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最大6種類のガスを同時検知可能な ポータブル型マルチガス検知器

1.はじめに

当社は1939年,当時頻発していたオイルタンカーの爆発事故や炭鉱での爆発事故を防止するためのガス検知器を販売するために創業した(写真1)。その後,様々な産業向けにガス検知器の開発・製造・販売を行ってきた。オイルタンカーや炭鉱向けのガス検知器から始まった弊社であるが,現在では,ポータブル型のガス検知器は,爆発・酸欠・中毒防止のため,多くの作業現場に存在する可燃性ガス,酸素,一酸化炭素,硫化水素の濃度を測るガス検知器や,様々な産業のニーズに対応したガス検知器をライナップしている。


写真1 創業当時のガス検知器(3型)


近年は,脱炭素に向けたエネルギー変換に伴い代替燃料の検知ニーズや,様々な技術の発展や安全意識の向上にともない,従来検知対象としていたガスにとどまらず,アンモニアや塩素,揮発性有機化合物(VOC)といった多様な毒性ガス濃度を同時に測定する要望が増えてきている。

2.「GX-9000」シリーズの新規開発

昨今の多様なニーズに応えるべく,当社では,従来機種(GX-8000,RX-8000シリーズ)の主な用途であった船舶用に加え,脱炭素に向けた代替燃料へのニーズや,陸上や地下作業などの様々な用途にも1台で対応できるポータブル型マルチガス検知器「GX-9000」シリーズを新たに開発し,2023年3月に発売した。汎用タイプのGX-9000型と,オイルタンカー向けとして,高濃度硫化水素(最大1000 ppm)の測定に対応するGX-9000H型の2機種をラインアップしている。

GX-9000シリーズは0種場所でも使用可能な防爆構造となっており,可燃性ガスセンサに接触燃焼式センサを搭載した場合は,本質安全防爆と耐圧防爆を組み合わせた『da ia』構造,接触燃焼式センサを搭載しない組み合わせでは本質安全防爆構造『ia』として,国内防爆や海外防爆を取得している。

3.GX-9000シリーズの特長

(1)高性能センサ搭載

搭載されているガスセンサは,小型で性能および耐久性を向上させた,当社独自開発の次世代型高性能センサ「Rセンサーシリーズ」と「Fセンサーシリーズ」(写真2)に一新し,センサ保証は従来機の1年から最大3年に延ばした。また,新センサを搭載することで,6種類のガスセンサを搭載することが可能となっており,同時検知可能なガス数を最大6種類に増やすことを実現している。


写真2 次世代型高性能センサ
(上):「Rセンサーシリーズ」,(下):「Fセンサーシリーズ」


さらに,新たにPIDセンサなども搭載を可能とし,センサライナップの充実を図ることで,様々な用途に対応できるようにした。

(2)最大6種類のガスを同時検知

GX-9000型(写真3)は,最大6種類のガスを同時に検知できることが最大の特長である。検知対象ガスは可燃性ガス,酸素,一酸化炭素,低濃度硫化水素の主要4種のガスに加えて,二酸化炭素,アンモニアや塩素を含む毒性ガス(6種類)およびVOCなどから2種類,最大6種類の検知ガスを選択することができる。


写真3 (左):「GX-9000型」,(右):「X-9000H型」


可燃性ガスセンサは接触燃焼式,熱伝導式,赤外線式の3つの原理をラインナップしており,水素検知やイナート中(N2中)での検知など,用途に合ったセンサを選定できるようになっており,幅広い用途に対応している。

また,様々なセンサから測定するガスに合わせて選択することが可能となっており,センサの組み合わせは1,000通り以上で,用途に合わせて最適なガス検知器を選定できる製品となっている。

高濃度硫化水素(1000ppm)の検知に対応したGX-9000H型は,高濃度硫化水素の測定モードと,低濃度硫化水素を含む最大4種類のガスの測定モードを,切替えて検知できる仕様となっており,内部配管をボタン操作で簡単に切り替えて,それぞれの測定モードで検知できるようになっている。

(3)高耐久性

使用温度範囲は,-40℃から+60℃と過酷な環境下でも使用でき,保護等級はIP66/68(水深2m,1時間浸漬)と防塵・防水性能を高めたほか,1.5mの落下耐久性も備えた。また,ポンプ吸引可能な距離も,従来は30mであったが,別売品のサンプリングチューブ(浮子付き,錘付き)と組み合わせれば,強力ポンプにより最長で45mのポンプ吸引が可能となり,大型タンク内やマンホール内などの安全確認に対応した。

