計装ギャラリ 「進化するプロセス計装機器」(第19回)

【プロセス分析/環境計測機器】

レーザガス分析計の導入メリットと適用事例

1.はじめに

レーザガス分析計は,スペクトル線幅の狭い半導体レーザの出射光により,測定対象が持つ固有の吸収波長付近を掃引,得られた吸光度からランベルト・ベールの法則によりガス濃度を演算する。適切な測定波長を選択することで,原理的に,水分等の干渉影響を受けづらく,高精度の測定を実現している。幅広いガス温度範囲,ガス圧力範囲に対応し,応答性に優れた分析計である。さらに,非接触測定のため腐食性ガスによるセンサの腐食もなく,長期信頼性を確保している

今回はレーザガス分析計の測定原理と様々な条件での導入事例を紹介する。

2.測定原理

2原子以上で結合した分子は,赤外~近赤外領域において図1に示すような伸縮や変角等のモードに由来するその結合に特有の周波数で光吸収現象を起こす。


図1 分子の振動・回転モードの例


ガス分子は吸収線とよばれる特定の波長の光を吸収し,光の吸収量はランベルト・ベールの法則に従い,光の吸収量は透過するガス濃度と光路長に比例する。

I = Io・e-EGL

ここで,I:透過光の強さ

Io:入射光の強さ

E:吸光係数

G:ガス濃度

L:測定光路の長さ

さらにガス種により,それぞれ特有の波長領域に複数の吸収波長がある。たとえば,CO2の吸収バンド幅はおおよそ10nm程度で,各吸収ピークのスペクトル線幅は約0.05nm程度である。図2にCO2とH2Oの吸収スペクトルを示す。


図2 TDLSで測定した吸収スペクトル


H2Oの吸収スペクトルは,赤外~近赤外領域で使用していた従来の分光計の波長分解能は0.3~3nm程度で,異なったガスの吸収ピークとの距離(0.5nm以下)と同等またはそれより大きく,ガスの吸収ピークを分離することができない。この例は,H2O存在下においてCO2を測定する場合で,従来の分光計ではH2Oのスペクトル干渉を受けてしまう。この影響を少なくするために,測定の前段階で干渉ガスを除去するなどの必要があった。

一方,レーザガス分析計は低分解能の分光計とは異なり,使用している可変波長半導体レーザの発振波長スペクトル線幅は非常に狭く,レーザ温度,駆動電流を変えることで発振波長を変更することができるため,図2に示すような吸収スペクトルの各吸収ピークの1本のみを測定することができる。したがって,図2に示すように,干渉ガスの影響を受けない吸収ピークを選定することができ,測定が可能となった。波長と吸光度の比率からガス濃度として演算し表示する1)。

3.焼成炉における適用事例

燃焼炉を高効率で操業するためには,燃焼排ガス中のO2やCOの濃度を正確に測定し,燃焼制御を行うことが必要である。

燃料の種類や装置の違いによらず,最適燃焼ゾーン(燃料の単位量あたりの熱効率が最も高い領域)におけるCO濃度は200ppm前後であるとされる。しかし,COは一旦増え始めると急激に増えてしまうため,十分に空気を供給する空気リッチの安定燃焼をさせるか,CO濃度をリアルタイムで監視しながら,ある程度低めの濃度で一定となるような制御系が必要となる。O2濃度,CO濃度は煙道の入り口部分に設置された濃度計により測定され,制御系に入力される。

従来はジルコニア酸素計でO2濃度を測定し,サンプリング装置を使用してガスを吸引し,赤外線ガス分析計でCO濃度を測定する方法が採られている。しかし,サンプリング処理にかかる時間ロスにより制御系への時差・フィルタ等定期的に行うメンテナンスのためのランニングコストが課題となっていた。

