監視制御システムの近未来展望~DCS/SCADA,リモートIO

【巻頭フォーカス】

これからの監視制御システムの適応要件と進展方向

1.はじめに

本誌『計装1月号』での『生産現場からみたDX導入の考え方と着眼点』1)では,製造業におけるデジタル化の現状と今後予想される可能性について説明した。

一方,計装制御システムにおいても,フィジカルなハードウェアやネットワークから,バーチャルなソフトウェアへ移行あるいは置き換わってきている。特に,2020年初頭からのCovid19パンデミックにより,生活や勤務スタイルにおける様々な変革が求められ,計測制御システムにおけるデジタル化も一気に加速した。

本稿では,最近の海外での石油化学・ガス・LNGプラント建設プロジェクトにおける計測制御システムの変革について紹介する。また,将来に向けて,制御とAI&デジタル技術が融合されて”監視&制御”の範囲が拡がり,プラントの省人化・無人化に繋がっていくことを説明する。

2.計装制御システム構築におけるデジタル化の方向

2.1 Smart Junction Box / Configurable IO

計装制御システムにおけるバーチャル化は,運転支援システム,オペレータステーション,コントローラ,入出力や通信モジュールをホストコンピュータやサーバ上で運用するところまで進んでいる。

これらバーチャル化により得られる効果として,計装制御システムのハードウェア構成の標準化あるいは簡易化,そして,物理的なハードウェアの削減が挙げられるが,代表的な技術がConfigurable IOである。

Configurable IOとは,ソフトウェアで設定可能な入出力ソリューションであり,これまでのアナログ,デジタル入出力など固定機能の入出力モジュールに代わるものであり,従来の制御キャビネットの設計を根本から覆すものである。

標準化されたConfigurable IOで構成されるマーシャリングキャビネットに対して,入出力設計をはじめソフトウェア主体の設計で制御システム設計が完結する。これゆえ,計器室内において多大なスペースの削減が可能となる。昨今では,この現場型Configurable IOをSmart Junction Boxとも呼んでいる。

2.2 計装制御システム構築におけるバーチャル化がもたらす業務変革

ホストコンピュータやサーバにソフトウェア化,バーチャル化された計装制御システムはクラウド上に仮想的に設置,運用することも可能になる。(図1)


図1 計装制御システムのクラウド化


つまり,物理的に離れた複数拠点からソフトウェア設計,実装,機能試験を可能とし,また,SSL-VPNなどのアクセスコントロールを考慮し,イントラネット外からのリモートアクセスも可能になっている。

近年の海外プロジェクトでは,このバーチャル化,クラウド化により,グローバルに最適なエンジニアリングリソースによる遂行が一般的となっている。

また,このバーチャル化およびクラウド化は,業務遂行上,ハードウェアとソフトウェアのデカップリングという変革を促した。この変革が起る以前は,計装制御システムの製作工程上,ハードウェアとソフトウェア間は密接に複雑に連携しており,その整合性を取るために多大な時間と労力を必要としていた。

デカップリングにより,その協調という制約を解消できたことで,プラント建設プロジェクト遂行において,計装制御設計に多大なフレキシビリティと優位性をもたらした。

ハードウェアはソフトウェアに関わらず施工計画に従い出荷が可能となり,ソフトウェアは機能設計進捗に伴い製作を進めて試験に到る。つまり従来に比較して,計装制御システムのハードウェア製作スケジュールでは空間設計のみに注力することができ,一方,ソフトウェア設計では機能設計との整合性のみを配慮すれば良いことになった。機能設計と空間設計がそれぞれ並行して“自律”して進めることができるのであり,まさにコンカレント・エンジニアリングの実現にほかならない。(図2)


図2 機能設計と空間設計のデカップリングと融合


プラント設計エンジニアリングでは,プロセス・配管・土木・建築・静止機器・回転機・制御・電気ほかの各設計があるが,機能設計においてはP&IDを中心に各設計データが連携&統合され,空間設計においては3Dモデル上に全ての空間情報が集約&統合されてきた。従来,この機能設計と空間設計の真の融合は,各エンジニアの頭の中で行われていた。しかし最新のオントロジー技術等により,両者の整合性を常時保つことがシステム上で可能になってきており,今後,プラントエンジニアリングの飛躍的発展に大いに貢献すると期待されている。

つまり,プロセス制御や安全計装に代表される機能設計は,P&IDを起点としたバーチャル化,クラウド化によるデカップリングと,オントロジー技術を鍵とした機能設計と空間設計の整合性が取れるという両面から,迅速な設計や調達・最適な施工計画や動員が可能になる。

2.3 バーチャルとクラウドによる遠隔監視

計装制御システム業務におけるバーチャル化,クラウド化による大きな変革の一つに,リモートによる機能試験があり,それは,遠隔監視への技術的布石でもある。弊社が近年北米にて遂行したLNG他のプラント建設プロジェクトにおける機能試験は,顧客が北米から,計測制御システムベンダが北米およびインドから,弊社が日本から参加,という遂行体制となった。今後の標準的な遂行形態として広く採用されることは間違いない。(図3)


図3 計装制御システムのリモートFATの一例


2.4 デジタルツインによる計装制御設計から操業への貢献

プラント建設の設計時に,バーチャル化して構築された計測制御システム(機能設計)および3Dモデル(空間設計)は,プラント建設後は操業向けにデジタルツインとして導入されていくことになる。(図4)


図4 ライフサイクルでのデジタルツイン活用


プラントライフサイクルにおいて,運用面と保全面でのデジタルツイン有効活用が今後将来に向けて大いに期待される。

なぜならば,プラント設計時における機能設計と空間設計では,プラントライフサイクルを網羅した運転・保安・保全を考慮し検討した結果が,全てシステムとしてのデジタルツインに盛り込まれているからである。それを実際の運転・保安・保全にいかに活かせるか?否か?が今後の課題であり,計装制御の観点からは以下の通りである。

・運用面でのデジタルツイン活用:

-プラントダイナミクスからの運転支援高度化

-バーチャル制御コントローラ

-実運転ヒストリカルデータの補完

-高度異常検知 etc.

