【操作機器】
エッジコンピューティングを搭載した デジタル・バルブ・コントローラ
1.はじめに
他力式調節弁に使われる位置制御機器(ポジショナ)は,空気リレー,ノズル,カムなどのアナログ装置を使った空気式ポジショナから始まり,制御装置の進化に伴いポジショナへの制御信号が電子化されたため,電気信号を空気信号に変換する電空変換器を搭載した電空ポジショナ(ポジショナの機構としては空気式ポジショナと大きな違いはない)へと変化した。電空ポジショナの時代は非常に長く,現在でも広い範囲で使用されている。
国内産業においてもデジタイゼーション・デジタライゼーションが急激に進み,デジタル技術を使った制御装置,デジタル技術を使ったフィールド機器が開発・販売されるようになった。
もちろん,ポジショナにもデジタル化が進んでおり,デジタル信号,アナログ信号に対応したポジショナが開発・販売されている。ポジショナとしての機能はデジタルもアナログも大きく変わらないが,デジタライゼーションで大きく変化したのは,ポジショナにマイクロプロセッサが搭載されたことである。マイクロプロセッサによりバルブの状態を把握し,それらの情報をデジタル信号としてPAMやCMMSへ送信できるようになった(写真1)。
このようにデジタイゼーション・デジタライゼーションが進むにつれて,生産現場ではプロセスの最適化,省人化を目指す中で,品質の維持,安定・安全操業を追求しながら製造コストをいかに削減していくかが注目されている。
近年,センサや分析計といったフィールド機器の運用や精度などの管理やオートキャリブレーション機能を備えた機器が増え,また情報通信技術の発展により,生産現場の業務・作業環境が大きく変わろうとしている。特にワイヤレス通信の台頭はモバイル機器の普及とともに生産現場の情報化を促進し,フィールド作業の高度化などをもたらす技術として注目されている。
<ワイヤレス通信技術の最大のメリット>
1)配線工事のコスト削減
2)取付方法の自由度の高さ
3)ケーブルがゆえに発生していたトラブルの回避
4)災害復旧への有効手法
といった利点も認識され始めている。
フィールド機器の進化と通信技術の発展により,フィールド機器からの情報量が増加し,エッジコンピューティングが再注目されている。
2.エッジコンピューティングとは
従来は,センサなどのIoTデバイスからのデータをデータセンタ(クラウド)に送信し処理を行っていた。エッジコンピューティングとは,情報を生み出すデバイスと,その情報を利用するユーザに近いところに情報の保存場所と計算能力を配置したプロセスのことである。
では,なぜエッジコンピューティングが必要になるのか? 理由はいくつかある。
①データの爆発的増加
IoTデバイスの普及により,膨大な量のデータが生成されている。これらのデータをすべてデータセンタ(クラウド)へ送ると,ネットワークの帯域幅が圧迫され,データ転送に時間がかかる可能性がある。近年では複雑で大規模なデータがネットワークの能力を越えてしまう事象も起き始めている。エッジコンピューティングでは,データは生成された場所で処理され,必要な情報だけがデータセンタ(クラウド)へ送られる。これにより,ネットワークの負荷が軽減され,データ転送の時間が短縮され,必要な帯域幅を削減する。
②リアルタイム処理の必要性
自動運転車や工場の自動化など,リアルタイムでの高速なデータ処理が必要なアプリケーションが増えている。エッジコンピューティングでは,データは生成元で処理されるため,遅延が少なく,リアルタイムの応答が可能になり,より速くリアルタイムのインサイト(分析結果や有用な情報)が得られるようになる。
③セキュリティ
エッジコンピューティングでは,データはローカルで処理され,必要なデータだけがデータセンタ(クラウド)へ送られる。これにより,データのプライバシーが保護され,セキュリティが強化される。
これらの理由から,エッジコンピューティングは,今後のデータ駆動型の社会において重要な役割を果たすと考えられている。
3.エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの違い
・「エッジコンピューティング」:ワークロードをエッジ,つまりデバイスやエンドユーザに近い場所で実行する。
・「クラウドコンピューティング」:クラウドサービスプロバイダのデータセンタでワークロードを実行する。
従来のIoTではセンサで収集したデータをインターネット経由でクラウドへ送信し,分析・解析を行う中央集中型の仕組みが一般的であった。これに対し,エッジコンピューティングではデバイス本体もしくはデバイスとクラウドの間に設置したエッジサーバで分散してデータ処理を行う仕組みをとることで,リアルタイムかつ低負荷なデータ処理を実現することになる。
