【ソリューション】
プラント計装用電源として高信頼性と小型化を追求した新型トライポート方式UPS
1.はじめに
UPS(無停電電源装置)は重要負荷の装置電源バックアップとして使用されるが,特にプラント工場やデータセンタ,放送局等では極めて安定した電力供給が求められる。プラント用UPSはDCS(distributed control system)などの計装用電源に使用されており,安全かつ安定した設備の稼働,操業に欠かせない重要機器である。そのためUPSへの品質要求は非常に高い。
高い信頼性が求められるUPSに対して,当社ではトライポート方式UPS(以下,TRP-UPS)を提供してきた。TRP-UPSは常時商用待機冗長方式であり,インバータが待機冗長運転のため電気部品へのストレスが少なく,またリアクトルやコンデンサなどによってAVR(定電圧制御回路)を構成していることなどから,これまで特に高い信頼性が要求されるプラントのDCS用UPSとして高評価をいただいている。一方,負荷や入力電圧の変動時における出力電圧の応答性能や装置サイズに改良の要望がある。
これらの要望に対して,現在当社は高性能なインバータを採用した新たな装置構成よる出力応答性能の向上,小型化を実現する新型TRP-UPSを開発している。
本稿では,新型TRP-UPSについて,旧TRP-UPSとの違いと新たに実装するトライポートトランスの特性を利用したUPS制御方式について述べる。
2.新旧TRP-UPSの比較
(1)装置構成
新旧TRP-UPSの装置構成を図1に示す。構成の違いとして,新型TRP-UPSでは充電器がなくなり,AVRインバータとトランスが追加されている。新型TRP-UPSでは双方向インバータの採用により,入力からトライポートトランス,双方向インバータを介して蓄電池を充電する。したがって,充電器を別途設ける必要がない。また,旧TRP-UPSでは鉄共振方式AVRを採用していたが,新型TRP-UPSでは図1(b)点線枠内に示すようにPWM制御のAVRインバータによりAVRを構成している。
(2)AVR(定電圧制御回路)
新旧TRP-UPSでのAVRの違いとしては,鉄共振方式AVRとインバータ方式AVRである。
旧TRP-UPSでは鉄共振方式AVRである。図2に示すようにコンデンサとリアクトル,サイリスタで構成される。本方式は信頼性,保守性が高いが,大容量のリアクトルとコンデンサの使用により装置が大型化し,サイリスタの点弧角制御による電圧補正のため,負荷や入力電圧の変動時における出力電圧の応答速度が若干遅い。
新型TRP-UPSではインバータ方式AVRであり,PWM制御のAVRインバータにより構成される。本方式は,負荷や入力電圧の変動時における出力電圧の応答速度が速い。しかし,本方式は装置構成が鉄共振方式と比較して複雑となる。
(3)給電システム
給電方式はどちらもラインインタラクティブ方式に分類される。
当社では旧TRP-UPSの給電方式を常時商用待機冗長方式と呼称している。ノーマル運転時とバックアップ運転時の電力フロー図を図3に示す。
ノーマル運転時の電力フローは,大部分(98%)の電力は装置入力から負荷へ供給される。このとき,インバータは待機冗長運転を実施しており,残り(2%)の電力をインバータ側から供給する。蓄電池は充電器により充電される。また,入力電圧変動や負荷の変動により電圧補正が必要となる場合は,AVRにより電圧補正される。
入力停電時はインバータがノーマル運転でも待機冗長運転しているため,バックアップ運転へシームレスに切り替わる。
新型TRP-UPSのノーマル運転時とバックアップ運転時の電力フローを図4に示す。ノーマル運転時の電力フローは,旧TRP-UPSと同様に電力の大部分は装置入力から負荷へ供給される。ここで異なる点は,双方向インバータが充電動作となり蓄電池を充電することである。また,双方向インバータは入力電圧に対応した正弦波電圧を常時出力している。また,入力電圧変動や負荷の変動により電圧補正が必要となる場合は,AVRにより電圧補正される。
入力停電時は,双方向インバータは常時正弦波電圧を出力しているため,バックアップ運転へシームレスに切り替わる。また,入力停電時の双方向インバータ出力は停電直前の入力電圧を基に自走運転となる。
3.新型TRP-UPSに用いられている技術
3.1 基本原理
新型TRP-UPSには当社が新たに開発した電力制御システム(特許第6618210号)が搭載されている。
本電力制御システムに用いられている基本的な原理は,図5に示すようにリアクトルの印加電圧により電力を制御することである。
図5に示すV1とV2を交流電圧源,V1を基準,V1とV2の電圧実効値が同等として,V2がV1よりも位相が遅れているとした場合,フェーザ図は図6(a)となる。ここで電圧源V1の有効電力は下記の式から導出される。
P1 = V1×iL cosθ…………………………………(1)
ここでθはV1に対するiLの位相差となる。V1に対するiLの位相差は0 < θ < 90であるため,有効電力は正であり,V1からV2へ電力が供給されることが確認できる。
