脱炭素社会への新たなエネルギー管理の考え方・進め方

【トレンド】

脱炭素社会への新たなエネルギー管理 -小規模電力監視ソリューション

1.はじめに

昨今の社会情勢により,電力を含むエネルギーや各種部材の価格高騰等により省エネ対策への関心が高まっている。2021年5月に【地球温暖化対策推進法の一部改正】が実施され,2023年2月10日には【GX実現に向けた基本方針】が閣議決定され,そのロードマップが公開された。ロードマップの進捗と共にカーボンニュートラルに向けた社会的な要求が高まっていくと考えられる。

一方,中小企業から大企業まで様々な業態・事情があり,省エネ対策への取り組み方も,重要な建屋や区画を選択して実施するやり方,一部の区画や建屋から効果を見ながら実施して拡張していくやり方,一気に事業所全体で施工するやり方など様々だ。

また,事業所単位でみると電力監視だけでなく,その他ユーティリティのエネルギー監視,異常検知,QC,労働環境,近隣周辺への環境監視などが同じシステムで監視できることが望まれる。

本稿では,『事業所の見える化を進めるYOKOGAWAのラインアップ』と,当社の韓国工場(YOKOGAWA Manufacturing Factory Korea)での事例を紹介する。

2.事業所の見える化を進めるYOKOGAWAの製品ラインアップ

図1に典型的な事業所を示す。この例では,『受電・ユーティリティ監視・制御』と『建屋別電力監視』のデータアクイジションシステム「GM10」,また『環境監視』を行うペーパレスレコーダ「GP20」のサブシステム,そしてこれらを統合して一括監視・記録を行うデータロギングソフトウェア「GA10」により,工場全体としての見える化を実現している。


図1 事業所の見える化を進めるYOKOGAWAのラインアップ


2.1 建屋ごと・系統ごとの見える化システム

建屋ごと・系統ごとの見える化システムを図2に示す。これは,図1の受電・ユーティリティ監視・制御のサブシステムである。同じように,建屋別電力監視と環境監視のサブシステムがある。サブシステムの中心には,データロガーGM10や,ペーパレスレコーダGP20,GX20が使われることが多い。これらのデータアクイジション機器は,ほぼ同等の測定機能,記録機能,演算機能,通信機能,Webモニタ機能を持っており,Webモニタからは,ペーパレスレコーダの表示・操作パネルと同等の表示・操作を行うことができる。現場の子局との通信は,EthernetベースのModbus TCP,「SMART 920」小電力無線通信,Modbus RTUが搭載可能で,リモート監視という観点では,50点前後以下の子局の監視に使われることが多い。

したがって,このサブシステムでも小規模の事業所であればメインシステムとして完結できる。図1の例では,目的別に3つのサブシステムを構成して,図3のようにデータロギングソフトウェアGA10によって統合監視している。

図2の受電・ユーティリティ監視・制御サブシステムでは,外部からの受電盤,自社で設置した太陽光パネルからの受電盤に電力モニタを設置して給電電力の系統ごとの電力監視を行っている。また,工場エアーのコンプレッサ,空調装置の消費電力の監視を行っている。空調装置に関しては,電力測定を行っている「UPM100」電力モニタの無線―Modbus RTUゲートウェイ機能を介してPLCとデータ共有を行うことができ,電力消費がピーク電力を超えないように空調を抑えてピーク電力を抑える制御を行っている。


図2 建屋ごと・系統ごとの見える化システム


同様に,建屋別電力監視サブシステムでは,事務エリア,生産エリア,生産設備,研究室エリア,保管庫エリアの電力監視を行っている。

データロガーGM10には,積算バーグラフの表示機能があるので,これを使うと,設定ウイザートでUPM100の型式,通信条件,VT,CTを画面の指示に従って入力していくだけで簡単に電力積算バーグラフの表示を行うことができる。

積算バーグラフの表示を確認することで,図2に示すように,コンプレッサ電力の異常値を発見し,バルブの劣化異常を見つけることなども可能である。

環境監視のサブシステムでは,無線入力ユニット「GX70SM」を温度・湿度センサとして使用して,ペーパレスレコーダGP20に測定データをSMART 920無線通信でデータを集めて環境監視を行っている。

