製造 DX が拓く革新工場の近未来像~ベンダ編

【プレゼン:製造DXの考え方・進め方】

DXを推進させるフィールドデバイスのIoTプラットフォームの構築

1.はじめに

これまでのオートメーション産業では,工場で生産される製品に対し,「目的の数量」を「規定の品質」で「時間内」に「計画されたコスト」で「安全」に製造するために必要なデータがフィールド機器から集められてきた。

ここに,DXを推進することで,“モノ”の作り方が変わるだけでなく,私たちと周囲との関わり方が根本的に変わる可能性があると言われている。

概念的に言えば,物理的な世界にあるモノをデジタルで監視・管理できるようになることで,データに基づいた意思決定が私たちの活動に新たな領域をもたらすこと,システムやプロセスのパフォーマンスの最適化が人や企業の時間の節約を通じて,私たちの生活の質を向上させること,などと言われている。

DXの推進には,デジタル・マチュリティ・レベル,デジタル・アクセラレーション・インデックスなどを使った現状分析のほか,取引企業とのデータ連携計画など,自社を取り巻く環境に関しても含まれるため,その範囲は広い。本稿では,製造設備のフィールドデバイスをIoTのプラットフォームとするための手法を,NAMUR Open Architecture (NE175)に準じたエンドレスハウザーのIIoTソリューションを例に紹介して行きたい。

 

2.フィールドデバイスをIoTプラットフォームへ

既存のフィールド機器をIoTプラットフォームとして構築する目的は,生産設備で使われているフィールド機器の効率化と可用性を向上させることであり,収集されたフィールド機器のデータを活用する最終的な目標は,予知保全と呼ばれる概念により履歴データに基づきアセットの将来の動作を予測し,操業を最適化することである。

しかし,従来の設備ではフィールド機器は,DC4-20mAのアナログ出力なので,1つのプロセス値しか伝送していなかった。現在のスマート化されたフィールド機器は,複数のプロセス値,自己診断,さらには修理や交換の推奨事項を提供することができるが,アナログ出力を使用している限り,これらの情報はアセットの中に閉じ込められたままで,保全マンは現場でFDTツールやハンドヘルドを使って情報を取り出さなければならない。

その理由は,多くのプロセスオートメーションプラントは,フィールド機器の自己診断が一般的になる前に計画・建設されたことで,アセットの情報を収集する仕組みをそもそも備えていないことにある。また,アセットの更新に伴って新しい技術が施設に導入されても,制御システム側では読み込むことができず,多くのデバイスの機能や情報がフィールドに残されたままになっている。

このように多くの工場では,設置されているアセットに連続して接続する手段がない。こうした現状を踏まえて,NAMUR*1)では,既存の制御システムに影響を与えずに,フィールドにあるデータを第2の通信チャネルを構築することでアクセスするNE 175「NAMUR Open Architecture-NOA Concept」を提唱している。NE175では,従来のオートメーションピラミッド内でアクセスするのが困難なデータに対し,エッジデバイスを活用することでフィールドデータの収集を実現する手段を提供するものである。(図1)


図1 NE175「NAMUR Open Architecture」


その特徴をまとめると,以下のようになる。

・既存の制御システムに付加できる。

・Industrie4.0に基づく新しく標準化された仕組み。

・既存の標準化技術を基盤とする。

・フィールドの階層からエンタープライズ階層までIT機器で簡単に素早く統合。

・オープンで統合的なアプローチによるセンサあたりのコストの大幅な改善。

・既存設備の安全度や可用性に影響するリスクがない。

このように特にEUでは,NE175とIndustrie4.0を組み合わせてオートメーション産業のIIoT化が進められている。

3.フィールドのアセット情報の把握とデジタルツインの作成

産業IoT(IIoT)活用の最初のステップでは,設置場所,タイプ,ベンダ,固有のID(通常はシリアル番号)などの基本的な情報を含むアセットのリストを作成するという手作業が必要になる。