・保全面でのデジタルツイン活用:

-計器保全情報の管理や計画の高度化

-無線ネットワーク設計及び検証ツール etc.

(無線計器自身の無線ルータ化を支援)

3.AI&デジタルによる“監視&制御”の拡がり

3.1 “狭義の制御”と“広義の制御”の違い

産業界におけるデジタル化というと“ドローン”や“モバイル機器”の活用等が真っ先に取り上げられ,前章までに述べた従来からの“制御”とは全く別モノの感がある。

しかし,将来に向けて“制御”の本流は,それらのデジタル化と非常に密接な関係があることについて説明する。

図5は現在の世の中のDCS/PLC等で一般的にカバーされているプロセス制御と,今後将来に向けてさらに拡がっていく制御の範囲を示し,本稿では前者を“狭義の制御”,後者を“広義の制御”としている。


図 5 “狭義の制御”と”広義の制御”の違い


3.2 PIDフィードバック制御中心の“狭義の制御”

初期の頃のプラントでは,現場には手動バルブと現場指示計のみがあり,全て現場オペレータによる目視による手動操作であった。そこから,空気式そして電子式計装機器やコントロールバルブ・制御システムが開発&運用され,特にPID方式でのフィードバック制御が世の中に生み出され,オペレータによる手動制御から,システムによる自動制御に置き換わったことが,プラント操業における省人化・生産性&安全性向上等に多大な貢献をしてきた。また近年では,基本的なPID制御ループの上位に,モデル予測制御等の高度制御システムが一般的に活用されている。

現時点において,このPIDおよび高度制御の部分は,DCS/PLCでの統合制御システムとして構築&運用されているが,この部分を本稿では“狭義の制御”としている。

3.3 オペレータ判断&操作が必要な“広義の制御”

一方,実際のプラントにおいて,PIDフィードバック制御や高度制御でも対応できない場合,従来からオペレータは自分の判断&操作で対応しており,以下のようなケースがある。

・運転指標が複数あり,バランスを鑑みた判断が必要

・機器内部状態が見えず経験からの推測判断が必要

・スタートアップでの不安定で自動制御ができない時

・時定数が大きく,フィードバック制御では対応不可 etc.

オペレータにより判断&操作が現状なされている内容は,人のセンサである五感からの入力信号を得て,様々な過去データを頭の中に浮かべつつ,複雑な条件下で判断し,様々な運転パラメータを変更操作している。つまり“人”が“監視&制御”を行うものであり,これを本稿では“広義の意味での制御”としている。

3.4 制御とAI&デジタル活用が融合されていく将来の姿

“広義の制御”は“狭義の制御”のようにシンプルなフィードバック制御の組み合わせでカバーできるものではなく,非常に複雑であるために,従来はオペレータが様々な情報から判断をしてアクションをせざるを得なかった。

しかし,近年登場し急速に活用が拡大しつつあるDeep Learning(深層強化学習)等の新たなAI技術や,ベテランが判断するノウハウを学習する新たなエキスパート型AI等が登場したため,従来はオペレータでしか対応できなかった“広義の制御”の部分が,IT&デジタル・システムでカバーすることが徐々に可能になってきている。

遠からずこの”広義の制御”の部分までもIT&デジタル・システム化されていき,一般的に“監視&制御”される範囲が将来に向けて大幅に拡大されていくであろう。

3.5 バイオインダストリ分野でのAI&デジタル技術活用と制御

“広義の制御”の例として,培養槽周りでのデジタルツイン化の可能性についてご説明する。(図6)


図6 培養槽周りでのデジタルツインと最適制御


培養槽周りのパラメータは,構造パラメータ・分布状態パラメータ・操作パラメータに分けられ,制御としては分布状態パラメータを計測して操作パラメータを調節することになる。しかし,この分布状態パラメータが相互干渉し,フィードバックPID制御コントローラ同士も干渉し合うのが課題である。

弊社はこの課題を,シミュレータ上での学習(Deep Learning)によりAIがPIDパラメータを随時変化させることで解決,つまり非干渉制御を既に実証しており,本課題も解決が可能になると考えている。(図7)


図 7 AIによるPIDパラメータ調整での非干渉制御


また,従来,外部からは“見えなかった”培養槽中の溶存二酸化炭素濃度のリアルタイムでの分布状態なども,CFD (Computational Fluid Dynamics)でモデル化し,AI(Deep Learning)で学習させてリアルな内部状態の“見える化”と制御が可能になる。

4.おわりに

制御の機能設計と空間設計のデカップリングと融合が可能になり,かつEPCからO&Mまでのライフサイクルでデジタルツインによるデータ連携&統合が進む。一方,AI&デジタル技術が融合された新たな制御範囲が拡大していくことが,プラントの省人化・無人化に繋がっていくことになる。まさにこれが,“監視制御システムの近未来展望”ということになる。

〈参考文献〉

1)井川 玄,佐々木美春:「生産現場からみたDX導入の考え方と着眼点」,『計装』,Vol.65,No.1(2022)

千代田化工建設 井 川 玄/岡 村 一 成

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