工場保安へ向けた防爆技術のさらなる役割と進展方向

【防爆対応機器/ソリューション】

ガス検知器の脱炭素化へ向けた防爆対応と 国際規格への整合

1.はじめに

当社は1939年に創業し,炭鉱や石油タンカ向けにメタンガスなどの可燃性ガスを測定するための,日本で初めてとなる電気式の防爆型ガス検知器を開発し販売を行った。当時,商工省(現 経済産業省)により,炭鉱向けガス検知器として国内唯一の防爆機器と認められ,可燃性ガスによる事故を防止すべく,国内産業の安全一躍を担ってきた(写真1)。


写真1 創業当初のガス検定器「3型」


現在も,当社では石油化学プラントや様々な産業の安全を管理するために,ガス検知器の信頼性の向上に努め,ガスによる危険に対応すべく,使いやすく信頼性の高いガス検知器をユーザのニーズに合わせてラインナップしている。

ガス検知器はガス濃度を検知し,ガスによる危険を知らせる目的で使用され,主に可燃性ガス,毒性ガス,酸素などを検知対象としている。石油化学プラントや電力などの産業は石油やLNGなどが燃料や原料として使用されるため,精製や改質などの工程を含めて,いわゆる可燃性ガスが存在する。ガス検知器は防爆エリアにおいて可燃性ガスの漏洩検知を目的として使用されるケースが多く,機器の防爆対応は必須の要件となっている。

当社では,ポータブル式,定置式ガス検知器の多くの製品で防爆認証に合格した製品の販売を行っている。

2.ガス検知器で取得している防爆規格

当社ガス検知器は,主に耐圧防爆構造または本質安全防爆構造のいずれかのタイプの認証を取得しており,基本的に定置式は耐圧防爆構造,ポータブル式が本質安全防爆構造となっている。

ガス検知器に関連する防爆規格として,爆発性雰囲気中で使用するための電気機器およびExコンポーネントに関する一般要件を規定している国際規格IEC 60079-0があり,2017年に改定が行われている。この改定により,可燃性ガスセンサとして最も一般的に使用されている検知原理である接触燃焼式のセンサを搭載したガス検知器は,本質安全防爆構造としての認証取得が困難となり,接触燃焼式センサを搭載した製品は,本質安全防爆構造だけでは防爆等級『ⅡC』の取得ができなくなっている。

防爆規格では温度等級(T1~T6)と防爆等級(ⅡA~ⅡC)によって,対応できるガス種が異なる。それぞれT6,ⅡCが最も条件が厳しくなり取得の難易度も上がるが,たとえば,水素に対応するには防爆等級は『ⅡC』に対応しなければならない。(表1)


表1 代表的な可燃性ガス蒸気に対する防爆等級と温度等級


そこで,当社は新たな防爆構造「da ia」(耐圧防爆構造+本質安全防爆構造)に対応したセンサを開発し,『ⅡC』の認証を取得した。「da ia」構造であれば,本質安全防爆構造同様に0種場所での使用も可能となっている。当社では,この『da ia』構造のポータブルガス検知器を順次ラインナップしている(写真2)。


写真2 『da ia』に対応したガス検知器「GX-3R」


定置製品では耐圧防爆構造(写真3)と本質防爆構造の両タイプをラインナップしており,可燃性ガス検知器用としては主に耐圧防爆構造のガス検知器が使用されている。本質安全防爆構造の場合は絶縁バリアが別途必要となり,毒性ガス用の検知器などに主に使用されている。


写真3 耐圧防爆構造のガス検知器「SD-3シリーズ」


3.ガス検知器の現場ニーズと脱炭素化への対応

3.1 経済産業省ガイドライン

ガス検知器に対する防爆規格の要求が厳しくなる一方で,法令はそのままに,現場の実情に合わせて危険区域を見直す動きもある。

工場やプラントでは,生産性の向上や安全な操業の維持のため,様々な電子機器を活用することの必要性が年々高まっている。しかし,防爆危険区域において,一般的に使用されている電子機器は非防爆構造なので使えず,一方で防爆仕様の電子機器は高価であり,すべての事業所で導入するには事業者の負担が大きい。

そこで2019年4月24日,経済産業省より石油・化学プラントの安全運用・保安業務の効率化(スマート化)を目的として,非防爆機器使用拡大のための自主行動計画を含むガイドラインが策定された。

