【製品動向:ベンダ・プレゼン】
保全業務を効率化する渦流量計
1.はじめに
プラントの安定した操業を続けるためには各種設備の保全が不可欠である。プラントには製品のメインラインのみならず,ユーティリティと呼ばれる圧縮空気,窒素ガス,蒸気,冷却水,燃料などの供給が必要であり,保全が必要な機器は多種多様で膨大な数となりうる。しかしながら,多くのプラントや工場では保全業務に十分なリソースをかけられないのが実情である。最小限のコストで設備保全をするなか,スキルを持った技術者の定年による離職や高齢化,少子化による人材不足という社会的課題は深刻である。これらの保全業務が抱える様々な課題を解決するために,個人の経験や勘に頼っていた業務の属人化からの早急な脱却が求められている。
プラントの安定かつ安全な運用,全体最適化を目指す場合に鍵を握るのが,設備保全の効率化・省人化である。渦流量計「VYシリーズ」は,保全業務を効率化するデジタル化技術と優れたメンテナンス性を有する独自の検出構造により,それらをサポートすることを可能とした。
2.デジタル化技術で効率的・計画的な保全業務を支援する渦流量計「VY シリーズ」
当社横河電機(以下,当社)の渦流量計は世界に先駆けて1968年に発売して以来,全世界でシリーズ累計50万台以上を販売してきた。2022年8月に国内発売したVYシリーズは,液体,気体,蒸気を測定できる渦流量計の最新型である。当社独自の検出構造を踏襲し,堅牢性と安定性,高いメンテナンス性を備えている。口径15 mmから400 mmまで広い流量範囲に対応する(写真1)。
また,渦発生体に温度センサを内蔵した内蔵温度計形,蒸気供給ラインのように季節により流量が減少するラインに適した縮小管・拡大管が一体になったレデューサ形,流体温度450℃まで対応した高温形,極低温形や高圧形など幅広いアプリケーションに対応するラインアップを有している。
法規制や規格対応については,日本をはじめとした各国の防爆やPEDといった安全規格に加えて,より高い信頼性が求められる機能安全規格IEC61508 安全度水準SIL2に対応した。NAMUR NE21,NE107や船級規格,NACE材料証明など各種業界標準規格や法規制・認証にも幅広く対応する。
3.保全業務を効率化するデジタル化技術
VYシリーズは,デジタル化技術によって進化した多彩な機器診断機能を備え,操作性に優れたベリフィケーションツールに対応した(図1)。自己診断とプロセス診断は標準で本体にその機能を有している。さらに,専用ソフトウェアの電磁流量計・渦流量計ベリフィケーションツール「FSA130」(別売り)および機器調整・設定・管理ソフトウェア「FieldMate」(別売り)により,ベリフィケーション機能とリモートメンテナンス機能がPC画面上で簡単に利用できるようになり,機器の健全性の確認・管理といった操作性が飛躍的に向上する。
次の項で,保全業務における効率化と省人化に大きく貢献するこれら多彩な機器診断機能を紹介する。
3.1 機器保全が必要な箇所を簡単に特定できる機器単体での診断
VY シリーズは内部信号のデジタル化を促進し,機器自身の異常を検知する自己診断機能および流体プロセスの異常を検知するプロセス診断機能を強化した。パラメータやアラームで機器保全が必要な箇所を容易に特定できるため,出力に乱れが生じた場合に,的確な初動対応をサポートする。その結果,プラント運転のダウンタイムの最小化に貢献できる。またこれら自己診断機能により機能安全(SIL2準拠)に適合しているため,安全計装などの高い信頼性が求められるループでも利用できる。
(1)自己診断
VYシリーズは渦発生体,センサ素子,内蔵された温度計,流量を計算する内部CPU・IC・回路等の自己診断機能を搭載している。異常が検知された場合は速やかにアラーム出力を行う。上位システムは早期に機器異常を把握できるため,プラント運転のダウンタイム短縮に貢献する。また,これらは3.2(1)項で紹介するベリフィケーションツールでの確認も可能である(図2)。
(2)プロセス診断
VYシリーズは自己診断による機器側の異常だけでなく,センサから得られる流量信号から流体の脈動・揺動,配管の異常振動などのプロセス側の異常検知するプロセス診断機能を兼ね備えている。出力異常があった場合,機器異常とプロセス異常を切り分ける必要がある。自己診断で機器の状態が判断できるため,プロセス診断アラームの信頼性が高まり,アラーム発生時の適切な初動対応が可能となる(図3)。
このようにメンテナンスが必要な箇所の把握を支援し対策を迅速に講じることで,プラント運転のダウンタイムを短縮し,スマートな保全活動に貢献する。
3.2 遠隔から機器の状態を把握するベリフィケーションツール
健全性を確認するための専用ソフトウェアFSA130(電磁流量計・渦流量計ベリフィケーションツール,別売り)および機器調整・設定・管理ソフトウェアFieldMate(別売り)は,現場に行かずに計器室などの離れた場所からリモートメンテナンスを実現する。
FSA130のベリフィケーション機能とリモートメンテナンス機能の構成と概要を図4に示す。
(1)ベリフィケーション機能
