【スマートソリューション】
クラウド型状態監視システムによる 設備保全とスマート保安
1.はじめに
工場,プラント生産設備においては様々な回転機械が使われている。これらの設備状態を把握し,異常の兆候を事前に捉え,適切にメンテナンスを行うことは,生産性の向上および設備保全の効率化を進めていくために重要である。
しかしながら設備保全においても,設備の高経年化に伴う劣化トラブルの増加や社会的構造変化による人材不足などが慢性的な問題となっている。また,従来の保全では,操業上重要な大型回転機械に振動センサが取り付けられ,常時監視されているが,ポンプ,モータなどの汎用の中小型回転機械の多くは担当者が定期的に対象機械を巡回点検する監視が行われている。巡回点検では対象機械が多い場合には, 点検工数の削減が難しく,点検頻度の低下やそれに伴う異常兆候の発見遅れ,採取データの記録・管理の煩わしさなどの課題が多い。
このため保全業務の抜本的な効率化が急務となっている。
2.設備保全とスマート保安への期待
工場,プラントの設備保全においては,設備異常による計画外の運転停止やパフォーマンス低下を防ぎ,設備が安全,安定した状態での稼働を維持させるためのメンテナンスが行われている。
一定期間の稼働でメンテナンスを行う時間計画保全(TBM:Time Based Maintenance),設備の状態に応じて適切にメンテナンスを行う状態監視保全(CBM:Condition Based Maintenance)の2つの予防保全があるが,近年,取り組みが活発になっているのが状態監視保全(CBM)をさらに進めた予知保全(PM:Predictive Maintenance)である。
予知保全(PM)においてはIoT化を進めることにより,設備のデータを自動収集,分析し故障時の関係性などから状態の健全性と異常兆候の有無を正確に把握できる。これによって故障前の適切なタイミングで計画的にメンテナンスを行うことができる。
また,現場の設備保全においては,経済産業省が提唱しているスマート保安が注目されている。従来の遠隔地,高所・危険個所からの巡視データから最新のデジタルテクノロジーによるセンサ,IoT,ドローン,ウェアラブルデバイスで自動採取し,点検・監視業務の機械化・自動化を進めることができる。そして,取得した大量のデータをデジタル処理,分析することにより,保安業務の高度化,効率化へと繋げていくものである。スマート保安を実現することにより,設備保全の業務が安全かつ効率的になり,業務時間内でより付加価値の高い業務への移行が期待されている。
3.当社の設備保全,スマート保安への取り組み
当社では,1970年代より振動センサ,振動監視モニタの開発を始め,専門メーカとして設備の監視,設備保全の効率化のニーズに沿った解析診断システムなどの製品開発を行っている。近年,顧客ユーザから
①機械の振動傾向を把握した予防保全。
②状態監視システムを導入し,担当者の巡回点検,監視業務に関わる時間の削減。
③時間計画保全(TBM)ベースでメーカまかせの設備点検・修理から,ユーザ自身も参画した状態監視保全(CBM)への移行と自主保安力の強化。
④熟練技術者からの技術伝承。
⑤経済産業省が提唱しているスマート保安の導入。
といった声が当社にも多く寄せられている。
当社では時代の監視・保全ニーズに応えるため, いち早く国内初のワイヤレス振動センサを開発し,2003年に市販した。その後,適用範囲を広めながらセンシングと通信ネットワークとの親和性などデジタルテクノロジーによるIoT・DXを取り入れた設備保全,スマート保安の実現に向けた技術開発,製品開発に取り組んでいる。
また,当社製品の開発・製造を担っている新川センサテクノロジでは「ISO 18436-2準拠 機械状態監視診断技術者(振動)」のⅠ~Ⅳ全カテゴリに対応した国内唯一の認定訓練機関として,多くの振動スペシャリストを輩出している。
本稿ではこのようなユーザ,社会のニーズにお応えする設備保全とスマート保安の一例としてクラウド型状態監視システム「ZARK & Machine Dossier」について紹介する。
4.クラウド型状態監視システム-「ZARK & Machine Dossier」-
当社では,振動の監視と診断をベースとした状態監視保全(CBM)に適した製品開発を行っており,IoT・DX時代の状態監視を実現したのがクラウド型状態監視システムZARK & Machine Dossierである。
本システムは,新しい設備保全,スマート保安の導入のしやすさを製品コンセプトにした従来,常時監視の対象外であった汎用の中小型回転機械に対しても手軽に導入できるクラウド型センシングシステムである。本システムは超小型・軽量のワイヤレス振動センサ「ZARK Nano」と有線式の振動センサやその他各種センサで測定,収集したデータをクラウドに接続する中継機「ZARK X8II」およびクラウド上のデータ活用プラットフォーム「Machine Dossier」の3つのシステム要素から構成される。(図1)
