【プロダクツ&ソリューション】
レーザ式ガス分析計の特長と その効果的な適用事例
1.はじめに
SIEMENS社製レーザ式ガス分析計は,近赤外波長可変半導体レーザ吸収分光法を用いてサンプリングポイントにて直接測定を行うIn-situタイプの分析計である。この分析計は様々な特長を有しており,今回はこのレーザ式ガス分析計が持つ特長を活かした適用事例について紹介する。
2.製品の概要
レーザ式ガス分析計は測定ポイントで直接測定対象ガスの濃度を測定するため,サンプルガスを分析計に引き込む必要がない。このため,吸引式ガス分析計で必要とされるサンプリングプローブやサンプリング装置などは不要であり,より多くのコストを費やしていたサンプリング装置とそのメンテナンスが一切不要となる。さらにサンプリング装置による測定の遅れがないため,ガス濃度の変化に対して速い応答性を実現することができる。
また,測定原理として近赤外線波長可変半導体レーザ吸収分光法を利用しており,測定対象ガス以外には吸収しない=他のガス組成による干渉をほとんど受けない,ダスト濃度が変化する条件下でも安定した測定が可能,圧力変動など吸収波長が変化する場合は,波長変調法(2f法)から独自のカーブフィットアルゴリズムで高精度な分析が可能など,様々な特長を有する。
SIEMENS社のレーザ式ガス分析計には分離形タイプと一体形タイプの2種類があり,測定対象ガスに応じて使い分けをする。
2.1 [一体形タイプ]
・形式:SITRANS SL
・構成:ダイオードレーザを搭載した“投光側センサユニット”と“受光側センサユニット”にて構成される。各センサユニット間の接続は多芯ケーブル(ループケーブル)を使用する。
・表示:受光側センサユニットに搭載されたLCDに測定値や各種情報が表示される。
・操作:ハンドプログラマ(赤外線通信)を用いて操作を行う。赤外線通信は,受光側センサユニット表示部に搭載された赤外線受光素子を介して行う。
・測定ガス:O2
・防爆構造:耐圧防爆 日本防爆 Ex db ⅡCT6 Gb
図1に「SITRANS SL」機器の概要を示す。
2.2 [分離形タイプ]
・形式:LDS6
・構成:ダイオードレーザを搭載した“セントラルユニット”とプロセスガス中へのレーザ光の投光/受光を行う“センサユニット”にて構成される。セントラルユニットとセンサユニット間の接続は,光ファイバケーブルを内蔵したハイブリッドケーブルを使用する。
・表示:セントラルユニット前面のLCDに測定値や各種情報が表示される。
・操作:セントラルユニット前面の操作パネルにて操作を行う。
・測定ガス:CO,CO2,HF,NH3,HCl,H2O(HF,NH3,HClはH2Oと同時測定も可能)
図2に「LDS6」機器の概要を示す。
3.測定原理
3.1 「SITRANS SL」測定原理
測定原理はLDS6と同様であるが,一体形タイプという点でLDS6とは異なる構造となる。
ダイオードレーザは投光側センサユニットに内蔵されておりダイオードレーザにて生成された近赤外波長のレーザ光は,レンズ,ウィンドウを経てプロセスガス中へ投光される。投光されたレーザ光は,プロセスガス中の酸素分子による吸収を受けた後,受光側センサユニットにて受光される。受光側センサユニットにはインライン参照セルが内蔵されており,レーザ光はこの参照セル内を通過してフォトディテクタに到達する。
SITRANS SLの参照セルは,測定に利用するレーザ光の経路上に配置されていることからインライン参照セルと呼ばれる。インラインであるがゆえに大気中の酸素と干渉するため,LDS6のように酸素を参照ガス中に封入することができない。このため,SITRANS SLの参照セルには,酸素ではなく酸素の同位体(18O)を封入した非常にユニークな構造となっている。この参照セルの搭載により,SITRANS SLにおいても空気中の酸素とは干渉せずレーザ波長の監視や比較が行われ,長期間の安定測定を実現している。(図3)
3.2 「LDS6」測定原理
プロセスガスに含まれる一酸化炭素,二酸化炭素,フッ化水素,アンモニア,塩化水素および水分などの分子は,近赤外領域の光を吸収する特性を有しており,その吸収の強度から濃度を知ることができる。この吸収帯(波長)は分子の種類によって様々であるため,測定したい分子の吸収波長をうまく選択することで,他の分子による干渉を受けることなく測定対象ガスの濃度を測定することができる。
セントラルユニット内に配置されたダイオードレーザにて生成された近赤外波長のレーザ光は,オプティカルカプラによって等しく同時に最大5系統に分割される。分割されたレーザ光のうち,最大3系統がプロセス側へハイブリッドケーブルと呼ばれる光ファイバケーブルを経由し投光側センサユニットに伝達され,プロセスガス中へレーザ光が投光される。投光されたレーザ光は,プロセスガス中の測定対象ガス分子による吸収を受けた後,受光側センサユニット内受光モジュールにて電気信号として検出される。検出された信号はノイズに強く伝達効率の高い光信号に変換され,ループケーブル,ハイブリッドケーブルを経由してセントラルユニットに戻る。
残る2系統はセントラルユニット内でプロセス側から独立した内部ループを形成し,1系統はダイオードレーザの制御および監視,他方の1系統は測定対象ガスを封入した参照セルを介して受光するループから成る。ダイオードレーザは経年的にその特性が変化するため,この特性変化がレーザ波長に影響を及ぼし測定に誤差が生じる。このため一般的なレーザ式ガス分析計では,1年間に1~2回,運転を停止させ機器を取り外し,レーザ発光波長の定期的なキャリブレーションが必要とされる。