図5はFSA130のベリフィケーションツールの画面である。標準ベリフィケーションは複雑なパラメータ設定を意識することなく,対話形式でVYシリーズの自己診断機能(ビルトインベリフィケーション)を使った健全性の確認と結果の表示ができる。
拡張ベリフィケーションはハンディキャリブレータ「CA500」などの外部機器を用いて,電流出力/パルス出力/ステータス出力/電流入力の健全性の確認をする。ベリフィケーションの結果はFieldMateのデータベースまたはファイルとして保存でき,必要なときに読み込んで確認できる。また本ツールはレポート(PDFファイル形式)出力にも対応しており,日々の保守作業の効率化に貢献する。
(2)リモートメンテナンス機能
従来機種では不安定な出力が確認された際,オシロスコープ(電気信号測定器)を現場に持ち込んで機器の測定状態を把握し,パラメータを手動チューニングして出力を安定させていた。
VYシリーズではFSA130のリモートメンテナンス機能を使うことで,離れた場所にある計器室から測定状態を確認したり,必要に応じてチューニングしたりすることが可能となった。オシロスコープを持ち込むなどの大掛かりな準備が不要で,運転中でも容易に測定状態が確認できる。ベリフィケーション機能で機器の健全性,リモートメンテナンス機能で測定状態の健全性を日常的に確認することで状態基準による保全業務に貢献することが期待される。リモートメンテナンス機能には,渦波形モニタリング,渦周波数分析,渦センサ予知診断がある。
図6は渦波形モニタリングの画面である。上段は信号波形,下段は信号処理後の波形を示している。測定の健全性をグラフィカルに確認でき,自動チューニングで安定測定が難しいアプリケーションにおいては,ユーザの現場に合わせた最適な信号波形のチューニングを行うことができる。
また,図7は渦周波数分析画面である。従来はハンドヘルドターミナルでデータを取得し,表計算ソフト等でグラフ化する必要があったが,FSA130では単体で実現可能となった。機器がとらえた渦信号の周波数帯ごとの強度分布を示しており,渦信号の状態や振動等のノイズ混入を可視化できる。個別に設定することなく,自動で渦信号から振動ノイズを取り除くチューニングがされていることを確認できる。また,手動調整も可能である。これらにより,保全の効率化や省人化を実現できる。
FSA130の渦センサ予知診断は,流量計内部に蓄積したセンサ素子の状態をグラフィカルに表示し,経年変化の確認とメンテナンスが必要な時期を推定できる。
図8はセンサの健全性予測のデモンストレーション結果である。■マークはセンサの状態がトレンドで表示され,□マークは未来のセンサの状態を推定し示している。このように,客観的なデータに基づき状態に応じたメンテナンスが可能になることで,効率的かつ計画的な状態基準保全を支援する。これによりメンテナンスによるプラント運転のダウンタイムを最小化することができ,工場の稼働率の維持向上に貢献できる。
4.優れたメンテナンス性を有するハードウェア構成
デジタル化技術だけでなく,VYシリーズはハードウェア面でも優れたメンテナンス性を有している。独自の検出構造はボディ脱着可能でメンテナンス性が高く,変換器パラメータを検出器側にバックアップすることで,ソフト・ハード両面から省人化のニーズに対応する。
4.1 ボディから脱着可能な渦発生体
長いプラント運用のなかでは流体の堆積などにより,渦発生体の清掃や交換も保全活動として想定される。当社の渦流量計の渦発生体は 2つの流量センサと1つの温度センサ(オプション)を内蔵した独自の一体構造で,高い堅牢性と長期安定性を備えている。渦発生体はボディから簡単に脱着させることができるため,清掃や交換のために流量計を配管からまるごと取り外すことなく保全活動が可能となる(図9)。
4.2 ダウンタイムを短縮するパラメータバックアップ
長いプラント運用および渦流量計の使用期間では,分離形変換器の交換が必要になることも想定される。短時間で交換して復旧させる場面で,多数の検出器固有のパラメータを手作業で設定することは時間を要し,設定間違いが発生する可能性がある。
この問題点に対してVYシリーズでは,検出器側にパラメータ保存メモリを有している。これにより,容易に原状復帰できるため,短いダウンタイムで運転を再開できる。またプラント全体の生産性を改善し継続的なプラント運営に貢献する(図10)。
5.まとめ
多くの業種で不可欠なユーティリティラインで用いられる渦流量計において,渦流量計VYシリーズはデジタル化技術と独自構造によって,ソフト・ハード両面で保全活動の効率化・省人化に貢献していく。
保全業務のリソース不足,技術者の高齢化と少子化による人材不足,設備の老朽化などは,近年重要な課題の一つであり,今後も重要な課題になると考えられる。個人の勘や経験をデジタル化,見える化することで,保全業務の課題解決を支援していきたい。
本記事で紹介した渦流量計VYシリーズがユーザ各位の保全業務の課題解決の一助となれば幸いである。これからも現状の製品に満足することなく,ユーザとの価値共創に邁進していく所存である。
注)本文で使用した商品名,サービス名等は,当社,各社および各団体の登録商標または商標である。