工場保安力の強化・高度化への実践テクニック- -(3)機能安全/安全計装

【実践ソリューション】

インターロックの見える化~DXに向けての提案~

1.はじめに

近年,プラントの生産系ではデジタル変革(Digital Transformation,以下DXとする)のためのデータの収集・活用が進んでいるが,プラントの安全を担保する緊急遮断系では,特に中小規模の設備においては,まだリレー回路によるインターロック盤が主流である。経済産業省は2017年に新認定事業所制度を開始して,企業の緊急遮断系の自主的な取り組みを促進している。

企業の自主的な取り組みとして自主保全があり,企業の安全基準に対応したリレー緊急遮断が導入されているが,生産系の情報システムから分離されているのが現状であると考える。

生産系の情報システムと連携するDX化の第1歩として,中小規模の設備のリレー緊急遮断系の代わりに「ProSafe-RS Lite Basic System」を導入することを提案する。

 

2.リレー回路による緊急遮断システムの課題

現在でも日本全国の数多くのプラントでは,従来型のリレー回路による緊急遮断システムが使用されているのが現状である。課題としては,制御システムなどと連携した監視が行えない,保守点検時に実施したジャンパの取り忘れがある,フィールド配線・回路全体の健全性チェックが行えない,トリップ発生時の解析が難しい,リレー回路をメンテナンスする人材不足,技術継承の遅れなどがある。

そして,最も大きな課題としては,リレー回路による緊急遮断が必要な時に正常に動作するか,という点である。リレー回路の保守時に初めて故障を発見して,リレーを交換した経験がある方もいるだろう。

近年では,これからの課題を解決するために,従来型の既設リレー回路の置き換えとして安全計装システムで更新する案件が増加している。安全計装システムの導入により,緊急遮断用のセンサからの値や,緊急遮断システムが正常に動作しているかどうかを「見える化」することにより,プラントの全体のDX化に対して,様々なデータを提供することが可能になるだろう。

以下,図1で従来のリレーシステムでの課題の幾つかを示している。


図1 従来のリレーシステム


2.「ProSafe-RS Lite Basic System」

ProSafe-RS Lite Basic Systemは,図2に示すようにSIL2までに対応した「ProSafe-RS Lite」のハードウェアとSIS(Safety Instrumented System)機能として必要なソフトウェアパッケージ,弊社DCS(Distributed Control System)の「CENTUM VP」の操作監視機能(HIS:Human Interface Station:以下HISとする)として必要なソフトウェアパッケージから成る,中小規模設備(I/O:300点以下)向けの安全計装システムである。


図2 「ProSafe-RS Lite Basic System」


つまり,CENTUMを導入している,していないに関係なく,ProSafe-RS Lite Basic Systemを導入すると,安全計装システム機能と操作監視機能を低価格で導入することができる。これにより,安全計装機能とHIS機能をセットで運用することで統合監視ができ,DXの第1歩であるデータの見える化をすることができる。

弊社は安全計装システムProSafeシリーズを1997年に発売し,2005年からは,国内初の自社開発した安全計装ステムProSafe-RSを販売してきている。世界で3,000システム,国内でも180システムを超える納入実績がある。国内市場での安全計装システム導入の傾向としては,従来のリレー回路の緊急遮断システムに比べ,安全性の強化はもとより,運転/保守性を向上させる機能をユーザは要望していることがわかる。具体的にはCENTUMとの連携による統合監視機能が挙げられる。

国内の納入実績においても図3に示すように,83%のプロジェクトがCENTUMとの接続を実施している。統合監視機能を利用していない単独システムは,9%と非常に少ないことが実績からも明らかである。


図3 安全計装システムProSafe-RS国内納入状況


したがって,安全計装システムを導入するユーザは,単なる既設リレー回路の緊急遮断システムの更新ではなく,見える化を重視し,運転/保守性の向上も求めている。

3.ProSafe-RS Lite Basic Systemによる見える化のメリット

ProSafe-RS Lite Basic Systemによる緊急遮断システムの見える化により,オペレータやメンテナンス系に,より優れた機能が提供される。この機能について以下で説明する。

(1)充実した監視操作を実現

HISの画面上で,安全コントローラSCS(Safety Control Station)をグラフィカルで直感的に監視・操作できる。また,すでにHISを使用しているユーザは,CENTUMとの統合監視を使い慣れたHISを用いて行うことができる。

DX化によって,プラントの制御はより高度化しており,制御に関連するパラメータが頻繁に変更されることがあり,監視操作を行うオペレータの負担は増えているが,同じHISの画面で安全に関係するプロセスを同時に監視操作できるため,負担が軽減される。

(2)スピーディにトリップ要因解析を実施

プラントのDX化により,プラントに関するデータは様々なレイヤのコンポーネントで参照・設定が繰り返され,プラント制御に影響を与えるため,トリップ要因の解析は難しさを増しているが,これをスピーディに原因調査が行える。

高速でイベント記録を保持でき,原因解析が容易に行え,そのデータをCSV形式でエクスポートできるため,報告データとしても使用でき,プラントの早期復旧に貢献できる。また,CENTUMの HISで,イベント記録を表示でき,コメントに日本語を付けることもできる(図4)。


図4 トリップ要因解析


(3)簡単にロジック状況把握,調査報告書作成

ロジック表示の配線色の色替え機能によりリアルタイムに動作確認でき,増改造を重ねたリレー盤回路図のように紙の図面と実際のロジックの違いを考慮する必要がなくなる。また,ロジック表示のハードコピーが可能で,緊急遮断回路の検査報告書としても使用できる。

