータ通信方法が待ち望まれていた。 情報処理自体もデジタル化したデータを効率良く処理する手法と,その結果を共有する方法が必要であった。こちらもこれといった標準がなく,汎用ソフトを上手く活用するなどで凌いでいた。計測機器ベンダの提供するアプリケーションと汎用情報処理アプリ間でのデータ授受は,いわゆるCSV形式が主体であったためにストレスなくデータ連携するとは言い難い状況であった。これらを連携し各種の問題点を発見,可視化して改善する,あるいはそれを1つのシステムとして,アプリケーションまで落とし込む技術が特殊技術とみなされ,社内で蓄積すべき技術とされず組織的に対応しなかったため,今後おこるIT,IoT,DXへの対応の巧拙で明暗が分かれるのではないだろうか。 ここでも,問題であったのは利用機材のライフサイクルの短さとソフトウェアの頻繁なバージョンアップである。これらバージョンアップや機材更新にともない,従来動いていたものが動かなくなりあわてて元に戻すとか,新しいシステムをあえて古いシステムにダウングレードして利用するなどして凌ぐ必要があった。 また,パソコンのライフサイクルが特に短く,操作・表示用の端末として利用していたものが次期モデルになると上手く動かずメーカ選定からやり直すこともよく耳にした。プラント情報の活用として,当初は補助的なものとして始めたものの,その便利さゆえに運転に直結してしまい,製造装置並みの稼働率を期待されるようになってくる。 ●<OPCの登場> 1990年代後半に前述の個別対応から解放される標準として,OPC(OLE for Process Control)なるものが登場した。これにより,各制御ベンダがOPCに対応することにより,ベンダ,モデルが異なってもWindowsOS上のアプリでOPCによって制御機器の情報が取り出せるものと期待した。しかしながら,Windowsという汎用OSを産業用に利用することで発生する不安定さの問題もあり利用範囲があまり広がらなかったように感じている。 ただし,OPCにて制御機器からの情報入手はほぼOPC一択となったように思う。OPCも含めOLE(Object Linking and Embedding)自体がアプリケーション間のデータ交換方法として期待されたほど広がらなかったように思う。尚,OLEはその後ActiveXやCOM,DCOMと変遷したようだ。 ●<OPC*1) UAの登場> OPCはWindowsを基本とするものであったが,その後Linuxなど非Windows系の産業利用の普及やインターネットの普及に伴い,いずれの環境でもセキュリティを含め対応可能な技術としてOPC UAが登場した。また,情報モデルという枠組みが提供され,OPC UA標準の枠組みの中で情報のさらなる標準化を第三者が決められるのも特徴である。2011年にはドイツ政府が提唱するIndustry4.0にてOPC UAが取り上げられることにより,OPC UAが産業における情報交換の標準とのイメージが広がり,現在でも設備からの情報の取り出し構想に関してはOPC UAを基本とするものがほとんどである。 一方OPC UAの実装はイメージ先行の感があり,実際に装置にOPC UAサーバが実装され販売され活用され始めたのは2010年後半ではないかと思われる。 ●<HART規格の登場> HART規格は4-20mAアナログ信号の上にデジタル信号を重畳させたもので,原則4-20mA信号に影響を与えずフィールド機器と信号線を介してデジタル通信を可能とする。当初はどちらかというとフィールド機器の調整設定のためのハンドヘルド型設定器との通信方法であった。フィールド機器の電子化,デジタル化により,従来の可変抵抗による調整に変わり,ハンドヘルド設定器でのメモリ書き換えによる調整が主流となった。ベンダあるいはモデルごとにハンドヘルドが異なることが多く,標準化が望まれた。これに対応すべく登場したのがHART通信であり,2000年を超えるころには海外ではデファクトスタンダード化した。 また,後述のフィールドバスの登場によりフィールド機器と常時オンライン通信が可能となり,運転中あるいは定期保守時に数千台規模で大量に使用しているフィールド機器の管理・監視することで価値が得られることが知られた。