GX70SMは,電池駆動・磁石取付でどこにでも設置可能。熱電対,測温抵抗体直入力,mV,電圧,統一信号入力にも対応した入力が2点搭載されている。また,3点目の入力として湿度センサが内蔵されている。実験室や,生産現場,クリーンルームでは,温度,湿度の測定のほか,マイクロダストセンサなどを接続することができる。

GP20には演算機能があるので,WBGT(暑さ指数)などを計算して警報を出すことができるほか,AI技術を使った未来ペンを使って警報予測を行うことができる。また,GX20,GP20には,カスタムディスプレイ機能が搭載されているので,ユーザ好みのビジュアル表現を行うこともできる。そのほか,工場周辺への環境測定,臭気センサや,騒音センサなどからの信号を入力することができる。

2.2 データロギングソフトウェアGA10による見える化

図3に示したデータロギングソフトウェアGA10による見える化は,これらのサブシステムを統合して工場全体の見える化(電力監視,設備監視,環境監視等)を行うことができる。GM10,GP20,GX20などのサブシステムからデータを収集するだけでなく,Modbus TCP,Modbus RTU通信機能を持った機器であれば,他社の機器でもデータを収集することができる。さらに,当社製の一部の機器に関しては,接続して検索,登録するだけで,機器の持っているタグの情報を自動的にGA10が認識し,これらの設定情報に表示,記録の属性を加えるだけで目的のデータ収集,記録,様々な形式(デジタル,トレンド,棒グラフ,メータ等)での表示を行うことができる。


図3 データロギングソフトウェア「GA10」による見える化


収集したデータはGA10を介して配下のPLCなどにもデータ共有させて,たとえば,先述の空調設備のピーク電力制御を行う際に,環境監視サブシステムの温度・湿度データを考慮して,生産環境や労働環境の許容範囲内で空調抑制制御を行わせることもできる。

GA10データロギングソフトの機能として,図3に示すような積算バーグラフ表示,カスタムディスプレイ,デマンド監視画面,AI技術を使った違和感検知機能がある。AI技術を使った違和感検知機能は,回転機,撹拌機,コンプレッサ等継続して一定の動作を行う機器に対して,振動や消費電力,表面温度などを計測してAIに正常の測定トレンドを学習させて正常モデルに対して違和感をヘルススコアという形で数値化する。これにより,違和感を検知し故障して設備が停止したり,生産物が不良になったり,異常電力消費が継続してしまう前に対策をとることができ,むだの排除や稼働時間の向上,メンテナンス時期の適正時期の把握に貢献できる。

3.当社韓国工場での実施例

当社の韓国工場(YOKOGAWA Electric Manufac-turing Korea Co. Ltd.)に導入された電力監視サブシステムを図4に示す。ここに掲載されている製品/システム以外に,生産品質維持の環境測定を行う環境測定サブシステムと,これらを統合監視・管理するためのデータロギングソフトGA10を導入した。


図4 当社韓国工場での実施事例:電力監視サブシステム


●電力監視の主な目的

1)契約電力10%削減により電気代の支払いを3%低減すること。

2)異常な電力消費を検知して,設備の保全を実施しむだな電力消費を回避する。

3)冷暖房コントローラにピーク電力到達予測データを提供し,冷暖房コントローラは環境監視データを参考にして空調電力の調整を行ってピーク電力超過を抑える。

4)N2ジェネレータの電力がピーク電力に到達する予測警報が出たときにPLCは,N2ジェネレータを停止して予備タンクに切り替えるスイッチング制御を行うことによってピーク電力消費の超過を抑える*1)。

5)将来のソーラーパネル設置に備えCO2排出量を計算できる準備をする。

6)手動でデータ収集していたものを自動的にリアルタイムにデータ収集し表示・記録する。

●環境監視の主な目的

1)品質管理,労働環境監視のための温度,湿度,熱中症指数(WBGT),マイクロダストの表示,警報発報。

2)電力監視と情報を共有して,ピーク電力制御に対する制御エリアを冷暖房コントローラに提供する。

3)手動でデータ収集していたものを自動的にリアルタイムにデータ収集し表示・記録する。

図5に統合管理画面の例を示す。この画面では,電力監視の画面が表示されている。工場建屋をビジュアルに表示して,本館,空調機,警備室,SMT,PSA,食堂の電力使用量を表示している。また,電力量積算バーグラフ表示で,1時間ごとの各所の消費電力量を表示している。空調機のピーク電力を監視してピーク電力に達しそうになると警報を発報する。そのほか,環境監視の画面は,各所の温度,湿度,WBGT(暑さ指数)と空調機の消費電力を表示するなど,ビジュアルでまとめられたデータは,省エネや品質向上等の目的を持った改善を創出する手助けをする。また,いつもと違ったデータ推移の気づきに役立ち,異常個所の発見を早期に行うことができる。


