【プレゼンテーション】
予知保全パッケージと 音響センサの効果的な実践活用法
1.はじめに
工場設備における予知保全は,工場設備に携わる方々に昨今急速に浸透している。工場設備内の重要な箇所に各種センサを設置し,設備稼働状況をモニタリングする。それにより劣化状況を把握して未然に大規模故障を予防することで,コスト削減および高い生産性を実現する。デジタル技術の進歩により,設備保全における新たなテクノロジーが多数登場している。
本稿では,この予知保全を担う一つの提案として,弊社が取り扱う予知保全パッケージ「コンディションモニタリングシステムCMS1200」(以下,CMS),および音響式センサ「AS100」を紹介する。
2.CMS構成について
CMSは弊社が業務提携しているシーメンス㈱の商品である。シーメンスの制御機器は全世界で幅広く使用されており,CMSはシーメンス製PLC (S7-1200)と診断モジュール(CMS1200)の構成による,予知保全に特化したパッケージ商品である。その納入先は,自動車産業,紙パルプ,セメント,化学など多岐にわたっている。
図1は,HMIパッケージと呼んでいる現場完結形のCMS構成である。CMS本体に設定・表示用のHMIおよび状態監視用の汎用PCをイーサネットケーブルで接続し,さらに状態計測用の加速度センサを組み合わせている。(HMIを省略したさらに構成の小さな標準パッケージも用意している。)
CMSは顧客ユーザへ出荷する時点で基本機能はセットアップ済である。ユーザはHMI,または汎用PCから簡単な設定をしていただくだけでよい。PCに専用ソフトウェアをインストールする必要はなく,Webブラウザで機器にアクセスして各種設定や計測値の閲覧・管理ができる。これを“Webサーバ機能”と呼んでおり,CMSの標準機能である。
CMSに接続する加速度センサは最小構成で4個までである。モジュールを追加することでセンサの追加も可能で,モジュールは7台まで,センサは最大28個まで増設できる。さらにCMSは,シーメンスのクラウド(MindSphere)接続に拡張したパッケージも用意している。これによってクラウドでのデータ収集,ダッシュボード表示,データ解析が可能となる。クラウド接続形はセンサ数が多い場合や他のデータとの連携監視に最適な構成である。
またCMSは,パッケージ商品でありながらPLCベースのシステムである。これによりユーザの様々な用途に合わせて,システムを柔軟にカスタマイズすることも可能である。
3.加速度センサ設置位置と採取データ
CMSで一般的な用途である冷却ファン振動監視を例に,センサ設置位置とそれによって得られる採取データについて説明する。(図2)
①モータ反負荷側に設置:反負荷ベアリング,機械共振,マウント不具合・ゆるみ,固定子コイル不良
②モータ負荷側に設置:反負荷ベアリング,機械共振,マウント不具合・ゆるみ,固定子コイル不良,負荷側アンバランス,アライメント芯ずれ・面ずれ
③ファン(モータ)側に設置:アンバランス,アライメント芯ずれ・面ずれ,ベアリング,機械共振,剛性低下,ブレード・タービン不良
④ファン(先端)側に設置:アンバランス,ベアリング,機械共振,剛性低下,ブレード・タービン不良
加速度センサは計測したい部位の近くに設置するのが基本である。加えて確実に計測するため,センサは計測対象にスタットボルトによるネジ込み取り付けを推奨している。現場の制約上理想位置に設置できるとは限らないが,計測ポイントはある1点だけではなく効率良く計測できる範囲(ロードゾーン)が存在する。センサの設置はこのロードゾーンを重視して決める。
また,加速度センサの個数を増やすことでより複合的で精度の高い監視が可能になる。費用対効果を考慮しつつ,ユーザの要望を確認の上,センサ個数と設置位置は決める必要がある。
4.CMSによる計測・監視について
CMSの計測・監視は図3の診断ステップを踏む。
(1)しきい値監視
振動速度,振動加速度などをしきい値設定し,超過すると警報出力などをさせることで手軽に監視を開始することができる。監視しきい値は,ISO10816-1規格に従い絶対評価をしていただく手法と,現在の振動値を基本とした相対評価をしていただく方法などがある。
(2)トレンド監視
振動速度,振動加速度,ベアリング劣化指数(シーメンス独自指標)などのトレンドデータを監視し,機器状態の傾向や上昇トレンドなどから故障を予測する。一般的な産業機械の劣化トレンドは非常にゆっくりと進行する場合が多く,CMSでは最大10年間のトレンドを内蔵メモリに保管し,接続する汎用PCのWebブラウザ上から表示・確認をすることができる。冒頭でご紹介したHMIパッケージの場合は,過去1年間のトレンドをHMI上から手軽に確認することができる。
(3)FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)解析による詳細診断