そして,同じことがHARTでも可能で,かつ既設,新設を問わず導入可能であることが知られるようになり,2010年の後半よりIT,IoT,DXなどの潮流に乗りフィールドバスとともに常時オンライン通信での利用が普及した。 ●<フィールドバスの登場> 1990年に入るとフィールド計器のデジタル化,バス化の動きがおこり,離合集散の結果,FOUNDATION FieldbusとProfibusPAの2つのプロトコルに絞られた。双方とも本質安全に対応可能な10~30台程度のフィールド機器を1本の線の先で分岐接続するもので,物理層は同じものを使用している。ProfibusPAはProfibusDPと共存可能で,Profibusで構成されるオートメーションシステムの中で,プロセス制御に向いた部分に利用されている。オートメーションシステムからみると共通に扱えるのが特長である。 一方FOUNDATION Fieldbusはフィールド機器側にファンクションブロックを内蔵し,各デバイス上で動作するAI,AO,PIDブロックなどをソフトウェア的に構成設定し制御ループを構築する仕組みである。当初はDCSを意識しその機能分散を狙う仕様であったが,実際はDCSのシステムのIOの一種として利用されることが大半であった。 フィールドバスの当初の歌い文句は,フルデジタル,省配線(1/10~1/32),ループ単体制御,設置コストダウンであった。このすべてが達成され一定の普及を見たが,従来の計装システムとの親和性に乏しく,従来方式のすべてのループ(対応計器不足,DI,DOの実装効率が悪いため)を置き換えることができないために,従来方式との混合となった。その結果,従来方式に加え新しい方式に対する保守体制も追加で持つ必要があり,かつ,取扱いが従来方法に比較してより複雑であったために,新設の場合でも,従来方式が大半を占めるコンビナート内では敬遠される傾向であった。 フィールドバス方式では1本の線に複数台の計器が混在し複数のループが同居してしまう。したがって従来からの設備設計方針に従うと配線の二重化が求められたが,その方法が補器のベンダによって異なるものになってしまった。また,1台の故障を他に及ぼさないための仕組みが分岐用補器に求められた。それ故,単純な分岐端子から,電子部品の乗った能動補器となり,設備コストが増大した。さらに,現場に分散していた分岐補器の維持・管理も新たな課題となった。 こうした課題は,信頼性実績や慣れで解消されることが期待されたが,2024年現在でもフィールドバス対応計器は全体の1%前後で伸び悩んでいるようだ。 ●<セーフティに対応する> 2000年を超えたあたりから安全確保に関する考え方に変化があり,リスクベースで考えるIEC/JIS 508/511が発行され,従来のやり方からロジックソルバからなる機材を利用して安全システムを構築し認証取得するという流れがもたらされた。このころは日本の企業も多くが海外で工場を建設していたので必然的に取り組む必要性が高まった。筆者はこれに関する業務に直接関わっていないためネット上の情報を見ながら述べているにすぎないが,これらの規格への理解と対応でも新たな業務負荷になったと記憶している。 ●<インターネットとサイバーセキュリティ>
しかしながら,一方でパソコンの維持管理にはインターネット接続が必須になってきて,フィールド機器もデジタル化しIP通信が普及拡大してきたためにその対応が必須ではあるが,具体的にどのような,どこまでの対策を取ればよいのかが,現状模索状態にあるように思える。
●<過去を振り返って見えること>
第一にデジタル化の流れはあらゆるところで進行し止まらない。次にデジタル化したものはいずれつながる。さらに,デジタル化しつながったものから吸い上げられたデータは処理され価値を生もうとする。そして,必要な技術は標準化され普遍化されていかないと維持が難しくなる。そんなところであろうか。
3.FieldComm Groupが提唱する将来のプラント*2)
FieldComm Groupでも将来のプラント,特にデジタル化に対して積極的に標準化を提唱している。図1がそれを示しており,基本的には3つの技術を中核要素としている。
3.1 FDI(Field Device Integration)