これに対し,LDS6ではセントラルユニットに内蔵された参照セルにより常時(24回/秒)自己校正を行っており,定期的な校正を必要とすることなく長期間の安定測定を実現しており,大きな特長となっている。
また,この参照セルは他に重要な意味を持っている。プロセスガス中に測定ガスが存在しない「ゼロ」の場合,LDS6は参照セル内の測定対象ガスを正常に測定したうえで,プロセスガス中の測定対象ガスが「ゼロ」であることを示す。爆発限界や安全監視用として使用する場合,通常状態において測定ガス濃度はゼロまたはごく低濃度であり,その「ゼロ」を参照セル内蔵構造が保証することは,プロセスの安全性を確保するうえで非常に重要である。(図4)
4.レーザ式ガス分析計の特長
①チューナブルダイオードレーザによるレーザ吸収分光法を用いたIn-situタイプの分析計で,サンプリング装置のメンテナンス,不要。
②高速応答1~3秒。サンプリングによる応答時間の遅延なし。
③内蔵参照セルによる自己校正により,定期的なキャリブレーションは不要。
④単一波長レーザ採用により,高い選択性を実現。他のガスとの干渉はほとんどなし。
⑤圧力変動など吸収波長が変化する場合は,波長変調法(2f法)から独自のカーブフィットアルゴリズムを用い高精度測定が可能。
⑥検出器が投光側,受光側に分かれ測定経路長の平均濃度値を測定するため,濃度分布が発生する炉内などの測定環境では,単一プローブのように測定ポイントを考慮する必要がない。
⑦ダイオードレーザなど主要部品をセントラルユニット内に配置し,センサユニットに搭載される電子部品を最小限化し,測定ポイント(設置配管)の環境に対し,堅牢性が高い(LDS6)。
⑧1台のセントラルユニットにセンサユニット最大3セットまで接続,同時測定が可能(LDS6)。
5.適用事例
5.1 石油備蓄基地
・用途:タンカ排ガス,VOCガス回収設備安全監視
・測定対象ガス:O2
・活用された特長:高応答性,サンプリングシステム不要,タンカガス内HCの干渉なし,負圧の環境下でも高精度に測定。
・詳細:本設備は,タンカへの原油の積み込みを行う際に船倉から排出される悪臭を含むべーパーを回収し,臭気成分を分解処理すると同時にエネルギーとして再利用する設備。
測定ポイントは,桟橋4本の各配管ラインと陸上プラント側,吸収塔出口,圧縮機入口。二重化により各ポイントに2セットずつ,計12セットを設置。
タンカ排出ガスはガス圧縮機によって吸引されるため,ガスを移送するパイプライン内部は負圧条件となる。このため,通常の分析アルゴリズムである2f法では吸収波長の形状変化の影響を受け測定に問題が発生する。しかし,カーブフィットアルゴリズムを用いることにより,高精度測定を実現。また,サンプリングポイントである桟橋側では陸上から400メートル程離れており,サンプリングタイプの分析計の場合,校正ガスやフィルタ等サンプリング装置のメンテナンスや機器の校正が容易ではないが,レーザ式分析計ではサンプリングシステムは必要なくこれらの問題はない。
さらに,参照セルによる常時校正により校正不要,かつ低濃度O2の安定計測を実現。また他の分析方式の場合,HCの干渉により計測値に影響を受けるが,単一波長レーザにより干渉を受けずに信頼性の高い測定ができることからこのレーザ式分析計を使用頂いている。(図5,写真1)
5.2 ケミカル会社
・用途:SNCR脱硝設備の最適化
・測定対象ガス:NH3
・活用された特長:高応答性,常時校正により設備を停止しての校正不要
・詳細:SNCR脱硝設備において,高応答性でアンモニアスリップ量を計測し注入量を制御することにより本設備の最適化を実現。
通常はNOx濃度によりアンモニアの注入量を制御するがこの量が過剰である場合,反応しきれないアンモニア=スリップアンモニアが発生,アンモニア塩が生成され反応器や触媒に悪影響を及ぼし,メンテナンスが必要となる。
そこで,レーザ式ガス分析計を設置し高速応答でスリップアンモニアを測定,その計測値をアンモニア注入量にフィードバックすることにより,適切なアンモニア注入量に制御する。
図6に最適化データ例を示す。効果を検証するため,運転~装置一時停止~NOx値のみの制御~NOx値/リークNH3での制御フローで比較した。
・[8:00~9:20]:レーザ式ガス分析計 LDS6にてアンモニアスリップ量を計測しアンモニア注入量を制御。
・[9:20~9:40]:SNCR設備を停止,NOx値が大きく上昇。
・[9:40]:NOx濃度値のみでアンモニアを注入すると,NOxは下がるが不安定。アンモニアを過剰注入したことにより,スリップアンモニアの濃度は大きく上昇。
・[11:00]:LDS6を稼働させスリップアンモニア濃度値をフィードバック。NOxは低濃度で安定,スリップアンモニア量は大幅に減少,アンモニア注入量は最適化された。
LDS6の採用によりNOx濃度を安定的に低減,アンモニア消費量25~30%削減,アンモニアスリップ量50~70%低減,低温部表面へのアンモニア塩生成量の低減により,メンテナンスの削減など多くの効果が認められた。
また,波長を変調させることにより,アンモニアと水分を同時測定することが可能である。
6.おわりに
SIEMENS社のレーザ式ガス分析計LDS6,SITRANS SLは,多くのプラントで採用いただいているが,その全てが先に述べたように機器の特長を活かしたアプリケーションに使用いただき,高い効果を発揮している。
今後もLDS6,SITRANS SLにてユーザの課題解決,安全性の確保,工程の効率化など幅広い分野で貢献できると考える。