安全・安定操業へのリスク低減と最適化~その傾向と対策

【ベンダ・ソリューション】

現場作業安全管理ソリューション (デジタルControl of Workソリューション)

1.はじめに~社会を支える現場作業とそれに伴う安全管理の重要性

内閣府が提唱したSociety5.0や,欧州委員会でIndustry4.0の次世代として議論がなされているIndustry5.0など,持続可能性や人間中心といった重要なテーマの下で,未来の社会や産業のあるべき姿への指針となる新たなコンセプトが生まれている。よりスマートに人々のウェルビーイングを最大化する社会を目指すそのようなコンセプトや取り組みがある一方,どの産業・社会・時代においても最優先されるのが「安全」である。

特に産業プラント等の生産現場においては,設備を維持し生産を継続するために保全に関わる現場作業が欠かせないが,高所作業や閉所空間での作業等,現場作業は常に危険リスクと隣り合わせの状態である。現在においても未来においても社会を支える基盤の一つである産業プラントや生産現場における安全を担保し,その現場で作業する人々の安全を守ることが,よりスマートに人々のウェルビーイングを最大化する社会を実現する上での必須条件となり得る。

本稿では,そのように社会において重要な要素の1つである現場作業に伴う安全管理に関する課題,それに対するソリューションを紹介する。

2.課題:保全に関わる現場作業に伴う安全管理

高所作業,地下や閉所空間での作業,電気・機械・薬品などを取り扱う作業,溶接や工具による作業など,日々現場では危険な作業が伴う。それらを適切に管理しなければ,生産への影響はもちろん,環境や社会への影響,さらには人の怪我や生命に関わるような事故につながりかねない。

総務省消防庁が発表した「令和4年版 消防白書」によれば,令和3年だけをとってみても年間293件(石油コンビナート等特別防災区域の特定事業所での事故発生件数)もの事故が発生しており,また,厚生労働省が発表した「令和4年 労働災害発生状況」によれば,年間で労働災害による休業4日以上の死傷者数は1,769人,うち死亡者数は774人と,安全管理は産業や社会にとって依然として大きな課題である。

安全に関し,特に保全に関わる現場作業においては,大きく2つの課題が挙げられる。

1つ目は,紙や表計算ソフトウェアを用いた管理からの脱却である。現場作業前には,作業時に想定される危険リスクの洗い出し,各リスクに対する低減策の策定,作業実施前の作業許可証作成・承認・発行,電気設備の電源オフなどの設備の切り離し作業(アイソレーション)等のプロセスを適切かつ確実に実行しなければならない。しかしながら,紙や表計算ソフトウェアを用いた管理では,データの一元管理の難しさ,データのリアルタイム性の低さ,データへのアクセス性の悪さなどが影響し,プロセスの抜けや不足などの要因で事故につながる可能性がある。

計装関連の場合,特に安全計装機器などへの保全作業の際には,関連する機器や制御機構へのオーバーライド(インターロック等の安全機構を保全作業などのために一時的に作動しないようにすること)が行われた上で作業が実施され,作業後に安全計装システムを通常通り作動させるためオーバーライドからの復帰が行われる必要があるが,それらが適切に行われず,安全計装システムが起因となりトリップや事故が発生してしまう事例もある。

また,紙や表計算ソフトウェアでの管理は複雑であるため,事故の再発防止策が機能しない要因にもなりうる。たとえば,事故が発生した場合に再発を防ぐため,新たな準備手順やプロセスを追加するケースが考えられるが,紙や表計算ソフトウェアでの管理は複雑であるがゆえ,現場では関係者がその追加に対応しきれず事故が再発し得る。その結果,さらに新たな準備手順やプロセスを追加する,という負のスパイラルが発生する(図1)。


図1 紙や表計算ソフトウェアでの管理に伴う負のスパイラル


そして2つ目は,ナレッジの管理である。特に,先述の現場作業前における作業時に想定される危険リスクの洗い出し,各リスクに対する低減策の策定のためには,様々なデータや情報を集め分析する必要があり,非常に膨大かつ困難な作業になり得る。その結果,洗い出された危険リスクや策定された低減策は貴重なナレッジとなるが,個人・チーム・工場・会社という限定された範囲で蓄積・共有されることが多く,社外含めたこれまでの過去の知見を合わせた,いわゆるベストプラクティスになっていない場合が多々みられる。また,少子高齢化に伴うベテランの退職で,ナレッジが失われてしまう点もナレッジの管理が課題となっているゆえんである。

3.課題解決:現場作業安全管理ソリューション(デジタルControl of Workソリューション)

これらの課題を解決する当社の現場作業安全管理ソリューション(図2)は,“デジタルControl of Work (CoW)ソリューション”とも呼ばれ,ソフトウェアで現場作業の安全な完遂をサポートするものであり,主に以下の3つの特長を持つ。


図2 現場作業安全管理ソリューションの概要


①確実かつ効率的な現場作業プロセス実行のためのデジタル化

②効率的かつ安全な現場作業の完遂に貢献するナレッジデータベース

③危険リスク等への正確な理解を促進する多言語サポート

各特長の概要について以下に述べる。

3.1 [特長①]確実かつ効率的な現場作業プロセス実行のためのデジタル化

1つ目の特長は,作業時に想定される危険リスクの洗い出し,各リスクに対する低減策の策定,作業実施前の作業許可証作成・承認・発行,アイソレーション等のプロセスをデジタル化することで,プロセスの抜けや不足を防ぐとともに,より効率的なプロセスの実行,現場作業の遂行を可能にすることである。