従来から,資産管理という観点で技術者が現場に赴き,これらの詳細をすべて記録してリストを作成していた。その後,取扱説明書や防爆や校正証明書など,各機器に関連する様々な文書をすべて揃えて保管する。従来はこうした文書類はすべて紙のファイルで保存されていたし,アセットの更新があればその都度手作業でアップデートする必要があった。最近ではベンダが提供する取扱説明書は電子化され,物理的なスペースを取ることはなくなったが,明らかにこの方法は多くの時間と労力を必要とし,データの一貫性や妥当性が劣る可能性もある。

しかし,フィールド機器の設置状況をデータ化することは,データ分析/IoTの世界に向けての重要なステップである。この作業にはかなりの時間と費用がかかるが,得られるメリットは大きい。

エンドレスハウザーでは,2010年ごろから製品の銘板に二次元コードを印刷するようになった。また,これを読み取る「Operations」というアプリを2016年からGoogle PlayやApp Storeで無料配布し,ユーザがスマートフォンなどを使って二次元コードを読み取ると取説など製品固有の情報が簡単に入手できるサービスを開始している。

また,クラウドサービス「Netilion」の開始とともに「Scanner」というアプリも無償配布している。このアプリは,二次元コードを読み取るとNetilionクラウド上にデジタルツインを自動生成させることができる。このデジタルツインは,設置場所の位置情報,重要度,備考,写真などの詳細情報が保存される。(図2)


図2 「Scanner」アプリによるデジタルツインの自動生成


年齢や教育レベルの異なる参加者を対象としたテストでは,これらのデータを収集してアセット情報を入力するのに,通常1分もかからなかった。しかし,何百ものアセットがある施設では,これはまだ面倒な作業かもしれない。

HART,PROFIBUS,FOUNDATION Fieldbusなどのデジタル通信プロトコルは,現場のアセット情報や機器に内蔵された機能を活用することができる。これらのプロトコルでは,接続されたアセットの識別方法が仕様で標準化されており,簡単にデジタルアクセスが可能になっている。

「NAMUR Open Architecture-NOA Concept」NE175に則り,フィールド機器の情報を自動的に収集するためにクラウドへ送信する手段としては,エッジデバイスが理想的な方法と言われている。エッジデバイスは,オートメーションのピラミッドの「端」にある第2のチャネルを使用することで,既存設備への影響を回避できるメリットがあり,セキュリティ機能も備えている。エンドレスハウザーでは,顧客企業とのフィールドテストにおいて,エッジデバイス(FieldEdge SGC500)の設置から最後のデジタルツインの作成まで,4時間以内に800以上のアセットを含むプラントデータベースを生成することができた。(図3)


図3 システム構成例:エッジデバイスの活用


さらにエンドレスハウザーでは,設備がデジタル信に対応していない場合でも,デバイスに小型のワイヤレスアダプタ「FieldPort SWA50」を装着することで,フィールド機器に簡単にネットワーク通信機能を備えることができる。(写真1)


写真1 ワイヤレスアダプタ「FieldPort SWA50」(左)と装着したデバイス(右)


FieldPort SWA50は,暗号化されたBluetoothまたはWirelessHART通信による信頼性の高いデータ伝送が可能で,エッジデバイスFieldEdge SGC200と組み合わせれば,セキュアなBluetooth接続を利用してデータをクラウドへ送ることができる。このアダプタとエッジデバイスの組み合わせは,すべての2線式または4線式のHARTフィールド機器から情報を取り出すことができる,簡単でコスト効率の高いソリューションとなっている。

4.データをクラウドに集めることのメリット

クラウドに集められるデータは,アセット管理などに利用される静的なデータと,計測値や診断情報などの動的なデータがある。静的なデータの活用は,主にアセットの陳腐化管理やドキュメント管理が主なものになる。