V1がV2よりも位相が遅れているとした場合,フェーザ図は図6(b)となる。V1に対するiLの位相差は180 < θ < 270であるため,有効電力は負であり,V2からV1へ電力が供給されることが確認できる。
これらのことから,V1とV2の位相差によりリアクトル印加電圧を変化させ,電力フローを制御できることがわかる。
新型TRP-UPSは上述の技術について,V1を装置入力電圧,V2を双方向インバータ電圧とし,トライポートトランスの特性を利用することで図5と同様な構成を実現している。新型TRP-UPSの等価回路を図7に示す。
ここで,VACINは装置入力電圧,VINVはインバータ電圧,VAVRはAVR電圧,VOは装置出力電圧,Lkはトライポートトランスが有する漏れインダクタンスである。
VINVはVACINと同様の実効値を有する電圧を出力し,電力フロー制御のために電圧位相を変化する。VAVRはVOの位相をVACINと同期させるために動作する。
VINVとVACINが同位相の場合,Lkには電位差がなく,電流は流れないため,この状態で負荷を接続するとインバータとAVRから供給されることとなる。新型TRP-UPSは装置入力から負荷へ電力を供給するために,VINVの位相をVACINよりも遅らせることでLkに電位差を発生させる制御を実施する。
3.2 位相制御と高力率制御
新型TRP-UPSはインバータが双方向インバータであり,ノーマル運転時は蓄電池を充電するために動作する。ここで,インバータがVINVの電圧位相変化のために検出している信号は蓄電池の電圧と充電電流であり,この2つの信号から蓄電池のCCCV制御*1)を実行するために位相を変化させる。上述したように新型TRP-UPSにおいて,負荷への電力供給は双方向インバータとAVRから優先的に供給される構成となっている。このため,負荷を接続した状態で蓄電池を充電するように,位相操作をした時点で蓄電池の充電電力と負荷への出力供給は装置入力電圧から供給されることとなる。
また,本制御は蓄電池のCCCV制御により位相操作するため,有効電力の制御のみを実施している。このため,図8(a)に示すように低力率負荷を接続した場合,無効電力は双方向インバータとAVRから供給され,有効電力のみが装置入力電圧から供給されることとなる。
3.3 無瞬断切替
双方向インバータはノーマル運転時において,VINVはVACINと同様の実効値を有する電圧を出力している。ノーマル運転からバックアップ運転への切替わりの際は充電制御のための位相制御を即座に停止し,停電直前の入力電圧位相と同期する。出力電圧補正はAVRが出力しているため,図8(b)に示すように切り替わりの際の瞬停は発生しない。
3.4 回生負荷接続
新型TRP-UPSは回生負荷が接続可能である。3.1でも述べたように,VINVとVACINの位相差により電力フローを制御する。装置に回生負荷が接続され,かつ負荷側で電力が発生した場合,その電力は蓄電池の充電に使用される。ここで,充電電力に必要以上の過剰な電力はVACINよりもVINVの位相を進ませ,装置入力側に戻すことが可能である。
4.常時インバータ方式UPSとの比較
常時インバータ方式UPSと比較して新型TRP-UPSは同等の出力特性を有するが,下記の異なる特徴を有する。
常時インバータ方式UPSはPFCコンバータとインバータの2段の変換器で構成され,運転モードに関わらず負荷の求める電力の100%をこれらの変換器を介して出力するが,新型TRP-UPSにおける双方向インバータはノーマル運転時,無効電力分のみ出力し,有効電力分は変換器を介さず負荷へ供給する。
また,外来ノイズに対して,常時インバータ方式UPSは外来ノイズが直接PFCコンバータなどに印加される。一方で新型TRP-UPSでは,インバータなどの電力制御部はトライポートトランスにより絶縁されているため,直接印加されることがない。
上記のことから,新型TRP-UPSは常時インバータ方式UPSよりも電気部品へのストレスが少なく,信頼性が高いことが言える。
5.まとめ
新型TRP-UPSは旧型TRP-UPSと比較して,下記の利点がある。(写真1)
・双方向インバータの採用⇒充電器が削除
・インバータ方式AVRの採用⇒鉄共振方式AVRを構成する大型リアクトルとコンデンサの削除
・高周波インバータの採用⇒応答特性の向上(図9) ・新開発した電力制御システム(特許第6618210号)の採用⇒回生負荷の接続が可能 したがって,従来よりも装置を小型化し,性能面も向上させることが可能である。 また,新型TRP-UPSは常時インバータ方式UPSと同等の出力特性を有しながら,電気部品へのストレスが少なく信頼性が高い。 今後の展開として,現在は単相10kVA機種のみを開発しているが,開発が完了次第20kVA,30kVAとさらなるラインナップの充実化を目指す。 注) *1)CCCV制御:定電流定電圧制御
図9 負荷急変時出力波形
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