このガイドラインに従った国際規格(IEC)による第2類危険個所(防爆エリア)の再評価を行うことで,法令が定める保安レベルを下げることなく,危険区域の範囲を大幅に削減することが可能となる。この再評価で非危険区域とされたエリアでは,非防爆機器が使用できるようになるのだ。この再評価の中で,残存するリスクを排除するための一つの方法として,ガス検知器の活用がうたわれている。非防爆機器を使用するための安全処置としても,ガス検知器のニーズが増している。

3.2 脱炭素化に向けてのガス検知器の対応

昨今は脱炭素化に向けて,従来のメタンやブタンなどの炭化水素系のガス検知に加えて,水素への対応が必要となってきている。当社でも以前から水素防爆にも対応し,水素を検知できる製品をラインナップしているが,より必要性が増している。水素を検知するためには,防爆等級は『ⅡC』が必要となる。

ポータブル式では,先述した『da ia』の対応や,また,当社では可燃性ガス読替機能により,従来のメタンやイソブタンに加え,水素も直読で検知することが可能な製品をラインナップしている。これにより,検知対象ガスが変わっても,既存の製品にてメタンなどの炭化水素から水素への対応も可能としている。

また,水素以外にもアンモニアやメタノールなど代替燃料の検知需要が今後増加していくことが予想される。従来,定置式のガス検知器の主流は,耐圧防爆構造となっており,ガスを検知するガスセンサ部を焼結金属で覆うことで防爆性とガスの流通を確保しているが,一方で吸着性の高いガスの場合は,この焼結金属に吸着してしまうため検知が困難であった。

そのため,吸着性の高い毒性ガス用のガス検知器には,本質安全防爆構造のガス検知器がラインナップされている。本質安全防爆構造の場合は,ガスセンサ部に焼結金属が不要となるため,吸着性の高いガスにも対応が可能となる。ただしこの場合,電源ラインや信号線ライン(安全エリア側の信号ライン)に絶縁バリアの設置が必要となり,この点は課題でもあった。

当社では,昨年新たな防爆構造の定置式ガス検知器「SD-3」を開発し,販売を開始した。SD-3は耐圧防爆構造の筐体とセンサ部の間に絶縁バリアを内蔵しており,センサ部は本質防爆構造と同様の構造とすることができる。この新たな防爆構造により,耐圧防爆構造ではセンサ部に必要であった焼結金属が不要となった。そして,吸着性の高い毒性ガスについても対応が可能となり,脱炭素化に向けて特に需要が増しているアンモニアなどの検知ニーズにも対応できる製品となっている。

3.3 脱炭素化に向けたその他の取り組み

脱炭素化に向けた新たなニーズとして,従来機器では対応ができない,複合成分ガスの組成分析のニーズが高まっている。このニーズに対応するために,当社では,新たな取り組みとしてセンサの組み合わせによる組成分離測定の提案を行っている。ガスセンサの組み合わせによる組成分離測定は,検知原理や検知対象とするガスが異なり,ガスに対する感度や選択性が異なるセンサを組み合わせて,各センサ信号を演算処理することにより,複合成分のガスの分離測定を可能とするものである。

これを必要とするフィールドでは水素を中心に爆発の危険性のある様々なガスが使用されており,このような取り組みにおいても防爆構造を使用する必要がある。様々な技術開発や実証プラントにおける新たなニーズとしてのガス組成分離測定に対して,新規に専用のガス検知器を開発した場合はその都度防爆認証が必要となり,すぐに防爆機器で対応をすることが困難である。

しかし,多様な防爆製品をラインナップしている当社では,既存製品を組み合わせて演算処理を行うことで,ガスセンサの組み合わせによる組成分離測定を迅速に提案することができる。そのままで防爆機器として使え,可燃性ガスの使用に対して安心してご使用いただける。

ガスセンサの組み合わせによる組成分離測定では図1のような構成で,様々なアプリケーションに対応できるものとして高い評価を得ている。


図1 ガスセンサの組み合わせによる組成分離測定


4.終わりに

当社では,海外市場への参入・シェア拡大のために,海外防爆も積極的に取得している。IECEx,ATEX,INMETRO(ブラジル),TS(台湾),China Ex(中国),KCs(韓国),FM(米国)など,国内防爆はもとより,様々な海外防爆に適合した製品の投入を進めている。また,EUからの英国離脱により新たにイギリス向けとして必要となるUKCA Exの対応も順次進めている。

脱炭素化などのニーズに対しても,水素やアンモニアなどに対応した防爆構造の製品をラインナップし,対応できる体制をとっている。今後も市場ニーズに合わせて,脱炭素化やエネルギー変換に伴い必要となる,防爆型のガス検知器のラインナップを進めていく予定である。

理研計器 杉 山 浩 昭

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