バーナへの供給空気量を手動で徐々に絞りながら,O2濃度とCO濃度値を当社レーザガス分析計「TDLS」にて測定した結果を図3に示す。


図3 低酸素運転時の燃焼炉内のO2とCOの濃度変化


O2濃度2%付近からCOが発生し始め,1.5%付近で急増して不完全燃焼状態になったため,再び空気供給量を増やし,O2濃度が急上昇し,CO濃度は再降下し完全燃焼状態に復帰した様子を捉えている。わずか2~3分でCO濃度が100ppmから4000ppm 近くまで増加したことを検知している2)。

今回発売した防爆型「TDLS8200」(写真1)は,プローブ型の形状により,防爆エリアでの炉内への直接挿入,機器の設置を実現し,かつ2つのレーザダイオード,フォトダイオードを搭載することでO2+CO,またはCH4 2成分の同時測定が可能となった。そのため,管理上重要な成分濃度測定信号を直接プロセス制御系に取り込んだ高速制御や,リアルタイムプロセス状態管理により高効率な燃焼制御を実現する。


写真1 プローブ形レーザガス分析計「TDLS8200」


4.脱硝装置おける適用事例

防爆型TDLS8200は,防爆エリアでのO2+COまたは,CH4の2成分の同時測定を可能としている。また2015年発売したクロスダクトタイプレーザガス分析計「TDLS8000」はO2,CO,CH4に加え,NH3の測定も実現した。今回NH3アプリケーションとして,脱硝装置への適用事例を紹介する。

煙道排ガス中に含まれるNOxは,空気中の窒素(N)と酸素(O2)が結びついて発生する,一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)などを示す。特に高濃度二酸化窒素(NO2)は人の呼吸器系に悪影響を与える。また,窒素酸化物は,光化学スモッグや酸性雨の原因にもなるため,工場などの煙道から排出されるNOxは排出規制により抑制されている。

NOx削減の手段としては,固体触媒による分解,アンモニア注入によるアンモニア脱硝法が挙げられる。固体触媒は寿命が短いという欠点があるため,大規模の焼成炉排ガスにおいてはアンモニア脱硝法が主に取り入れられている。この方法では,煙道の排ガスに還元剤である液体アンモニアを添加し,化学反応によってNOxを無害なN2とH2Oに変換後,煙道から排出する。

NOx +NH3+(触媒)→N2+H2O

液体アンモニアはランニングコストが高く,そのため排ガス中のNH3を測定し,制御・監視が行われる。

従来の化学発光法や双イオン電極法などに代表される間接NOx方式のNH3計では,NH3吸着防止のため加熱導管によるサンプルライン設置や複雑な測定系による保守負担が大きく,応答性も遅い。その一方,図4に示すように,TDLSによるNH3測定ではプロセスラインに直接設置し測定するので,応答性,保守性が大幅に向上する。


図4 脱硝装置の概略フロー


さらに,応答性の良いNH3濃度信号をNH3注入量制御に活用し,NH3注入の最適化の実現も可能になる。

4.おわりに

当社では,酸素計やガス密度計などガス製品を多数扱っており,様々な工場の効率化,安全操業のお手伝いをさせていただいている。特に燃焼管理においては,酸素測定だけでなくCOなども一緒に測定したいとのご要望があり,まさにこのTDLSシリーズはユーザの要求にマッチした製品である。

また,今回燃焼管理だけでなく,脱硝プロセスでのNH3測定について,市場導入事例を紹介させていただいた。昨今,様々な工場において高効率化,安全操業を目指しており,このTDLSシリーズがその解決策としてお役に立てれば幸いである。

注)本文中で使用されている会社名,団体名,商品名およびロゴ等は,横河電機㈱,各社または各団体の登録商標または商標である。

〈参考文献〉

1)田村一人,高松幸彦,松尾純一,南光智昭:「レーザガス分析計TDLS200 とその産業プロセスへの応用」,『横河技報』,Vol.53,No.2,p113-116(2010)

2)結城義敬,村田明弘:「レーザガス分析計TDLS200による最適燃焼制御ソリューション」,『横河技報』,Vol.53,No.1,p19-22(2010)

横河電機 円 道 香 織

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