環境ニューノーマル時代のエネルギー管理の新たな潮流

【トレンド】

RE100ファクトリを目指す 地域グリッド・エネルギー調達の実現に向けて

1.はじめに

製造業におけるカーボンニュートラル(以下,CN)の実現へ向けて,2030年,2050年を目指し,各社がその実現手法を検討している。すでに積極的に取り組んでいる企業もあるが,まだまだ手探り状態であるという企業,まずは少しずつ実践してみたいというフェーズの企業も多いのではないか。こうした中で,各社はどのようにして実現を目指していくのだろうか,またこれは各企業が単独で実現できるのだろうか。

当社をはじめ横河電機グループ(以下,YOKOGAWA)は,この課題を解決するためには,単に1つの企業,1つのシステムの機能に依存するのではなく,様々な企業の,様々なシステムが連携して実現することが必要であると考えている。複数のシステムを効果的につなげ,統合化・自立化・デジタル化により「全体最適」の価値を生み出そうというのが,YOKOGAWAが提唱する「System of Systems」という考え方である。今回はこのSystem of Systemsで,組織,プロセス,データを連携したCNを目指す取り組みについて記載する。

 

2.CN実現に向けて

2021年,第6次エネルギー基本計画が策定され,地球温暖化対策促進法(通称「温対法」)も改正,エネルギー使用の合理化に関する法律(通称「省エネ法」)も改正された。省エネ法の改正でグループ企業が一体となった省エネ計画が認定対象となったが,省エネだけでCNが実現できるわけではない。すべての購入エネルギーを再生可能エネルギー(以下,再エネ)に切り替えてもCNは実現しない。CNは電気エネルギーだけではない。その代表的な例として「熱」が,さらには企業活動全体や人に依存する部分など,Scope3で定義されている様々な活動を含めて,実現する必要がある。

パリ宣言を受けて改正された温対法により,企業の排出量情報の公開がESG(環境・社会・ガバナンス)投資へと繋がることが想定されている。さらに東京証券取引所のプライム市場新設にともない,大企業ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が進むとも予想される。

しかし,企業として一気にCNを実現できるのか,それはなかなか難しいことである。そのため,たとえば簡易に始められる手段の一つとして電気と熱を自然由来エネルギーに切り替えることが考えられ,化石エネルギーから非化石エネルギーへ,化石エネルギーから再エネへの切り替えが始まる。そこから順次,再エネ導入比率を上げていくことが一般的なCN実現のためのステップとして考えられる。

各企業としてSBT認定,CDP対応など,それぞれに目指す形が異なるかもしれないが,今回はRE100を取り上げる。使用電力をすべて再エネで賄おうという「RE100*1)」,この実現に向けての活動が各社で始まっている。

3.RE100の可能性

RE100の実現に向けては,調達エネルギーを全て再エネ由来に切り替える「全量再エネ購入」,これが最も近道であると思われる。

実際の電力料金を見てみよう(図1)。再エネ賦課金は2021年3.36円/kWh,2030年に向けてさらに上昇すると予想される。


図1 RE100実現へ向けた課題:企業としてめざすもの,実現手法,そのコスト

ここで,再エネであることを証明するための証書を購入する場合の費用を含めて考えてみる。Jクレジット,非化石証書,グリーン電力証書等,購入する証書の種類にもよるが,証書購入費と再エネ賦課金の合計が10円/kWhを超えることもあるはずだ。20円/kWhだと思っていた電力単価が気付いたら30円/kWhになっている,この電力コストの上昇は各社にとって大きな課題になるだろう。

その一方で,再エネの導入にもコストの課題もあると感じている企業も多いのではないだろうか。再エネ固定買取制度としてFITが導入されている。その買取価格は年々下がり続けていることからもわかるように,その導入コストは下がってきている。

再エネを導入した際の採算はどうか。これは設備の導入量,導入工事費,そして購入していた電力料金単価を比較すると回収期間をシミュレートすることができる。たとえば,工場や事業所で最も導入しやすい太陽光発電設備,導入費用が20万円/kW,電気料金が20円/kWhの場合でも約10年で回収することが可能である。(平均的な発電量に基づいた計算であり,地域や日照条件によって異なる。)(図2)


図2 設備の導入単価と回収

この採算性を考える際には,発電した電力をすべて使用しているかも重要である。実は使用していない電力量(余剰電力)があるのではないかといったことを,休日,工場設備の点検といった稼働停止のタイミングなどでチェックしてみるべきだ。電気需要量の大きい工場では太陽光だけで余剰が簡単に発生しない場合も多いが,比較的需要の少ない事業所などでは余剰が発生する場合も多い。

