脱炭素社会への新たなエネルギー管理の考え方・進め方

【ソリューション】

無線流量計による省エネ管理の考え方と実践的活用法

1.はじめに

2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」が示されて以来,モノづくりの現場でも脱炭素化や環境負荷低減といった広範かつ多様で精緻なエネルギー管理のニーズが日々高まっている。脱炭素化については,以前より当社も水素燃料や燃料電池に関連する流量計を取り扱っており,そのニーズの高まりを感じているところではあるが,一方で環境負荷低減として生産活動の省エネルギー化について,より顕著に関心が高まっていると感じている。

特に燃料油・空気・冷却水や蒸気等の「ユーティリティ流体」における使用量監視は,多くの企業において不十分または手付かずとなっていることから,今後の省エネ活動において特に大きな効果が期待できる分野といえる。本稿では,当社が展開する最新の無線ソリューションを用いた費用対効果の高い「ユーティリティ流体の使用量管理」について解説する。

2.省エネルギー化を目的としたユーティリティ流体管理における課題

製品の原料や直接的に品質に関わる添加物をはじめとするプロセス流体とは異なり,生産活動を行う上で副次的に必要となる空気や水,蒸気等を一般的に「ユーティリティ流体」という。これらは確かにエネルギーを使用しているため,その使用量を削減・適正化することで省エネ効果が期待できるが,工場内にありふれた資材であることから使用者における省エネ・コスト意識が希薄となりがちである。

 

たとえば,当社ユーザにおいて,省エネ推進の一環として生産設備の圧縮空気配管に当社流量計を新設しエアーの漏れ量を計測したところ,予想以上に多くのエアー漏れが生じていることが判明し,適切なエアー漏れ対策を行うことで年間約600万円(電力使用量:352MWhに相当)もの省エネ・経費削減を実現できた事例もある。

しかしながら,多くの製造現場においては,(漠然とエアー漏れによる損失は認識していても)このような具体的な漏れ量やコスト感を意識する機会がないまま圧縮空気を使用しているケースも少なくないと思われる。ユーティリティ流体に限らないが省エネを推進する上で,まず始めに着手すべきことは「現状の可視化」である。可視化ができなければ,要改善点が認識できないため,省エネ活動を行う動機付けも希薄なままとなり,また省エネ活動の成果が具体的に把握できないため活動を力強く継続・推進していくことも難しくなる。

ユーティリティ流体においても,まずは流量計を設置し使用量を可視化することが省エネの第一歩となる。また,省エネ効果を最大化するためには,「いつ,どこで,どのくらい」使用されているかをきめ細やかに可視化していく必要があり,理想的には枝分かれした配管の末端まで流量計を設けることが望ましいといえる。すなわち,効果的な省エネを実現するためには多くの流量計が必要となり,また多くの流量計を効率的に管理するためには遠隔監視システムも必要となるため大きな設備投資が必要となる。

しかしながら,「ユーティリティ流体」は前述の通りモノづくりにおいては副次的な資材であることから,その可視化や管理システムに大きな設備投資を行うことができる企業は限定的であるといえよう。その結果,多くの企業では以下のような課題が生じ,省エネ推進の障壁となっている。

●【課題①】:計測ポイントが限定的

流量計を新規に設置するためには,配管工事に加え流量計用の電源工事や信号伝送用のケーブル敷設工事も必要となる場合がある。一般的に,末端の配管になるほど近傍に電源設備がない場合が多く,また遠隔監視に必要なケーブル敷設距離が長くなり,導入コストが上昇する傾向となる。その結果,流量計を設置する箇所は供給元に近い配管のみ(総使用量の可視化のみ)となりがちであり,この場合は,漠然とむだの発生が認識できたとしても「いつ,どこで,どのくらい」までは特定できないため対策が困難となる。

昨今では,配管工事不要なクランプオンタイプの流量計も多く発売されているが,電源設備は必須となるため設置場所の自由度には課題が残る。

●【課題②】:煩雑な使用量管理

多くの企業では「ユーティリティ流体における使用量の可視化」に大きな設備投資を行うことは難しい現実があり,その結果,当該用途に用いられる流量計は「現場表示のみ(外部出力なし)」かつ「機械式(羽根車式など)」のシンプルで安価なものが好んで使われる傾向がある。現場表示のみであれば信号伝送用ケーブルが不要であり,また機械式であれば電源が不要であるため設置場所の自由度が高く,枝の配管まで設置しやすい利点がある。

しかしながら,事業所内の主要な箇所に流量計が設置できたとしても,遠隔監視ではないため定期的に事業所内(流量計の設置場所)を巡回して使用量を確認・記録する必要があり,「労力」や「記録の正確性」,「情報の更新頻度」などの面において大きな課題がある。また,昨今では労働人口の減少も進んでおり,労働集約的な管理システムは「持続性」においても課題がある。加えて,流量計は地下や高所,防爆地域などの危険場所に設置されているケースも多いため「安全面」においても課題が残る。