FieldComm Groupが標準として提唱するDevice Integrationを行うための技術である。従来からのデバイス記述ファイル“EDD”(Electric Device Description)を発展させ,かつその他書類ファイル“DOCS”(マニュアル,仕様書など何でも),ユーザインタフェースプラグイン“UIP”ファイルを1つのファイルに同梱させ,セキュリティを高めるための署名認証を可能としたFDI Device Packageとそれを読み解き利用するFDIホストの2つで構成されている。UIPはEDDでは実現が難しいより高度なアプリケーションを実現するためのプラグインファイル(.NetもしくはHTML5)である。
ちなみに,Device Integrationはフィールド機器とコントローラを接続すること,Unified Device Integration はその技術を共通化することである。FieldComm GroupではこのFDI技術をHART,FOUNDATION Fieldbusに加え,標準化団体の枠を超えて他のフィールドバスプロトコルでも利用することを推進している。FDIはすでにProfibus/Profinet,ISA100によりサポートされており,他団体とも協議中である。
3.2 PA-DIM(Process Automation Device Information Model)
PA-DIMは,OPC UAで定義されているコンパニオンスペックの1つであるDIM(Device Information Model)をベースに,Process Automationでよく利用されるデバイスを種類ごとにモデル化したものである。
各ベンダはFDIのデバイスパッケージ用EDDを作成する際に,PA-DIMに沿って自社デバイスの情報をマッピングする記述を書くことで,FDIホストがその情報と実際のデバイスの情報によりFDIホストに実装されているOPC UAサーバ上でデバイスモデルとしてアクセス可能とする。PA-DIMのマッピングはプロトコルやベンダに関わらず統一的に解釈可能となるので,ITサイドのOPCクライアントからは統一的な処理が可能となり,データの可読性,可用性が担保される仕組みである。
FieldComm GroupではFDIとPA-DIMにより,OT側で生成されるデータをIT側システムに効率よく提供することを実現する。ちなみに,これらはいわゆるIP通信上で実現される技術となっている。
3.3 Ethernet-APL
3つめの技術としてEthernet-APLを挙げている。Ethernet-APLは,本質安全防爆に対応可能な2線式で給電可能なEthernetの物理層である。我々が慣れ親しんでいるEthernetは8芯ケーブルを使い,給電する場合は空き線を使うPoE(Power over Ethernet)などがある。これらはHUBを含む機器間長最大100mとプロセス系工場設備用としては短く,かつ本質安全防爆に対応し難いために,FA用としてともかくPA用としては利用し難いものであった。
この課題に対応したのがEthernet-APL規格である。本質安全防爆に対応可能な1000mの幹線(Trunk)と200mの支線(Super)で構成される。これによりZONE 0,1(Class1 Dev1)に対応可能なEthernetフィールド機器が実現可能となった。
なお,距離1000mはZONE 2設置(Class1 Dev2)までなので注意されたい。詳細は無料でダウンロード可能なEthernet-APL Engineering Guidelineに詳しいので,導入を検討されている場合はまずは一読されることを推奨する。また,本稿執筆時点では市販のAPLトランクに対応したパワースイッチは存在していない。
3つめの技術としてEthernet-APLが挙げられているのは,これによりフィールドの末端までIP通信網がカバーされ,フィールド情報をFDIによりPA-DIMの形であらゆるステークスホルダに提供可能となるためである。これがFieldComm Groupの提唱する将来のプラントのデジタル構成ということである。
4.プラント計装のさらなる役割について
FieldComm Groupの提唱でもおわかりのように,プラント情報の活用のためのデータ取得が計装の範疇になっており重要となってくるが,これにより計装の守備範囲がさらに拡大し活用方法論も含まれてくることになる。活用方法は従来で言えばプラントスタッフの役割とも言えたが,現在AI利用によるデータマイニング的な手法を取り入れたりするとプラント関係者以外の会社組織内外が関係する。
