[ZOOM UP]“Ethernet-APL”~新デジタル計装への胎動

【トレンド:APL対応機器/システム】

Ethernet-APLレールフィールドスイッチの 役割と活用視点

1.はじめに

当社ピーアンドエフの親会社であるドイツ,PEPPERL+FUCHS SE(ペッパールアンドフックスSE)は,IECの規格策定段階からEthernet-APLのワーキンググループに参画し,IIoTを進めるプロセス産業のデジタル化新時代を見据えて活動してきた。

欧米を中心とした12のプロセス産業主要ベンダで構成されるワーキンググループおよびSDOと言われる4つの標準化団体,FieldComm Group,PI(PROFIBUS&PROFINET),ODVA,OPCFと共に,2線式本質安全防爆イーサネット(2-WISE)がIECの新しい規格,IEC TS 60079-47として盛り込まれるまで,本質安全防爆のスペシャリストとして規格策定に貢献してきた。

そして,この2-WISEに適合した製品「Ethernet-APLレールフィールドスイッチ」を世界に先駆けて2022年8月にドイツで開催された化学産業の主要展示会として知られているACHEMA2022において発表し,クラウドからフィールドレベルまで,プロセスプラントのデジタル化を飛躍的に進める1歩を踏み出すこととなった。

Ethernet-APLのテクノロジーの詳細については,本特集の前段で日本フィールドコムグループより紹介されていることから,本稿では当社のEthernet-APL製品紹介を中心に納入事例にも焦点を当てていきたい。

2.Ethernet-APLレールフィールドスイッチ「ARSシリーズ」の役割

PEPPERL+FUCHSは,本質安全防爆バリア,HART通信関連機器に始まり,さらにPROFIBUS PA,FOUNDATION Fieldbus等プロセスオートメーション向フィールドバス用防爆製品として,電源やセグメントプロテクタ,フィールドバリア,および診断モジュール等の機器を「FieldConnex」というブランド名で提供してきたが,新たにEthernet-APL機器として,レールフィールドスイッチ「ARSシリーズ」がFieldConnexブランドにラインナップされた。

Ethernet-APLレールフィールドスイッチ(以下,APLフィールドスイッチ)は,世界初のEthernet-APL製品として2022年7月にリリースされた。Ethernet-APLに対応した温度計,圧力計,流量計等のフィールド機器をイーサネット・ネットワークに接続するマネージドフィールドスイッチである。EtherNet/IP,HART-IP,OPC UA,PROFINETなど各種の産業用Ethernetプロトコルに対応している。

接続は,トランク・スパー方式で,フィールドスイッチ間の接続はトランクライン,フィールドスイッチからフィールド機器への接続はスパーラインとなる。プロセスプラントにおいてEthernetでトランクラインを1000mまで延長できる点,そして200mまで対応可能なスパーラインにおいて,2-WISEによる本質安全防爆を実現できることがEthernet-APLの最大の魅力となっている。

APLフィールドスイッチは,トランクラインに設置され,スパーポートからフィールド機器に接続される。スパーポートは,危険場所(Zone2,Zone1およびZone0)に設置されるフィールド機器に電源と通信を提供する(図1)。


図1 Ethernet-APLレールフィールドスイッチ接続例


APLフィールドスイッチは,IEC60079-0に準拠したエンクロージャ内に設置され,野外にも設置することが可能である。

なお,ファクトリオートメーション分野においては,既にEthernetの導入が進み,運用技術のOTと情報技術のITの融合が現実化しつつあるが,プロセスプラントにおいても同様に,フィールド機器のインテリジェント化やデータ量の増大に伴い,より高速な通信での効率化が求められるため,たとえばPROFUBUS PAからEthernetベースのPROFINETへの移行が進んでいくと思われる。そうした潮流の中で既存の敷設された2線式TypeAケーブルを利用して,段階的なEthernet-APLの導入も可能である。

当社のAPLフィールドスイッチは,ユーザがPROFIBUS PAからPROFINETへマイグレーションする場合にも,proxy機能により段階的な移行をサポートすることができる。将来的にEthernet-APLの導入を考慮する場合,まずは,PROFIBUS DPマスタがPROFINETコントローラに変更され,PROFIBUS PAからPROFINETへの移行となる。そして既存のフィールドバリアやセグメントプロテクタをAPLフィールドスイッチに置き換える。

当社のAPLフィールドスイッチ「ARS11シリーズ」であれば,Proxy組み込みタイプなので,ポートに接続されたPROFIBUS PAのデバイスを自動検出することが可能であり,デバイスのIDやステータスを読み込むことができるため,既設のPROFIBUS PAデバイスをそのまま利用しシステムに統合することができる。この場合の伝送速度はPROFIBUS PAに準拠し31.25kbit/sとなる。

Ethernet-APL対応のフィールド機器は,今後開発ベンダも増えていくと思われるが,その過程において,即時に欲しいフィールド機器の入手が困難な場合や,投資コストの問題等がある場合に,既設のフィールド機器から段階的にEthernet-APLにマイグレーションを実現することが可能である。ユーザが後にEthernet-APL対応のフィールド機器を既存のデバイスと置き換えた際に,Ethernet-APLとしてIEEE802.3cgで定義された10BASE-T1L通信方式となり,10Mbpsの伝送速度を実現する。

