【プロセス分析機器】
新たな洗浄装置による 光学式溶存酸素計のメンテナンス負荷低減
1.はじめに
水中に溶け込んでいる酸素を溶存酸素(DO:Dissolved Oxygen)と呼び,水温やpH,ORPなどと同じく排水処理の管理,制御指標となっている。排水処理の内,生物学的に汚水を浄化する処理法として活性汚泥法がある。同法では処理槽中の溶存酸素量を変化させることで活性汚泥中の微生物の活動状態を制御し,排水中の有機物と栄養塩を除去して排水を浄化することから溶存酸素は特に重要な指標となっている。
溶存酸素の測定方法には工場排水試験方法(JIS K0102)で隔膜電極法や光学式センサ法が示され,連続測定する溶存酸素計もそれぞれガルバニ式や光学式がある。従来から使用されているガルバニ式と比べて光学式は,測定対象の流速の影響を受けないことやドリフトが小さく長期間安定して測定できるといった特長があり,海外メーカを中心に販売されている。
弊社では自社開発した国内生産品を2011年より販売,主に下水処理場の活性汚泥法による下水の浄化が行われる反応槽に採用されている(写真1,表1)。
プロセス制御に使用される場合,計測器は安定計測を求められるが,測定方式に関わらず溶存酸素計の検出器(センサ)は処理槽に直接かつ連続的に浸漬することから,溶存酸素を検出する部分の汚れによる測定値への影響を軽減する必要がある。
汚れの付き方は水質や検出部の材質などにより様々であり,各計測器メーカで種々の洗浄装置が用意されているが,今回,弊社では新しい洗浄装置として気液混合型洗浄装置を開発した。従来の圧縮空気によるエア洗浄装置と比べて良好な洗浄効果が得られたので測定事例とともに紹介する。
2.測定原理
光学式溶存酸素計の測定部の模式図を図1に示す。測定対象に接液する部分に蛍光物質を含有する酸素検出膜,蛍光物質を発光させる励起光源,発光を受光する受光素子から構成される。酸素検出膜の発光反応は接液する測定対象の酸素濃度により変化し,酸素が少ないと強く長く,酸素が多いほど弱く短く発光する。発光強度は酸素濃度だけでなく,酸素検出膜の状態や励起光量の変化など酸素濃度以外に影響を受ける要素が多いことから,当社では発光時間から酸素濃度を測定する方法を採用している(図2)。
なお,酸素検出膜は消耗品のため,検出膜ホルダで保持する形で検出器から簡便に交換できる構造となっている(写真2)。
3.下水処理場での洗浄装置の適用事例
溶存酸素計の検出器は,一般的に写真3に示すような検出器ホルダを用いて反応槽に浸漬される。長期間測定対象に浸漬使用すると,水質によっては検出部に汚れが付着,堆積する。このような場合,定期的に手清掃するか,洗浄装置を導入することになる。
写真3 溶存酸素計の設置状態ここで圧縮空気によるエア洗浄の適用例を図3に示す。エア洗浄装置は専用のエアポンプを用いて圧縮空気を洗浄ノズルに供給する。変換器より電源を供給して動作をコントロールすることができる。洗浄ノズルから吐出した圧縮空気が酸素検出膜近傍の汚れを除去することで,手清掃不要で安定した溶存酸素の連続測定ができるようになる。
しかし,測定する水質によってはエア洗浄では除去しきれないことがある。光学式では酸素検出膜が汚れで覆われると測定対象に直接触れることができず,また,堆積している汚泥内で酸素が消費されることから検知する酸素濃度が減少して適切な測定ができなくなる(図4)。このような場合,より洗浄力の高い水洗浄を適用することで改善する可能性があるが,洗浄装置近傍に水源が必要であり,無い場合は水配管の敷設など導入費用が嵩むことがある。
そこで,施設側の改造がほとんど不要なエア洗浄装置の洗浄力向上を検討した。
4.新たな洗浄装置
エア洗浄装置はノズルと洗浄部分の距離を短くしたり,エアポンプの能力を高めたりすることで洗浄力は向上するが,構造的に取り付けられなかったり,大きなコスト増になったりすることから,測定対象の試料水を圧縮空気で押し出して検出部に吹き付ける構造を付加することで洗浄力の向上を図った。
4.1 新洗浄装置の構造
新洗浄装置は,試料水を洗浄水として利用するために試料水を一時的に貯えるタンク部分を有する(写真4)。また,効率よくタンクに試料水を取り込むための切換弁をエアポンプ構造に付加している。
洗浄動作手順は,①タンクに貯えられた試料水はエアポンプの圧縮空気により洗浄ノズルから吐出して検出部を洗浄する,②試料水が尽きた後は続けて圧縮空気による洗浄が継続する,③設定された時間の洗浄が終了後,切換弁がタンクとエアポンプ間の管路を大気開放して水圧によりタンク内に再度試料水を取り込む。
これを1サイクルとして,光学式溶存酸素計の変換器からの制御信号によりこれを任意の時間で繰り返すことができる。液体と気体とで洗浄することから気液混合型洗浄装置とした(特許6449130)。
4.2 気液混合型洗浄装置の洗浄効果
図3の従来のエア洗浄装置では2週間ほどで汚れの影響が出た現場(図4)で気液混合型洗浄装置を使用したところ,約2ヵ月間,汚れの影響なく連続測定することができた(図5)。これにより検出器の手清掃の周期を延長することができることを確認できた。
5.下水処理場反応槽での測定事例
公共下水A処理場(標準活性汚泥法)の反応槽に気液混合型洗浄装置を実装した光学式溶存酸素計を設置して,長期間の連続測定でメンテナンス負荷を軽減することができるか検証した。実証試験の条件を表2に示す。
気液混合型洗浄装置を実装した光学式溶存酸素計は,期間の途中で手清掃を必要とせず約7ヵ月間連続測定することができた(図7)。また,酸素検出膜に測定に影響するような傷や汚れはなく,期間の初期と最後でゼロ点,スパン出力を確認したがそれぞれ機器の再現性精度の範囲内であった(表3)。
6.おわりに
光学式溶存酸素計の特長である低ドリフト性と気液混合型洗浄装置による洗浄力向上により,長期間安定した測定とともにメンテナンス負荷を軽減できることを実証できた。本稿で紹介した気液混合型洗浄装置はユーザ施設側の改造を必要とせず,既設のエア洗浄装置を工夫することで強力な洗浄力を得ることができる。
これからもフィールド事例から安定計測,メンテナンス負荷低減を意図したプロセス計測器および周辺機器の開発を通して,ユーザ各位の施設の維持管理にお役に立てる商品開発をしていきたいと考える。