4.最新型デジタル・バルブ・コントローラ
「Fisher FIELDVUE DVC7K」
1990年代初頭,エマソン/Fisherはマイクロプロセッサベースの設計を取り入れたFisher FIELDVUE 「DVC5000」(写真2)で初めてデジタル・バルブ・コントローラを発表した。これにより,ユーザはバブルデータを受け取り,リモートでキャリブレーションを実行できるようなった。
この革新は,Fisher FIELDVUE「DVC6000」(写真3)に引き継がれ,複動式にも対応し,使いやすく信頼性の高いモジュラー設計を採用した。
2009年にFisher FIELDVUE「DVC6200」(写真4)で非接触フィードバックを採用し,リンクレスのフィードバックを実現した。これにより,従来のリンク式フィードバックと比較して,振動の影響がはるかに少なくなり,信頼性が向上した。
2023年,エマソン/Fisherは30年にわたり現場で実証されてきたイノベーションをベースに,新たな設計改良を加え,エッジコンピューティング分析機能と「Advice at the Device」技術を搭載したFisher FIELDVUE「DVC7K」デジタル・バルブ・コントローラを発表した(写真5)。
Fisher FIELDVUE DVC7Kに搭載された,エッジコンピューティング分析機能とAdvice at the Device 技術により,ローカルデバイス内でデータを実用的な情報に変換する。また,Bluetooth機能も有しており,保守作業員がスマートフォン,タブレット,コンピュータでデータ収集することができる。
Fisher FIELDVUE DVC7Kは,エッジコンピューティング機能に搭載された,
・技術や経験に基づくアルゴリズム(米国特許取得済み)
・リアルタイム分析機能
・柔軟な接続機能
を組み合わせることで,最適な情報を迅速に提供する。
以下に,具体的な機能,特長について紹介する。
(1)リアルタイム分析により,明らかな問題が検知されるとアラートが生成され,ローカルまたはリモートで通知される。すべてのアラートには,Advice at the Device技術を使い,問題を解決するための推奨対応手順が同時に提供される。これは,デジタル・バルブ・コントローラの新機能(Advice at the Device)である。
(2)これまで,データを処理して表示するためには,ホストシステムにデータを送信する必要があったが,新しいシステムのインテリジェンス機能を利用すると,ホストシステムにデータを送信しなくてもインサイト(分析結果や有用な情報)をFisher FIELDVUE DVC7Kのローカル・ユーザ・インタフェース(L.U.I)で確認できる。
DVC7K本体正面のLEDは比較的遠くからでも視認でき,その色だけでバルブの状態を判断可能となる。さらに,ユーザはLUIからバルブの状態詳細情報を確認することもできる。
(3)将来的にEmerson Secure Bluetoothにより,スマートフォンやタブレットなどのBluetooth対応デバイスを使用して約9メートル(30フィート)先からFisher FIELDVUE DVC7Kにアクセス可能な機能を実装する計画である。
(4)Fisher FIELDVUE DVC7Kは,制御バルブとオン/オフバルブの両方で使用でき,データのローカル分析,ホストシステムとのデジタル通信を行う。これらの機能は,より速くリアルタイムのインサイト(分析結果や有用な情報)を作業員に通知することができるため,生じた問題に対して保守を行うのではなく,問題が発生する前に予測して保守を行うことができるようになる。結果として稼働時間を長くすることができ,保守コストを下げ,トラブルシューティングの時間を短縮できる。
たとえば,動作コマンドに対して制御バルブの反応が鈍いことがあるが,これらの多くは問題が起こる初期の兆候である。DVC7Kはこのような状態を認識し,作業員にアラートを送信して,問題解決のための提案を行う。
(5)Fisher FIELDVUE DVC7Kデジタル・バルブ・コントローラは,Fisherバルブすべてに取り付け可能で,既設の他社製バルブに取り付けることも可能。どちらの場合でも,L.U.Iから簡単・迅速に調整することができる。
5.終わりに
Fisher FIELDVUEデジタル・バルブ・コントローラの売上台数は300 万台を超え,現場で100億時間以上の稼働を実現していることから,使用において長期的な信頼性と性能が実証されている。
注)「Fisher」「FIELDVUE」「Advice at the Device」は,Emerson Electric Co. の事業部の企業が所有する登録商標である。