なお,現行のAPLフィールドスイッチは,PROFIBUS PA対応のみであるが,将来的には,FOUNDATION Fieldbusデバイスに対応した製品も登場してくることが期待される。

3.ARSシリーズ製品の主な特徴・機能・事例

3.1 特徴および仕様

PEPPERL+FUCHS製のAPLフィールドスイッチARSシリーズは,現在24機種がリリースされている(写真1)。主な特徴は,表1に示す通りである。


写真1 PEPPERL+FUCHS製Ethernet-APLレールフィールドスイッチ群



表1 Ethernet-APLレールフィールドスイッチの主な特徴・仕様


接続できるデバイスの数に応じたポート数やPROFIBUS PAデバイスの自動検出を可能とするProxy機能の有無,本質安全防爆の種類(iaまたはic),コネクタ方式(ネジ式端子またスプリング式端子式)などで型式が区別される。概要は,表2の通りである。


表2 型式参照表(ICタイプの例)


APLフィールドスイッチは,2つのギガビットイーサネットポート(⑧,⑨)と2つのSFPポート(⑩,⑪)を備えており,後に記すが伝送速度や距離に応じた数種類のSFPトランシーバの接続を提供する。

図2は,APLフィールドスイッチの18箇所の各部分の用途説明を示している。(写真2はEx ia対応24ポートモデル)


図2 Ethernet-APLレールフィールドスイッチの18箇所の用途説明



写真2 Ex ia対応24ポートモデル「ARS11-B2-IA24-1」


PROFINETでは,APLフィールドスイッチはクラスBネットワークをサポートする。さらにMRPリング冗長化やS2システム冗長化などの冗長化メカニズムを提供することができる。

PROFINETの動的再構成機能により,データ交換を中断することなく,実行中にAPLフィールドスイッチの再構成が可能となる。

APLフィールドスイッチの設定と診断は,FDIとWebのインタフェースを介して容易に行える。また,PROFINETデバイス機能とSNMPは迅速な起動を確かなものとし,予知保全にも貢献する。包括的なネットワークと物理層の診断により,故障やダウンタイムのリスクを低減するプロアクティブな管理戦略が可能となる。APLフィールドスイッチは,SNMPv3プロトコルにより,ネットワークセキュリティも強化されており,未使用ポートのロックやHTTPSプロトコルをサポートしている。

なお,各種の設定ツールやファームウェアは当社ホームページから,モデル名(ARS***)を検索し,各製品の紹介ページから無料でダウンロードが可能である。同様に,製品データシート,マニュアル,防爆認定証等もここから入手が可能である。

3.2 防爆認証当社ホームページ

当社製APLフィールドスイッチについては,以下の防爆認証を取得している。

・IECEx,ATEX(欧州),CCCEx(中国)

日本国内の防爆検定については,現在申請準備を進めている。

3.3 納入事例

PEPPERL+FUCHSは,APLフィールドスイッチの販売だけではなく,顧客の要求仕様に応じて,電源やリモートI/O,サージバリア等のその他の機器と一緒にDINレールに設置・配線し,エンクロージャ内に収めた状態でのカスタマイズ納入も可能である(写真3,4)。


写真3 電源,スパーZone0接続のエンクロージャ収納例



写真4 HART-IP対応の防爆リモートI/OとAPLフィールドスイッチ収納例


3.4 その他のEthernet-APL製品

PEPPERL+FUCHSは,APLフィールドスイッチのほかにEthernet-APL製品としてスパーポート保護用のサージプロテクタ,およびAPLフィールドスイッチのアクセサリとしてSFPトランシーバをラインナップしている。

SFPトランシーバは,Ethernet伝送速度や距離に応じて30種類用意されている(写真5)。


写真5 その他のEthernet-APL対応製品
(左:DINレール取り付け用,中央:ネジ止めタイプサージプロテクタ,右:SFPトランシーバ)


4.まとめ

プロセス産業においてもプラントのデジタライゼーションが加速する中で,Ethernet-APLは石油化学,製薬関連の欧米企業を中心に高い関心を集めており,既にBASF社が中国の新設プラントでEthernet-APLの導入を進めていることが,aABB社のホームページでも紹介されており,同社のURLからプロジェクトの概略が閲覧できる。

また,BASF社のプラント紹介ニュースリリースも参考までに記しておきたい。BASF Zhanjiang Verbund site in China

日本国内においても日本フィールドコムグループや日本プロフィバス協会等を通じて,2線式本質安全防爆イーサネット2-WISE,「Ethernet-APL」の注目度が高まっている。今後は国内メーカからもEthernet-APL製品がリリースされ,化学プラントのみならず,製薬工場や飲料プラント,水素,半導体設備,船舶等の防爆を必要とされる場所で,海外のみならず国内普及が進んでいくことも期待したい。

ピーアンドエフ 太田階子

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