デジタル化,インターネットの利用によりあらゆるデータがリアルタイムに集積可能となると,これらのデータを情報として利用し新たな価値を生み出し得ることが様々な場面で実証されている。これらの情報活用技術の巧拙が会社の運命を左右してしまうので,単に計装のみの問題でない。これら情報系技術にいかに取り組んで組織的に活用できるようにするかが非常に重要となってくる(きた)。
CO2排出量規制などの情報取得,発信なども計装技術の重要な要素となるように思う。こうなると計装部門,情報部門の2部門でカバーするのはもはや不可能であるが,かといってすべてアウトソーシングで埋めていいこうとするのも無理な話である。拡大した領域に対応できる新たなる組織を創設し,数々の経験を経て社内組織として対応する道を探るべきかと思う。
<これからのプラント計装>
1)製造関連維持(運転,安全,品質,物流):計装系
2)運用最適化などの高度アプリ(安全を除く上記に対応):情報系
3)機器情報管理(保全管理,故障予測):計装系
4)エネルギーCO2関連:計装,情報系
5)作業支援(遠隔作業,監査証跡):計装系,情報系
6)サイバーセキュリティ確保:情報系
ただし,これだけ広大な領域をカバーする基本部分として,これらを根底から支えるフィールド機器,制御機器,HMI機器,データ提供などの技術が従来の計装の延長線として押さえるべきコア技術になるかと考える。
5.計装の近未来展望
最後に,当方の勝手な夢ではあるが,計装を支える機器が最終的に到達すべき姿を示して終わりたい。
おそらく商業的な制約で難しいとは思うが,計装を支える機器はすべてどこのメーカから買ってもシステム構成要素としては同じというのが当方の考えるあるべき姿となる。ハードウェアなどは設計が公開され誰でも作れる,あるいはraspberry Piのように1つの組織が責任をもって供給するのが良いかもしれない。フィールド機器に関して共通部分は統一的に扱え,固有の機能以外は共通操作となるべきである。
これにより計器交換,変更にかかわる作業も最小ですますことができ,IO,制御ユニットへの影響も最小限にとどまる。また,制御システムとフィールド機器をつなぐIOユニットで通信やプロトコルに関わる違いを吸収し,かつ基本的な制御動作はIO部分で行う。IO部分は原則ループ単位とすれば冗長化する必要もない。制御ユニットとIOユニット間の通信も標準化することで,制御ユニットから見ればIOユニットは単純なDI,DO,AI,AOとなる。したがって,制御ユニットとIOユニットは完全に独立で保守・更新が可能となる。
同様に,プラントのすべての運転情報は履歴,イベントを含め履歴ユニットに保存されるので,制御ユニット,IOユニットともに依存性がなくなる。これにより貴重なソフトウェア資産がハードウェアに依存することなく永続するようにしたい。運転監視・操作を行うHMIユニットについても,制御ユニット,履歴ユニットとは標準化されたAPIで結ばれる。これによりいわゆるダッシュボード的な画面などは制御システムのみならず,一般のPCでも利用できるようにすることで,同じような画面を別なシステムで作成する必要がなくなる。
また,制御システム用のHMIユニットは液晶,キーボード,マウスなど標準化が進んだものを利用できるようにしたうえで,本体のみを産業用に標準化することで永続性を確保する。
O-PAS(Open Process Automation Standard)がこのようなものになるかと期待して注視している。当方の思う狭義のプラント計装のあるべき姿を図2にイメージしてみた。むろん突っ込みどころ満載ではあるが,本誌読者の皆様と本図を叩きに一度ディスカッションする期会があればうれしい限りである。
注)
*1)OPCは現在Open Platform Communicationsの略語となっている。
*2)本内容はFDT Groupの統合前の内容なので,今後FDT技術とFDT技術を含め内容が更新される予定
〈参考文献〉
1)各キーワードで検索されるWikipedia
2)『山武百年史』,アズビル
3)エムジートレンド
4)FieldComm Group web