もちろん安全計装機器などへの保全作業の際に必要なプロセスである,作業前の機器や制御機構へのオーバーライド,作業後に安全計装システムを通常通り作動させるためのオーバーライドからの復帰もその中に含まれる。そのような特長により,安全計装システムが起因となるトリップや事故を防ぐだけでなく,通常通りの生産の継続や,万が一の際の安全計装システムによる安全措置を通して持続可能な生産活動の実現に貢献する。

紙や表計算ソフトウェアを用いた管理から,ソフトウェアを用いた管理へ切り替えることで,必要なプロセスを適切かつ確実に管理・実行し,現場作業を安全に完遂することにつながる。

3.2 [特長②]効率的かつ安全な現場作業の完遂に貢献するナレッジデータベース

2つ目の特長は,長年の現場での経験により体系化・洗練化されたナレッジデータベース(図3)である。このナレッジデータベースは,ファイルやフォルダといった雑多なデータや情報を置いておくためのただのスペースではなく,先述の現場作業前における作業時に想定される危険リスクの洗い出し,各リスクに対する低減策の策定などに関するナレッジを蓄積・管理・活用するために体系化されている。


図3 現場作業安全管理ソリューションのナレッジデータベースの概要


このナレッジデータベースには長年の現場での経験を基に,すでにナレッジが蓄積されており,様々な現場で創り出され洗練化されてきたベストプラクティスが凝縮されている。さらに,ナレッジはデータや情報とは異なり,実際のアクションや意思決定につながるものである。具体的には,各作業種別において想定される危険リスク,各リスクに対する低減策,必要な保護具,必要な作業許可承認プロセス,立ち入り禁止区域など(図4),危険な現場作業において必要なアクションや意思決定をサポートするものであり,現場作業安全管理ソリューションのユーザはそれらのナレッジを活用することで,より効率的かつ安全に現場作業を完遂することができる。


図4 現場作業安全管理ソリューションのナレッジデータベースに蓄積されたナレッジの例


また,既存のナレッジに加え,すでにベテランなどが持つ各現場におけるナレッジも体系化されたナレッジデータベースに格納することで,ナレッジが失われてしまうことを防ぎ,持続可能な生産活動や事業活動が可能となる。

3.3 [特長③]危険リスク等への正確な理解を促進する多言語サポート

3つ目の特長は,多言語サポートである。現場作業の内容や危険リスク等に関する情報を母国語で正しく理解することは,作業を遂行する上で重要である。国際化や移民政策などにより,より様々な国や地域の人々が現場作業にも参画し人手不足の解消につながる可能性がある一方,言語の壁は人と人とのコミュニケーションの問題だけでなく,現場作業の内容や危険リスク等に関する情報が理解不足のまま現場作業を遂行することに伴う安全上の問題を引き起こす可能性がある。そのような点を多言語サポートで解決することで,人手不足の解消と安全な現場作業を同時に実現し,持続可能な生産・事業・社会に貢献し得る。

これらの特長を持つ当社の現場作業安全管理ソリューションを導入することで,実際に様々な現場において,労働時間の削減,定期修理工事の日数削減,事故の減少といった導入効果(図5)が出ている。デジタル化・ナレッジデータベース・多言語サポートといった一見ありふれたキーワードを特長としたソリューションだが,長年現場で様々なユーザに実践的に使用され改良されてきたからこそ,効果や実績が伴うソリューションとして進化し活用されてきたと考えている(図6)。


図5 現場作業安全管理ソリューションの導入効果の例



図6 現場作業安全管理ソリューションの導入実績やその他関連数字


4.最後に

本稿では,まず「社会を支える現場作業とそれに伴う安全管理の重要性」と題し,社会全体の動向という観点から,現場作業や安全管理の重要性に言及した。その後,「保全に関わる現場作業に伴う安全管理」と題し,実際の現場作業という観点に切り替え,実務的な面を含め,そこでの課題について共有した。

 

次に,それらの課題に対するソリューションとして,当社の現場作業安全管理ソリューションを挙げ,デジタル化・ナレッジデータベース・多言語サポートという特長だけでなく,それらがどのように課題にアプローチし解決するか,その効果や実績を含め紹介した。

最後に,今後の展望について語る。今回紹介した現場作業安全管理ソリューションは実践的に現場作業の安全管理を遂行する上で大いに活用できるソリューションであるが,より広い視点で見たとき,「安全」というテーマは現場作業だけでなく企業全体や社会全体においても重要なテーマである。そのような視点に立つと,現場作業だけでなく,プロセス安全管理や労働安全衛生といった分野にもソリューションの適用範囲を広げ,より企業全体や社会全体の安全に貢献すべきと考える。

また,技術の面においては,今後さらにロボットやドローン,Connected Worker,AI,ブロックチェーンなどの技術が発展してくると考えられ,それらとの融合が重要になってくる。

一方で,技術の導入を拙速に進めてしまうことには注意を払う必要がある。技術だけでなくそこに関わる業務プロセス,人々や組織,社会やステークホルダといった要素も加味した上で,全体の価値や人々のウェルビーイングが最大化される選択肢を常に模索し,必要な技術の導入と同時に業務プロセス,人々や組織自体の変革も併せて行うことが不可欠である。

横河電機はそのような活動をリードし,よりスマートに人々のウェルビーイングを最大化する社会の実現に貢献していきたいと考えている。

横河電機 児林貴洸

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