図5 当社韓国工場での実施事例:統合管理画面の例


事業所の電力の見える化によって,1年を通しての電力消費が1月,12月,7月,8月が多くなり,さらに工場全体の電力消費の30%を占めることが判明した。

この夏場と冬場のピーク電力を抑えることによって,1年を通しての契約電力を低減して電力基本料金を10%削減,全電力料金を3%削減できた。

電力監視システムでピーク電力超過が予測される警報を空調用のコントローラに発報し,環境監視データの監査環境(温度/湿度)範囲内で空調出力を抑える制御を行う。

また,コンプレッサの異常電力を検出してバルブの故障を検出し,設備の保全とむだな電力消費を低減した。

このような異常は,設備の劣化と共にある確率で起こるものであるので,常に設備の状況を把握することが重要である。さらに,日々劣化していく状況の推移を観察することによって故障の時期を予測できると,故障の前に設備の保全スケジュールを立てることができ,生産物の損失を防ぐこともできる。また,工場の操業を停止するリスクも回避できる。

このような分野へのAI技術を利用した予兆監視(GA10)や,「SMARTDAC+ 設備・品質 らくらく予兆検知」の適用が今後の課題となっている。

4.CO2排出量の計算

表1に示すように,各電力会社は,毎年発電にかかわるkWhごとの発電で排出するCO2排出量実績値を環境省・経済産業省に報告している。環境省・経済産業省は,前年度の各電力会社のCO2排出量をまとめて,「令和〇年度算定用電気事業者別排出係数」として環境省のホームページなどに公開している。どの事業所でも,消費した電力量を計測していれば,前年度に公開された排出係数を元にCO2排出量を計算することができる。


表1 CO2排出係数(kWh当たり)*3):令和4年算定用電気事業者別排出係数の一例


なお,CO2排出係数は,発電事業者や契約によって発電方法の割合が異なるため様々である*2)。

データロガーGM10,ペーパレスレコーダGX20,GP20は演算機能を持っているので,図1に示す事業所では,図6に示すように,外部からの受電電力量とソーラーパネルからの給電電力量から事業所全体のCO2排出量を計算できる。また,需要側の排出係数を外部とソーラーパネルの電力量から按分してCO2排出係数を求めれば,それぞれのエリア,装置ごとのCO2排出量を計算することができる。


図6 CO2排出量計算


5.おわりに

現時点では,事業所の見える化は,品質保証,設備保全,省エネ,労働環境監視,地域環境監視が主な目的になっているが,GX(Green Transformation)に向けたロードMAPの進捗と共に,社会の意識も浸透して,再エネの導入や,CO2排出量やその低減推移,製品1個当たりのCO2排出量の公開・表示等が求められていくことが予測される。

事業所の見える化は,これらの要求を満たすことができる必要不可欠なファシリティとして認識されていくものと思われる。

注)

*1)N2ジェネレータのピーク電力制御は,期待した成果が出なかったので今後の課題として検討していく。

*2)資源エネルギー庁の公開データによると現時点では,石炭火力:950g/kWh,石油火力:750g/kWh,LNG:500~600g/kWh,太陽光発電:53.4g/kWh,風力発電:29.5g/kWh,原子力発電:21.6g/kWh,水力発電:11.3g/kWh程度となっている。

*3)基礎排出係数は,電力会社が発電する際に排出するCO2量を電力の単位で表した値。一方,調整後排出係数は,再生可能エネルギーの固定価格買取制度による買取電力量や非化石電源からの調達量などを考慮して修正された値。調整後排出係数は,より正確な排出量を反映するために使用される。CO2排出係数は,環境省のウェブサイトなどで電力会社ごとの排出係数を確認することができる。

横河電機 真野修一

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