(4)長い連続使用時間

電源は乾電池(単3形アルカリ乾電池6本)とリチウムイオン電池(充電池)から選択可能としている。GX-9000型は乾電池で約12時間,充電池で約25時間,GX-9000H型は乾電池で約15時間,充電池で約35時間の使用が可能。従来機よりも連続使用時間を約2倍と大幅に延ばした。

(5)多言語表示機能

従来機種は英語のみの表示であったが,船舶では多様な国の方が作業していることが想定されるため,GX-9000シリーズでは16言語から選択可能としている。

(6)可燃性ガス読み替え機能

可燃性ガスセンサに接触燃焼式(ニューセラミック式)センサを選定した場合,27種類の可燃性ガスを直読することができる読み替え機能を搭載した。測定したい可燃性ガスが複数ある場合も簡単に濃度を読み取ることが可能となっている。

(7)通信機能を追加

新たに近距離無線通信規格「Bluetooth」機能を搭載した。スマートフォンやタブレットとの通信が可能で,専用アプリ「RK Link」により警報時にはスマートフォンからメールを指定アドレスに送信し,緊急事態を早期に共有することが可能である(図1)。


図1 「RK Link」の画面イメージ


また,船舶などで複数個所の点検を行う際に便利な新機能の,「スナップログボタン」も備え,測定日時,測定者,場所,測定値をワンタッチで保存できる。測定したデータはCSVファイルに変換して,外部アプリによりメールに添付して送信できるため,点検時の濃度データの管理などに活用いただくことも可能である。

4.用途(アプリケーション)

ここでは,GX-9000シリーズの用途について記述する。

原油や液化天然ガス(LNG)を輸送する船舶では,積荷を下ろした後に清掃などで人が入る前に,爆発を防ぐためにまず不活性ガスを送り込み,タンク内の可燃性ガス濃度を下げる(パージ)。パージ後は酸素が欠乏するため,酸素濃度が上がるまで大気によりパージを行う。その際,可燃性ガス濃度が十分に下がり,爆発の危険がないことを確認し,また大気パージにより酸素濃度が上がっていることをチェックするために使用される。

船舶のタンク以外にも閉鎖区画の硫化水素,酸素濃度や修理時にタンク内に残った残留ガス濃度の測定に使用されている。また,一定の条件を満たした船舶は,ガス検知器を備えることが,タイタニック号の海難事故を受けて締結された「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS)をはじめとするルールで求められており,脱炭素化に向けた新たな燃料などについてもルール化が進められている。

当社では船舶以外の用途としても,石油・石油化学産業や官公庁,地下(トンネル工事現場)など様々な作業現場での使用を想定している。また,ガス種のラインナップを増やしたことで,新たな市場や用途での販売も期待している。

GX-9000シリーズでは国内防爆のほか,国際防爆規格のIECEx,欧州防爆指令ATEXの認証を取得している。さらに各国の防爆規格の取得も進めている。また,可燃性ガスや酸素に関するガス検知器の欧州EN規格(EN60079-29-1 およびEN50104,性能規格),船舶向けに要求されることが多い欧州舶用機器指令(MED)の認証取得に向けて作業を進めており,1年以内に取得を目指している。EN規格やMEDは,海外を含めて取得している製品は少なく,取得することで大きな強みになると見込んでいる。

5.終わりに

当社では,船舶向けの規格として,国土交通省型式認証(JG)や欧州舶用機器指令(MED),NK鑑定書のほか,各国の防爆取得や性能規格などを積極的に取得しており,国内はもとより海外への販売も強化するために充実したラインナップを揃えている。

これらの規格は第三者機関の評価も必要としており,性能・信頼性など規格に裏付けされており,安心してご使用いただける製品となっている。今後も,海外で要望のある規格取得が可能な製品開発を継続して進めていく。

さらに,携帯型のガス検知器は個人や周囲の監視を目的としてきたが,通信機能を備え,システムとの連携やエリア監視などのニーズも高まっており,Bluetoothやニーズに合わせた通信にも対応を進めていく。

当社ではこれまでも,ガス種のライナップの充実により,様々なニーズに対応してきた。今後も,脱炭素化に向けた水素やアンモニアなどの代替燃料に対応した製品の充実をはじめ,新たなニーズにも対応を進め,ユーザのニーズに合ったガス検知器を提供していく。

理研計器 杉山浩昭

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