以上の通り,「ユーティリティ流体の使用量管理」によって効果的な省エネを推進していくためにはいくつかの課題があるが,上記【課題①】に対しては「設置自由度が高く低コストに導入できる流量計」,また【課題②】に対しては「安価に導入できる情報通信インフラおよび遠隔データ収集システム」が解決策になるといえよう。これらの課題解決に寄与し得る最新技術として昨今注目を集めているのが工業向けの無線通信である。

次章より,当社製品群を用いた具体的な「解決方法」について紹介する。

3.効果的な省エネ活動に寄与する流量計および無線ソリューション

3.1 ユーティリティ流体計測に最適な流量計

当社では,水,燃料油,圧縮空気,蒸気など様々なユーティリティ流体の計測に最適な流量計をラインアップしている(表1)。何れも「内蔵電池式」もしくは流体が流れるエネルギーによって稼働する「機械式」の流量計であるため,外部電源設備が不要であり,設置場所の自由度が非常に高いものとなっている。


表1 外部電源不要なユーティリティ流体向け流量計


また,「フローペット-5G」および「EggsDELTAⅡ」については,無線通信仕様をラインアップしているため後述する無線ネットワークをダイレクトに活用可能である。さらに,他の流量計についても,後述する「流量パルス入力ノード(無線子機)」と組み合わせることで当社が展開する無線ネットワークに接続可能となる。

3.2 簡単・低コストに導入できる無線ネットワークシステム「ミスター省エネ」

当社が展開する「ミスター省エネ*1)」は,920MHz由来の「よく飛ぶ」性質を有し,加えて流量計測のみならず,温度・圧力・電力,CO2,照度,人感等の計測に対応した様々なノード(無線子機)をラインアップした総合無線ソリューションである。

一般に普及しているWi-FiやWirelessHARTなどで使用されている2.4GHz帯とは異なる「920MHz帯」を用いた無線ネットワークであるため通信障害が起きにくく,また,一般的なWi-Fiと比べ同条件であれば2~3倍程度の通信距離を実現できるものとなっている。回折性にも優れているためパイプジャングルのような環境にも強い無線である。

多くのノードは電池やエネルギーハーベスト駆動に対応しており,外部電源なしで長期間の連続稼働が可能となっている。中継器(ルータ)や用途によって選択できる複数の親機(ベース)も用意されており,実現したいシステムに応じて柔軟なシステム構築が可能となっている。

また,スモールスタートに特化した無償PCアプリ付きのパッケージ製品も多数ラインアップしており,初めて無線ネットワークを導入する場合も,少しずつ「味見」をしながら適用範囲やセンサ群,上位システムを拡張していくことが可能なソリューションとなっている(図1)。


図1 当社無線機器群


ノード群のうち「流量パルス入力ノード」は,流量計からの汎用的なパルス信号を接続することでパルス信号を流量情報(積算流量,瞬時流量)に変換し無線送信するノードである。バリエーションとして,樹脂ケース製の非防爆タイプ(1分間隔の無線通信条件にて電池寿命:約7年)と金属筐体の耐圧防爆型(1分間隔の無線通信条件にて電池寿命:約10年)を用意している。汎用的な流量パルス信号を出力する流量計であれば,メーカを問わず当該ノードを接続することで「ミスター省エネ」の無線ネットワークに接続できるため,現在,現場表示のみで管理している既設流量計がパルス出力機能を有している場合は,既設流量計に当該ユニットを「後付け」するだけで無線による遠隔通信を実現できる。

一例として,液体・気体・蒸気と幅広い流体計測が可能な当社の渦流量計「電池式EXデルタⅡ(耐圧防爆仕様)」と「流量パルスノード(耐圧防爆仕様)」を組み合わせることで,「外部電源不要」・「信号伝送ケーブル不要」かつ「防爆エリアで使用可能」となり,設置場所を選ばず簡単・安価に流量の遠隔管理を実現することができる。すなわち,前述の課題①②を解決し得るソリューションといえよう(図2)。


図2 電池式「EXデルタⅡ」と流量パルス入力ノード(耐圧防爆仕様)の組み合わせ例


4.おわりに

本稿では「流量の可視化による省エネ」に焦点を当てたが,流量以外にも温度・湿度・CO2・電力量・人の動きなどの様々な現場情報を一元収集・解析することで工場全体の「健康状態」が可視化され,より有意義で効果的な省エネ活動が実現できるものと期待される。

当社では,多くのユーザひいては社会全体の省エネ活動に貢献すべく,バラエティに富んだ無線センサ群を用いた総合無線ソリューションを展開している(図3)。機器選定・上位システム開発・現場構築等の全てをワンストップで対応可能であるため,自社内の省エネ推進を検討される場合には,是非お声がけいただければ幸いである。また,ユーティリティ計測を極めた新たな無線流量計も開発中であり,今後の当社製品展開にもご期待いただきたい。


図3 工場まるごと無線化


注)

*1)「ミスター省エネ」は,セイコーインスツル㈱(以下SII社)の独自開発による920MHz無線機器群である。本稿で紹介する「耐圧防爆形 ミスター省エネ対応 無線通信ユニット」は,SII社の技術支援のもと当社が自社開発した製品である(「ミスター省エネ」は,セイコーインスツル㈱の登録商標である)。

オーバル 北野哲史

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