工場で使われているフィールド機器には,様々なメーカのものが数多く存在するが,工場を経済的に運営・維持するためには,工場全体を俯瞰し,フィールド機器の関連書類や現在の健全性の状態を把握する必要がある。調査によると,メンテナンス作業にかかる時間のうち,最大70%が情報検索に費やされていた。また,古い設備では,設置されているフィールド機器の最大30%が陳腐化している可能性があると言われている。こうした古い情報やフィールド機器は工場の操業を妨げる可能性もある。

アセットの旧式化を排除するための,「Netilion Analytics」は,デジタルツインを持つすべてのフィールド機器の製品の陳腐化ステータスを監視する。どのアセットが陳腐化しているかを知ることで,メンテナンスの効率を高め,アセットの故障リスクを低減させることもできる。

また,校正手順書,設定報告書,取扱説明書などのアセット関連文書の作成に関しても「Netilion Library」のようなデジタルファイル管理サービスを利用すれば,多くの時間を節約することができる。各アセットのデジタルツインに関連文書を添付することで,技術者はファイルを探す時間を減らし,実際の保守作業に専念することができる。

次に動的なデータの活用方法であるが,これらは主に保全の品質向上を目的とする。アセットの健全性を示すNAMUR NE107ステータスなどの動的データから,フィールド機器の故障の種類,原因,対処法などの診断情報を視覚化して生成することができる。このデータがクラウド上にあれば,リモートからこれらのデータにアクセスでき,技術者は,遠く離れた場所や危険な場所にある故障した機器に出向く前に,適切なツールや部品を準備することができ,保全作業はより効率的に行うことができる。

「Netilion Health」は,これらのデータを利用可能にするデジタルサービスで,アセットの健全性をデータベースに集めて解析することで,設備の情報は静的なアセット情報から,アセットの健全性を予測するための動的なアセット情報へ変化する。これらのデータは,第2のチャネルを使用してデータベースに接続するので,PLC/DCSなどの制御系の変更は不要であり,既設制御設備への影響を心配することなく,簡単に改善/改造が可能である。また,デジタルサービスをプロセスデータから分離するので,高いレベルのセキュリティも実現できる。

もう一つの動的なデータである計測値は,制御システムに取り込まれるためクラウドへ送信する必要はないように思われるが,デジタル化された計装機器は,副次変数を備えているものが今では一般的になっている。これらの値は,既存のシステムには取り込まれることがないので,連続値として使われることはなかったが,フィールド機器の持つこれらのデータをクラウド側に送信することで新たな知見も得ることができる。

たとえば,最新のフィールド機器では,計測値だけでなく計測の確からしさを示す指標を備えているものもある(表1)。こうしたデータを活用することによって,付着や腐食といった計測部の変化や泡の発生,動粘度の変化といった計測環境の変化もとらえることができるようになった。


表1 フィールドデバイスの情報の種類/周期/利用者と利用目的


「Netilion Value」のようなデジタルサービスでは,デスクトップPC,スマートフォン,タブレットなどのITツールからこれらのデータへ遠隔からアクセスでき,ユーザ側の各パラメータに対し,しきい値の設定,トレンドデータの確認など,様々なことが簡単にできるようになる。

このように,データを収集することによって新たな知見が得られるとともに,それらを活用することで,保全の効率化,予期せぬダウンタイムの回避といったこれまでの課題に新たな視点で取り組むことが可能となった。

5.ネットワークのセキュリティ

ネットワーク構造とデータの流れを認識することは,セキュリティに関する議論の重要な点である。データの流れは,現場の計測器から始まり,エッジデバイスや接続されたIoTデバイスを経由してクラウドに上がる。クラウドでは,データを集約し,他のデータと関連付けることで,深い洞察を得ることができる。これらのデータは,エンドレスハウザーの他のシステムや,エンジニアリングツール,ERPシステムなどのユーザの環境でも利用できる。