トレンドなどから予測された不具合兆候をCMSに内蔵するFFT機能によりさらに詳しく解析することが可能である。FFT機能は積極的に詳細診断を行う際にも活用できるが,CMS内部で周期的に自動計測しているため,マニュアル操作でFFT診断をしなくても予め設定した特定周波数(たとえば回転速度や,機械共振点など)の最大値の変化に気づくことができる。また,大きな変化が出ない場合でも特定周波数の最大値の変化のトレンドをCMS内部に保存しておくことができるため,別の視点からの状態監視が行える。
また,エンベロープ処理機能も有しており,ベアリング監視を行う際に不具合発生箇所(外輪,内輪,転動体,保持器など)を特定することや,ベアリング自身が振動発生源に間違いないと特定することが可能となる。CMS内部には計測した波形を保存する機能もあり,過去の正常時の波形データと現状とを比較検討する際にも活用することが可能である。
このようにCMSの診断ステップは,ユーザのご要望に応じて,活用していただける仕組みになっている。
5.加速度センサについて
CMSでは広い周波数領域を状態監視できる,圧電型加速度センサを使用している。(表1)
計測対象への取り付けは,前述の通りスタットボルトでネジ込むことが基本だが,オプションでエポキシ系接着剤での取り付け,マグネットマウントによる取り付けが可能である。しかし,計測できる周波数範囲がそれぞれスタットボルトによるネジ込み取り付けと異なるため,各オプション取り付けはそれ以外に選択肢がない場合にのみ検討すべきである。
6.音響式センサ「AS100」(アコースティックエミッションセンサ)について
CMSでは加速度センサによって振動周波数を計測し設備の監視・診断を行っている。ここでは,加速度センサで計測する振動速度,振動加速度ではなく,アコースティックエミッション(AE)と呼ばれる高周波領域(30kHz以上)の超音波を計測するシーメンスの音響式センサAS100を紹介する。(写真1)
AEは計測対象が変形,破損した際に発生する弾性波のことである。AEは,わずかな亀裂発生やその亀裂部の微細なこすれなどによる異常音として,加速度センサでは異常を検知できない初期段階においてすでに発生している。また,AEは人間の可聴周波数領域の音(20Hz~20kHz)ではなく,前述の通り高周波領域の超音波であるため,可聴領域の振動音などの影響を受けないという特長がある。
シーメンスのAS100は,75~175 kHzのAEを計測する音響式センサである。
弊社はAS100を十数年前から販売しているが,その主な用途は,粉粒体配管の詰まり計測用である。AEは金属製の部位(配管,フランジのボルトナットなど)を伝搬するため,AS100は外から配管越しに計測することが可能である。設備に手を加えることなく簡単に設置できることから,ユーザから支持されているセンサである。
弊社は,摩耗・劣化の早い段階で発生しているAEを計測するAS100を,CMSの計測センサとして使用することで予知保全の幅の広がりが期待できると考えている。たとえば,保全対応の準備に時間がかかる部位はAS100に計測させ,その必要がない部位は加速度センサに計測させるといった具合だ。
前述の通り,CMSは自由にシステムをカスタマイズすることが可能である。弊社は音響式センサAS100と加速度センサの両方を提供できる強みを活かし,ユーザのご要望に合わせて,AS100も組み入れたCMSを提案していきたいと考える。
7.まとめ
弊社が取り扱うCMSの特長は,次の通りである。
・CMSはシーメンス製PLCと診断モジュールをベースとし予知保全に特化したパッケージ商品
・単なるパッケージ商品ではなく,拡張性を備えユーザの要望に合わせて柔軟にシステムのカスタマイズが可能
・出荷時点で基本機能はセットアップ済み,ユーザによる簡単な設定で使用可能
・専用ソフトウェアは不要,汎用PCのWebブラウザでCMS本体にアクセスし状態監視・設定が可能
・接続する加速度センサは最小構成で4個,モジュールを追加することで最大28個まで増設が可能
・CMS本体メモリ内に長期間(最大10年間)採取データを保存
・現場診断に有効で多彩なFFT解析機能を搭載
・計測センサとして,加速度センサ以外にAE(アコースティックエミッション)を計測する音響式センサAS100の提供が可能
CMSは現場完結形の最小構成から始めて,クラウド接続→クラウドアプリの使用→機械学習予測へのさらなるクラウドの活用,といったステップを踏んでのシステム拡張が可能である。(図4)
まずは手軽に最小構成から始めていただき,CMSの有効性を確認しつつ効果があれば徐々にシステム構成を大きくするという使い方ができることが,CMSの大きな特長である。
CMSおよび音響式センサAS100が,ユーザ各位の予知保全監視の一助となれば幸いである。