DXにより,生産系システムの変更頻度は増しており,その都度の緊急遮断ロジックを見直し,修正する可能性があるが,常に最新のロジックを把握することが可能である(図5)。


図5 ロジック状況把握


(4)安全に機器の交換作業実施

CENTUMのHIS画面からProSafe-RS Lite Basic Systemに取り込まれているフィールド機器などをメンテナンス操作できるため,交換作業が安全に行える。また,メンテナンス操作を行うにはパスワードが必要であるのでより安全である。

(5)簡単にインターロックテスト実施

模擬信号の値をロジック表示画面で直接監視しながら設定・解除できるため,緊急遮断システムのテスト作業が安全で効率的にできる。また,CENTUMのHIS画面上でもリレー回路でのジャンパ作業,バイパス操作,入力出力固定作業などに相当するメンテナンス状態の数を確認できる。さらに,テスト終了後,模擬信号の解除忘れのないように画面で違いを確認できるためインターロックのテストを安心して実施できる。

また,一定間隔メンテナンス状態が継続すると,CENTUMのHISにアラームを発報してオペレータに知らせることができ,ProSafe-RS Lite Basic Systemの稼働状態表示画面からも,メンテナンス状態の数を確認できる。

(6)豊富なオンライン変更機能

ProSafe-RS Lite Basic Systemを導入したプラントで,運転開始後にもフィールド信号の追加や,プラントのインターロックロジックの修正が必要な増改造があった場合,SCSに対してオンラインでコンフィギュレーションやアプリケーションを変更することができる。この機能と,(5)で記載のインターロックテスト機能を組み合わせることで,プラントに対する安全機能を維持した状態で,素早く安全に増改造作業を行える。生産系システムへのDXにより,プラントの様々なパラメータが頻繁に見直される場合でも,すぐに緊急遮断に関するパラメータに反映させることが可能である。

(7)リアルタイムに配線診断チェック実施

安全計装システムにおいて,フィールド配線の診断は重要である。フィールド配線入力の断線/短絡,およびフィールドへの出力配線の診断をリアルタイムにCENTUMのHIS画面上で監視できる。診断異常が発生した場合は,アラームで通知される。

4.セキュリティ対策

最後にDXを実現するうえで,避けて通れないセキュリティ対策について説明する。プラントのDX化で新しい機器を導入する場合,まずはセキュリティ対策を考えることが必須である。適切なセキュリティ対策をプラント全体で,ライフサイクルに渡って運用していくことが重要である。

通常,安全計装システムは,そのシステムは外部ネットワークから物理的・論理的に遮断して設置することが推奨されているが,データ利活用やオペレーションの観点から,安全計装システムや制御システム以外と接続される場合や,保守で安全計装システムにつながったネットワークや安全コントローラSCSに対して作業を行う場合もある。SCSに接続されるSENG(Safety Engineering Station)やHISなどの汎用PCのエンドポイントのセキュリティ対策はもちろんのこと,SCS自体にもセキュリティ対策が行われていることが,安全機能をプラントに提供し続けるために必要である。

ProSafe-RS Lite Basic Systemで使用するコントローラであるSCS(L1CP471)は,ISASecure CSA(Component Security Assurance) Level 1認証を第三者認証機関exidaより取得している。つまり,本製品はCSA認証の評価要素である「セキュアな開発プロセス(IEC 62443-4-1)」,「コンポーネントのセキュリティ機能(IEC 62443-4-2)」,「コンポーネントに対する既知の脆弱性テスト」について,国際規格の要求事項を満たしていることが,第三者認証機関に認められている。

これにより,ユーザは本製品の設計,導入,運用から廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて,安全計装システムの安全機能については,一定のセキュリティが保証されていることが担保されるため,安心・安全にプラント内で使用することができる。

5.おわりに

プラント緊急遮断システムのDX化の一歩として,インターロック装置も,生産制御システムと同様に「見える化」が重要であり,その課題へ挑戦するためには,安全計装システム(ProSafe-RS Lite Basic System)の技術が不可欠になり始めている。この技術の導入により,DX化の波により絶えず変化し続けるプラント設備に対して,安全性を常に保ち続けることができるだろう。

また,近年の半導体不足では,サプライチェーンの停止の影響が大きいことを,誰しもが実感しているだろう。そのようにならないために中小規模の設備の安定した生産を行うには,安全計装システムを導入して安全を保ちつつ,もしトラブルが発生した場合には,他のシステムと連携した早期復旧が求められている。企業は,ERP(Enterprise Resource Planning)やMES(Manufacturing Execution System),生産系システムだけではなく,安全保護系へのDX投資を怠ってはならないと考える。

横河電機は,将来に渡りユーザ各位と地域への安全・安心・安定の維持確保に向けた活動を,継続的に提供し続けていく所存である。本稿が安全活動を考えるための参考になれば幸いである。

 

注)

・ProSafe,CENTUM,CENTUM VP,Vnet/IPは,横河電機㈱の商標または登録商標である。

・本稿で使用されている会社名,商品名は,各社の商標または登録商標である。

〈参考文献〉

1)経済産業省:『新認定事業所制度について(資料3)』,平成27年12月(商務流通保安グループ 高圧ガス保安室)

横河電機 櫻本達三

ポータルサイトへ