工場とクラウド間の通信チャネルには,当然ながらセキュリティ,プライバシー,コンプライアンスの問題が生じるが,エンドレスハウザーでは,国際的に認められた第三者による以下の評価と認証を受けている。

・ISO 27001:情報セキュリティマネジメント

・ISO 27017:クラウドアプリケーションの情報セキュリティ

・IEC62443:産業用オートメーションおよび制御システムのセキュリティ

このような規格の有効な認証を取得することで,ユーザのデータの転送や収集が保護されていることを保証している。また,エンドレスハウザーは,その保護を維持するために,以下に示す複数の防護措置を講じている。

(1)パスワードの暗号化

ユーザの機密性を確保するために,パスワードはプレーンテキストで保存されることはない。パスワードは常に「bcrypt + salt + pepper」で暗号化され,エンドレスハウザーはそのハッシュ値のみをデータベースに保存している。

(2)OAuth

ソフトウェアの使用中に安全なユーザ識別をサポートするために,トークン化されたプロセスを使用している。ユーザのパスワードは,トークン生成のためだけに送信されるので,スキャミングの試みが複雑になり,安全な認証が保証されている。

(3)暗号化されたチャンネル

Netilionクラウドとの通信は,常に安全で暗号化されたhttps接続を使用している。すべてのペイロードは業界標準に従って暗号化され,クラウドのコンピュータは著名な認証局からの証明書によって認証されている。

(4)利用履歴

ユーザは過去のすべての利用履歴を確認することができる。オンライン・バンキングと同様に,不正行為の可能性やログインの失敗を検出している。

(5)緊急時の計画

最も安全に配慮した環境でもセキュリティインシデントが発生する可能性はある。エンドレスハウザーでは,可能な限り迅速に対応し,影響を受けるすべての関係者に通知して,顧客の認識と安全を維持するための内部プロセスを確立している。

(6)サーバの場所

エンドレスハウザーは,ヨーロッパにあるサーバのみを使用している。欧州の法律と司法権の下,これらのサーバは世界で最も厳しいデータセキュリティ基準で保護されている。

(7)エッジデバイスのセキュリティ

プラントとクラウド間のアクセスポイントであるエッジデバイスは,フィールド機器のデータのみを記録してクラウドへ送信する。また,FieldEdgeデバイスは,インターネットからのすべての受信ポートをブロックしている。もし,エッジデバイスのファームウェアアップデートやフィールド機器へデータの書き込みが必要になった場合は,ユーザの承認とアーカイブ用のドキュメントが必要となり,それらは照合される。このようにIEC 62443の要件に基づき,当初からFieldEdgeデバイスは開発されている。

6.まとめ

すでに設備にあるアセットをIoTプラットフォーム化するには,FieldEdgeのようなエッジデバイスを活用することで,制御設備の更新や改造なしに実現できる。また収集したデータは,そのほかのプラントにあるデータと組み合わせることで,運用している製造設備の競争力をより高めることも可能になる。(図4)


図4 IIoTアプリケーション向けデータサービスプログラム


エンドレスハウザーでは「Netilion」と呼ぶ,多様なデジタルサービスを提供している。

・Netilion Analysis:すべてのデバイスを種類別,ベンダ別に管理し,陳腐化管理に最適

・Netilion Library:デバイス関連作業ファイルとドキュメントを保存および整理

・Netilion Health:機器の健全性ステータスを可視化

・Netilion Value:機器の計測値をWebで監視

・Netilion Connect:NetilionのデータをAPIを使って顧客既設システムに統合

これらのサービスは,15台までのアセット管理であるならば,無料で利用できる。フィールドデバイスのデータ活用やクラウドによるデータ管理や分析にご興味があれば,「Netilion」と検索してぜひ試して頂きたい。

注)

*1)NAMUR は「プロセス産業における自動化技術のユーザ協会」で,1949年に設立された。自動化技術に関する数多くの提言を行い,標準化技術にも多くの影響を与えている。



エンドレスハウザージャパン 小 川 修 一

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