4.余剰電力の有効活用

余剰電力の有効活用を考えると,次のステップとして蓄電池の導入が考えられる(BCPとしての蓄電池の価値も見逃せないが)。この結果,再エネの導入量と,電力需要量に基づき導入するエネルギーストレージの量を検討することになる。発電量が一定ではないこと,当然需要も一定ではない中で,蓄電池の導入量を算出する必要がある。特に蓄電池の実行容量(放電可能な蓄電容量)をある程度正確に把握しながらのシミュレーションは簡単ではない。少ない導入量で,最大限の効果を発揮する適正な導入量とはどのぐらいなのか,ここも導入を検討する際に非常に大きな課題である。

再エネの導入で購入電力を減らすことに加えて,蓄電池を用いたピークカット,ピークシフトによる基本料金の削減の可能性も,費用対効果のシミュレーションとして欠かせない。ピークカットによるデマンド削減は,将来的には受配電設備の規模の見直しなど,さらなる効果をもたらすことも検討に入れるべきだ。

再エネも,蓄電池も販売していないYOKOGAWAは,第三者的な立場で,エネルギー需要に対する再エネ導入量の効果計算,蓄電池導入量と効果の計算をサポートする形で皆様の事業をサポートする。(図3)


図3 YOKOGAWAの『活かす』エネルギーマネジメント

5.リチウムイオン畜電池

蓄電池の代表的存在でもあるリチウムイオン蓄電池,この導入量を計算するなかで注意すべきことがある。蓄電容量をすべて放電できるのか,劣化の状態はどうか,一般的に残量が%で示されているがビジネス用途において問題はないのだろうかといった点だ。

計測と制御をビジネスの中心とするYOKOGAWAは,リチウムイオン電池の劣化の状況を測定するための装置を手掛けてきた。この装置を用いて基準値と測定値を比較することで,活物質の量(失活),正極や負極の反応面積,電解液の劣化,正極と負極の特性のズレなどを把握することができる。YOKOGAWAはこの装置を用いて,様々なリチウムイオン電池を測定し,様々なリチウムイオン電池の特性を把握することができた。この特性からリチウムイオン電池の実行容量を測定することが可能だと考えている。実行容量の測定とは,蓄えられたエネルギーをAh(アンペアアワー),Wh(ワットアワー)で算出できるということである。

さらにこの残量測定の技術は,運用に伴って減少する蓄電池システムの蓄電可能容量を復元する作業にも効果を発揮する。リチウムイオン電池の劣化は化学反応の蓄積であり,劣化を復元することは難しい。しかし,蓄電池を構成する一つひとつのCellの自己放電量の違いによって,Cellの残量にズレが生じ,この影響で本来貯められる量を蓄電することができなくなるという事象が起こる。この時,標準的にリチウムイオン電池に搭載されているバランス回路を作動することでこのズレを整え,システム全体の蓄電量を復元することが可能である。

一般的には連続した満充電期間を作ることでこのズレを整えるため,この作業中は蓄電池システムとしての運用を停止する必要がある。しかしYOKOGAWAの手法は,蓄電池システムの運用を停止することなくCellごとの残量を算出することを可能とし,さらに既存のバランス回路を活用することで,運用中にCellバランスを整えることも可能となる。

現在この機能は,車載や定置用のリユースBatteryを再利用する際の容量最大化を図るサービスとして事業を展開しているが,最も効果を発揮するのは,稼働中の大型定置用リチウムイオン蓄電池で用いた場合だ。運用中のシステムを停止することなく測定しバランス調整を実施する,このオンラインでの残量測定およびバランス調整の実施は,大型定置用リチウムイオン蓄電池の運用に際して,充放電量の増加を実現し,蓄電池の価値を最大化することに貢献できる。(図4)


図4 YOKOGAWAのリチウムイオン電池容量測定とバランス調整の効果

6.再生可能エネルギー

再生可能エネルギーが主力電源となること,これは水力,バイオマス,地熱,太陽光,風力といった再エネが,一部の火力発電に置き換わることを指している。

一言で再生可能エネルギーといっても,大きく2つに分類される。それは出力を制御することができるのか,自然(天候も含む)に任せるしかないのかという分け方,もしくは,設置条件が地球環境に大きく依存するか,工夫することで設置が可能になるのかという分け方だ。導入をする際にはこの違いが非常に大きい。この再エネ導入に欠かせないものがある。それが先にも述べた蓄電システム:エネルギーストレージだ。