本システムは,初期導入時にアプリケーションの開発,監視専用パソコンなどが不要で,導入コストを抑えることができる。また,センサ設置やセットアップも簡単なため,即日運用開始が可能となるのも中小型回転機械の状態監視に適した特長である。
4.1 「ZARK Nano」ワイヤレス振動センサ
ZARK Nanoワイヤレス振動センサ(写真1,2)は,中小型回転機械や狭い場所への取り付けを容易とするため,高さはわずか50 mm,質量は80gで従来型のワイヤレス振動センサから質量比で5分の1以下(当社ZARKシリーズ比)と大幅に小型,軽量化されている。
小型化されたボディには3軸MEMSセンサと温度センサ,信号処理・通信部,バッテリを搭載し,振動加速度の振幅と波形,振動速度の振幅とスペクトル,温度データを定周期で送信する。データ収集周期は,巡回点検からの監視強化,異常兆候の検知,危険個所でのリスク低減などの目的に対応するため最短1時間から最長1日までの6パターンの間隔から選択でき,電池寿命は最長5年となっている。(表1)
また,ZARK Nanoの特長的な機能として,定周期のデータ収集タイミング以外でも振動値がしきい値を超えると自動的にデータ収集を開始するWake UP機能を有しており,異常発生の見逃し,警報発報遅れの心配がない。この機能を含めてZARK Nanoワイヤレス振動センサは,3軸測定が可能なため,回転機械だけでなく静機械,移動体など様々な設備の状態・挙動監視へも利用範囲を広げることができる。
4.2 「ZARK X8Ⅱ」中継機
回転機械の設備保全データは振動,温度だけではなく圧力,流量といったプロセスデータも重要となる。ZARK X8Ⅱ 中継機(写真3)はZARK Nanoによる測定パラメータ以外にも,これらのプロセスデータを入力とし,Wi-Fi通信を通じてクラウドにあるデータ活用プラットフォームMachine Dossierに送信できるようにした。
ZARK X8Ⅱ中継機は,ZARK Nanoで測定した振動データをBluetooth通信経由で受け取るが,各種測定パラメータの有線センサからの入力も混在できるハイブリットタイプもラインナップされている。ハイブリットタイプは,圧力,流量などのプロセス信号(4-20mA,±12 VDC/AC)といった各種状態監視パラメータと加速度センサ(当社CAシリーズ)や変位センサ(当社FKシリーズ)などの有線タイプの振動センサの波形データを,最大8chおよび回転パルス1chの入力が可能である。(表2)
なお,ZARK X8Ⅱ中継機は現場設置環境を考慮してスイッチング電源を付属した防塵防滴構造(IP65相当)の収納箱に搭載されている。
4.3 データ活用プラットフォーム「Machine Dossier」
ZARK NanoおよびZARK X8IIから中継,送信されたデータを一元管理するのがデータ活用プラットフォームMachine Dossierである。Machine Dossierは回転機械の大量のデータを処理し,健全性あるいは劣化・異常の兆候をわかりやすくトレンド,スペクトル,波形データおよびマシントレイン図などでグラフ表示する機能,しきい値や周波数帯域ごとの警報処理・警報メール機能,ならびに自動帳票作成機能を有している。(図2,3,4)
これらのデータ処理と各種機能はAWSクラウド上(Amazon Web Service)で稼働し,スマートフォンなどのWebブラウザで表示,利用できるため,いつでもどこからでも設備の状態を監視,共有でき,保全担当者は社内の専門家などと分析データをもとに原因究明,対処方法を確認しながら最適なタイミングでのメンテナンス実施を可能としている。
5.おわりに
今回紹介したクラウド型状態監視システム ZARK & Machine Dossierは,汎用の中小型回転機械の状態監視が簡単かつ短期間で導入できるため設備保全の効率化,スマート保安につながるシステムである。
当社ではZARK & Machine Dossier以外にも,収集した回転機械の振動データをより詳細に解析・診断するといったニーズにも対応できるようエンベロープ処理した振動データによる周波数解析,異常原因の推定を可能にする振動解析診断システム「infiSYS 3.0」,測定周波数範囲が広い(低周波数~10 kHz)ワイヤレス振動センサ「e-SWiNS」といった高機能製品もラインナップしている。
また,ユーザ側で測定した振動データを解析・診断するための技術者や専門家がいないといったケースには,当社技術者による顧客設備の監視・診断サポートを行う遠隔振動状態監視サービス「infiSYS V-Assist」も提供している。
設備保全におけるIoT化やスマート保安の実現,振動データの活用,解析・診断でお困りのことがあれば,当社に是非ご相談いただきたい。