同時同量(電力供給量と電力需要量が同じであるという意味)といわれた電力供給ネットワークは,出力を自由に制御できない再生可能エネルギーの導入が増えていけばこのバランスが崩れる(当然ほかにも要因はあるが)。エネルギーを貯める,これができない限り再生可能エネルギーは主力電源にはなれない。リチウムイオン電池,NAS電池,レッドクスフロー電池などの蓄電技術だけではなく,水素,メタン,アンモニア等でのエネルギーを貯める技術も進んでいる。この貯める機能をスマートにコントロールすること,さらに,複数のリソースを組み合わせていかなければRE100の実現に近づくことは難しい。

これを工場単位,企業単位で実現できるのか,非常に難しいのではないだろうか。そこで組み合わせて制御する範囲を少し広げることはできないか,一つの企業,工場ではなく,たとえば隣接する企業,工場と連携することはできないか。隣接していなくてもよい,自己託送の仕組みを用いてグループ内で連携することも考えられる。単独ではできないことを連携して実現する,これが重要なポイントになる。

 

連携した時に再エネの発電リソースが1種類しかなければ,リスクをヘッジすることが難しい。なぜなら前述の通り出力が設置環境や天候に依存するためだ。よりリスクをヘッジしながら再エネ導入率を高める,このためには複数の発電リソースを持つ必要がある。周りには自社と異なるエネルギーリソースを持つ企業もあるのではないだろうか。

7.サプライチェーンとScope3

さらには需要のパターンも異なる方がよい。勤務体系が異なる場合や,生産活動が異なることでエネルギー消費のピークが異なる,このようなグループで連携して運用することで,エネルギーの需要がより安定することになる。複数のリソースをエネルギーマネジメントシステムで連携して動かすことで,自社のエネルギー供給を安定させるだけではなく,デマンドレスポンスなどを活用したさらなる収益改善プログラムを検討することも可能となる。

企業間での連携,この選択肢の中ではサプライチェーンでの連携も検討できないだろうか。CO2排出量の算定Scope(図5)を鑑みると,単独の企業や工場の努力で算出,削減していく範囲はScope1と2の部分が多い。しかし原料から材料へ,そして最終製品へと製品が流れていく過程で,Scope3の割合が増えていく。Scope3のカテゴリ1,カテゴリ11などは自社だけでコントロールできるものではない。この時サプライチェーンで連携することも解の一つとなり得るのではないだろうか。


図5 CO2排出量の算定Scope:Scope3の変化イメージ

Scope1,2,3の算出は1度だけではなく,当然今後も継続して実施していくものになる。この精度を上げていくことが企業活動にさらなる価値をもたらすはずだ。現段階ではデータを集めて集計している項目が,今後順次データ収集システムで自動化され集計されるだろう。このデータの粒度(収集周期)が細かく(短く)なり,さらに生産システムと連携が図られたときには,製品ごと,ロットごとのCO2まで算出することが可能となる。

この製品ごと,ロットごとのCO2排出量の明確さが,製品にさらなる価値をもたらすはずだ。このデータがサプライチェーンを超えてつながる,この導入が進み,ある変化点(シンギュラリティ)を迎えるとき,各社のシステムが連携され,最終製品のCO2排出量が連動して算出される。このための最初の一歩とも言えるエネルギーの連携,これが今必要となってくる。

8.まとめ

今回は「RE100達成に向けて」という切り口で,再エネの導入から蓄電池の導入,さらには企業全体のCO2排出量計算までの話をまとめた。このCO2排出量計算のためには,エネルギーマネジメントシステムと生産システムとの連携,さらには企業活動における財務・会計システムを含めた基幹系情報システムとの連動,そしてここから算出された公開可能な必要なデータを各企業間でも連携していくことが重要になっていく。

こうした様々なシステムの連携を実現するのがYOKOGAWAのSystems of Systemsだ。CNに向けた活動はまだまだ最終ゴールが明確ではないが,この中で要求に応じて形を変え,必要に応じて連携して課題の解決を目指す。

注)

*1)RE100とは「Renewable Energy 100%」の略称で,事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的活動。また,この活動に取り組んでいる企業が加盟している国際的な企業連合。

横河ソリューションサービス 松下武司

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